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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第三章

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第五二話 お誘い

 ちょっといいかと声をかけられ三人が振り返ると、そこには十二人のプレイヤーたちが揃って立っていた。

 人数的には二パーティ分のフルメンバーだが五人、四人、三人で固まっているところを見るに、おそらく三パーティが集まっているのだろうとブラットとHIMAは察する。

 特に剣呑な雰囲気もないので、一応はリーダーということになっているブラットが代表して応対することに。



「いいけど、どういった用事?」

「君らって、あっちの方角から来てたよな?」



 顔が描かれない四本腕の男性型マネキンに、悪魔の翼を生やしたパペットデーモンと呼ばれる種族のプレイヤーの男性が、まさにブラットたちが来たマップで言うと東の方角を右側両方の人差指で指し示す。

 入ったところを見てからずっとつけていた、もしくは待っていたのかと若干警戒をにじませながらブラットは頷いた。



「ああ、確かにオレたちはあっちからきたけど、それがどうかしたのか?」

「いや実は俺たち──ああ、すまん、自己紹介すらしてなかった。

 俺の名前は『マイキー』、『パペットモンスター』っていうこのパーティのリーダーだ。

 それで向こうにいるサソリ男は『ヤブレカブレ』、『微笑みの甲殻』のリーダー。

 あっちのメイド服を来たカンガルーが『ルールゥ』、『Zooooo(ズーーー)!』のリーダーをしてる」



 マイキーが五人組のパーティのリーダー。ヤブレカブレは四人組のリーダー。ルールゥは三人組のリーダーだと紹介される。

 全員一番上でも三次進化程度までしか進んでいないので、だいたいブラットたちと同レベルのパーティだと思っていい。



「でだ。もともと俺たちは別に親しかったわけではないんだが、共通の目的をもってこうして集まってる。ずばり言うが、俺たちと組まないか?」

「組むっていうと、君らと一緒に行動するってこと?」



 仲良し三人で参加したイベントなので、それは嫌だなと思いながらブラットがそう返すと首を横に振られた。



「いや、そこまで仲良くやろうって話じゃない。

 マップの情報なんかを定期的に交換し合って、効率よくイベントマップを探索しようって意味だ」



 今いる島を中心に『パペットモンスター』は北側、『微笑みの甲殻』は南側、『Zooooo!』は西側……がそれぞれの初期位置だった。

 なので少なくとも、ここにブラットたち『Ash red』の東側の情報が加われば、このポータルのある大きな島を中心に東西南北の地図を埋められる。



「それとだ。気味悪がらせるかもしれないが、俺たちは東側からきたプレイヤーたちの船を降りてからの行動を観察して、今回のイベントのガチ勢かエンジョイ勢かを見極めてた。君らが市でガチで遠征の準備をしてたのも確認してる。

 そこで本気で今回のイベントをやるつもりなんだって俺たちは判断したんだが…………違うか?」

「まあガチかどうかは人それぞれだけど、少なくともオレたちは本気でイベントを楽しもうとは考えてる」

「ああ、俺たちも全力でこのイベントを楽しもうとしてる。

 ってことは、もうこのイベントにおける四つの危険についても知ってるか?」

「もちろん。日記も確認したからな」

「なら話が早い。絶対にそれ怪しいよな? なんかあるよな?」

「怪しいし、何かありそうな気配はすっごいするな」

「となれば探ってみたいよな?」

「探ってみたいな」

「けど俺たちはまだそれらがどこにいるのか、どこにあるのかも全く知らない」

「そりゃはじまったばっかだし、これから探すつもりだったわけだし」



 ブラットの言葉にマイキーのマネキン頭もうんうんと大きく縦に揺れる。

 マイキーはのっぺらぼうな顔なので表情がなく読み取れないが、体全体を使ったリアクションが大きく、声の抑揚もしっかりしているので、どういう感情なのか意外とわかりやすい。

 今も右側の二本の腕を舞台役者のように大きく動かして、人差指を二本立ててこれから話すことを強調する。



「そこで、この同盟の本題だ。このまま東西南北に分かれて探索しあって、その四つを見つけたら報告し合う。

 もちろん他にも報告したいことがあったり、探してほしいことがあったら相談って感じだ」

「探索する方角は決まってくるけど、基本はそれぞれ自由に行動ってことか」

「まあ探索も目安であって絶対じゃない。そのときその必要があるのなら、目くじらを立てて『そこはお前らの担当じゃないだろ!』なんて怒るような同盟でもない。

 この同盟で絶対に守ってほしいのは二つだけ。危険だと言われている四つの存在どれかを見つけたら、その場所だけは必ず報告。

 それ以外の情報は黙っているのはいいが、嘘の情報を同盟内に流すことだけは絶対に厳禁。これだけだ」

「なるほど。言い方は悪いかもだけど、互いに軽い気持ちで利用し合おうってことでOK」

「いいね! その通り! これは決められた情報以外言わなくていい、抜け駆け上等な同盟。騙すのだけはなしだが、互いに利用し合ってイベントを効率的にしゃぶり尽くそうって魂胆だ。

 どうだ乗ってみないか? もう似たような考えで組んでるパーティも、ちょこちょこ出てきてるみたいだが」



 ブラットとしても悪くないと思った。それはHIMAも同感のようで、視線だけで「いいんじゃない?」と返してくれる。

 しゃちたんもゲーム初心者ながら、デメリットもないと判断しスライムボディを細長くして上の方をペコペコ折り曲げ頷くようなアクションを示している。


 互いに頼り過ぎず、最低限の情報交換のみ。もしかしたら方角の引きが悪く、他の三パーティより不利益を被ることもあるかもしれないが、それはどこも同じ条件だ。

 何か隠し要素がありそうな四つの危険を見つけてもそこで終わりではなく、さらにその先を探っていかなければならないことを考えると、できるだけ早く場所だけでも特定しておくべきだろう。

 ゲーム内時間がかなり伸ばされていると言っても、開催期間には限りがあるのだから。



「わかった。オレたちもその同盟に参加するよ」

「おお! そうか! ありがとう!

 いやぁ、なかなか同じくらいの力量差で、なおかつ信頼できそうで本気度の高いプレイヤーを探すのは骨だったけど粘ってよかった」

「こっちこそ、誘ってくれてありがとう」



 彼らがこちらに不利益な情報を流して~なんてことも絶対にないとは言い切れないが、そんなことをしてなんの利益も彼らにはないし、その誤情報だけでイベントが台無しになるほど深く関わるつもりもない。

 これくらいの軽い同盟なら組んでおいて損はないはずだ。


 そう考えたブラットは彼らの同盟に四つ目のパーティとして参加することを決め、互いのリーダー同士でフレンド登録もしていつでもやり取りできるようにしておいた。 

 もちろんその登録も不要なら同盟解消後、もしくはイベント終了後に消してしまってもいいと互いに言いながら。



「よっし、そうと決まれば地図を合わせていこう!

 最初の宝の地図が示した場所で手に入れた地図があるだろ?

 それを同期させれば四つの地図情報が表示されるようになるぞ」

「紙みたいな質感なのに多機能な地図だなぁ」

「あははっ、ゲームでそういうことは言いっこなしよ」

「それもそうだな」



 メイド服カンガルーのルールゥともそんな軽いやり取りをしながら、ブラットたちはこの島の周辺情報を一気に更新することに成功した。



「それじゃあ、さっそくどの方角を行くかだが希望はあるか?」

「別段こっちがいいというのはないが、来た道を戻るより行ったことのない方角を俺たちは進みたい」



 マイキーの問いかけに、サソリ男のヤブレカブレがそう答えた。

 特に目立った情報のない今、どこに行くのがいいのかなんて何もわからないのだから、自分たちが見ていない方角に進みたいと思うのも無理はない。

 ブラットたちやパペットモンスター、Zooooo!のメンバーも特に反対する理由もなく、それぞれ来た方向とは真逆、北からきたならそのまま南に、東からきたのならそのまま西に抜けていくといったような方角を探索することに決まった。



「ってことは、オレたちは西に行けばいいわけだな」

「ああ、そっちはよろしくな!」

「そっちも南の探索は任せた」



 軽い同盟と言っていたのを体現するかのように、それだけ決まると無駄話もほとんどなく、それぞれの目的をもってパーティごとに散っていく。

 ブラットたちも当初の目的通り、最後にもう一度市場で必要そうなものを見繕ってから船に乗り込む。



「にしても行動を見てるだけで、イベントを本気でやるかどうかなんて分かるもんなの?

 それに同盟を組んでも大丈夫な相手かどうかとかもさ」

「そりゃあ、ある程度は分かるとは思うけど、一番はオレたちがそこそこ有名なプレイヤーだったからってのもあると思う」

「だねぇ。こっちの名前を聞いても何の反応もなかったけど、知らないっていう感じでもなかったし。

 たぶん有名なプレイヤーだと悪評が広がるのも早いから、裏切りにくいって考えられたんじゃないかな」

「え? 私らってそんなに有名なの?」

「そりゃあHIMAは有名クランの中でも主力メンバーだし、オレはまあ進化種的に珍しいし、しゃちたんも新種だから最近話題になってたから。しゃちたんは普通の掲示板とか見てない?」

「私は攻略系の情報しか見てないから、周りの評判とかよく分かんないや」



 ブラットももともとはそんな感じだったのだが、モドキ種の進化で有名になりすぎたせいで、自衛も兼ねてある程度気にするようになっていた。



「まあ気にしたところで何があるってもんでもないから、それでもいいけどね。

 それじゃあ、私らはこのまま西に向かってレッツゴー」

「「ゴー!」」



 運転は私に任せて!とばかりに、しゃちたんがスルスルスル~と船を滑るように移動して操舵室に乗り込み、船がゆっくりと動きはじめる。



「操舵性とかも高めていったほうがいいかな?」

「急停止にバックとかもできるようになるみたいだしね。自動運転とかもあるみたいだけど」

「細かい動きができたほうが、いざというとき便利かもしれないしなぁ」



 前にしか進めないために方向を変えるときも大きく回る必要がある現状を見て、小回りの重要性も頭に思い浮かぶ。

 危険に飛び込もうと思うのなら、あらゆる出来事に対応できなければダメだろう。



「このまま真っすぐでいいー?」

「「いいよー!」」



 ブラットたちの担当である西に向けて、しゃちたんはアクセルを目一杯押した。




 ポータルの島から離れると、だんだんと他プレイヤーの船も減っていく。

 そうなると敵船が取られる機会も減っていき、モンスター海賊たちとの遭遇率も上がってきた。

 最初に出てきた海賊よりも強くなっていたゴブリン海賊団を二回ほど倒し、その物資も貰って船の強度を一段階上げたところで新たな敵影が。


 海賊旗には猫の頭のマークが描かれていることから、明らかにゴブリンではない。

 向こうもすでにこちらを捕捉し向かってきている。逃げる気はなかったが、船足はかなり速くどのみち戦闘は避けられない様子。

 いざというとき直ぐに動かせるようアンカーで固定はせずに、運転を止めて既に臨戦態勢のブラットとHIMAの横にしゃちたんも並ぶ。


 相手の船はゴブリン船よりも立派なのが、近付くほどによくわかる。

 敵の船長は立派な海賊帽をかぶった大柄な人型のブチ猫で、肉切り包丁を両手に持った人相の悪いモンスター『デスキャットマン』。

 お供は水兵帽をかぶった小柄な人型黒猫の『ワーキャット』が三体、ラッパ銃を模した魔法銃を持った茶色の『ワーキャット・シューター』が二体。

 さらに一メートルほどで四足歩行の通常猫型をした、青い毛並みの『フロストキャット』が五体。合計十一体もの大所帯だ。


 やつらは身軽で船を横付けするとすぐに先兵の『フロストキャット』が、梯子や板すら掛けずにそのままジャンプで飛び乗ってこようとする。



「【雷壁】!」



 だがそうはさせないとブラットが雷魔法による雷撃の壁を船と船の間に展開し、それに阻まれた二体はダメージを負いながら海に落ちる。



「【焔突き】【二連】!」「【雷撃】!」



 残りの三体も炎をまとったHIMAの槍での連撃突きで二体、しゃちたんの雷撃で一体が同じような末路をたどる。

 だがその間に梯子を二つかけられ、他の個体がそこからこちらの船に押し寄せてくる。



「「ニャーー!!」」

「あーーーーー!? 私らの船に何すんの!」



 そちらに目を奪われている間に、後方からワーキャット・シューター二体による銃撃が放たれ、それがこちらの船に当たって黒く焦げ跡を残し、さらに構えて次の魔法の弾を打ち込もうとしてきた。

 この船に一番愛着を持っていたしゃちたんが、これに怒り前に出る。



「【ミラーリフレクト】!!」



 しゃちたんのオーロラのような虹色の体が鏡面のようにつるつるになり、銃弾前に飛び出してその身で受ければ、魔法の弾丸は明後日の方角へと弾き返された。

 プレイヤースキルがもっと高ければ反射でそのまま敵に返すこともできるのだが、種族スキルで覚えて間もないのもあって、まだその域には達していない。



「船は私が守るから、二人は向こうに乗り込んでボスとあのうざいやつらをやっちゃって!」

「「了解!」」



 ブラットとHIMAは梯子からやってくるワーキャットを蹴散らし海に突き落とすと、そのまま相手の船へと乗り込んでいく。

 最初に落とされたフロストキャットが爪をひっかけ船をよじ登ってくるが、それはしゃちたんが体当たりや魔法で突き落として登らせない。ワーキャットも同様にだ。

 その上でブラットたちに気を取られて数は減ったが撃ち込まれる銃弾も、全て弾き飛ばして鉄壁の守りを見せてくれた。



「HIMAはボスの相手を頼む! オレは後ろの二体を先にやる!」

「任せて!」



 デスキャットマンがブラットを迎撃しようと右手の肉切り包丁を振り下ろすが、HIMAが槍で受け止め左手の肉切り包丁も柄で弾く。

 その隙にブラットはさっさとデスキャットマンの横をすり抜け、後ろでチマチマと撃ってくる銃使いに肉薄した。



「「ニャグルゥゥオオ!!」」



 ショットガンのような拡散弾を近距離で撃ってくるが、その前に逃げスキルによってブラットは後ろに回り込み【テールフリック】で一体を尻尾で転ばせ、もう一体は【魔刃断頭】で大ダメージをお見舞いしてから追撃で【根源なる捕食】を使い止めを刺した。


 だが止めを刺している間に、転ばせたはずの一体が身軽に前転しながら起き上がり、ブラットから距離を取ってくる。

 また銃で撃ってくる気なら躱してやると、ブラットはそれを追いかける。



「させる──って、ん?」

「ピーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 銃撃が来るかと思っていたのに、残った銃使いがやったのはどこからともなく出した猫の肉球マークが付いた可愛らしいホイッスルを鳴らすこと。

 一体何をしているんだと思いながらも、一気に近づきそのまま止めを刺した。



「よし、こっちは終わった。HIMA、手伝う!」

「うん、コイツ意外と強いよ」



 こんな序盤で疲れるわけにはいかないと省エネで戦闘しているせいもあるが、デスキャットマンはホブゴブリン船長などとは比較にならないほど器用に二本の包丁を振ってHIMAと渡り合っていた。

 だが二人がかりならば敵ではない──そう思っていたのだが、しゃちたんの声が自分たちの船の方から響き渡ってくる。



「二人とも! 増援が来てる! 三隻も!!」

「「はぁ!?」」



 デスキャットマンに気を付けながらも海の方をちらりと確認してみれば、先ほどと同じ猫の頭マークの帆を広げた海賊船が三隻もこちらに向かってきていた。

 あんな大きな物体が近づいてきていれば戦闘中であろうともっと前に気が付けたはずなのだが、実際にそこにある。



「さっきの笛か!!」

「増援の笛だったってわけね……。面倒だなぁ」



 そう。あの笛を吹いたことで、新たにそこに船ごと出現(ポップ)したのだ。増援の笛とHIMAは称したが、あれはもう召喚の笛と言って差し支えない代物だった。



「「はぁああっ!」」

「ギャゥルッ! ギャルルルルル!」



 二人は掛け声もなしに同時に攻撃に打って出る。あれらが来る前にこいつを仕留めておかなければ、本当に危ないからだ。

 全力でデスキャットマンを叩き潰し、船に乗り込もうと足掻いていた連中もしゃちたんが倒してくれて態勢を整えるが、もう敵はすぐそこだ。



「今度はさっきの三倍みたいだな」

「増援は弱くなってるかもと思ってたけど、まったく同じ構成とかほんと笑える……」

「もー! 私たちの船が傷だらけになっちゃうじゃん!」



 文句は言っても敵は待ってくれない。

 結局この後三人で多勢に無勢の中でギリギリの攻防を繰り返し、何とか自分たちの命と船は守り抜いた。

 ただし船は、半壊と言っていいほどに壊されてしまったのだが……。



「うぅ……船ちゃん……こんなになっちゃって。ごめんねぇ……」

「まあまあ、あいつらの船も手に入ったし、それを使ってピカピカに直そうな」

「そうそう、それどころかもっと強くしちゃおうね」

「うん……そうしよう!」

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