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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第二章

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第四〇話 新装備依頼

 目に見えてしょんぼりしてしまったので、話題を変えようとブラットが話を振ってみた。



「ところでオレはここがビアバレルさんの店だって聞いてきたんだけど、そのわりには何も置いてないよな。

 全部オーダーメイドなのか? 作業スペースもないみたいだけど」

「ああ、ここは応接室みたいなもんで、お客の面談や装備品の相談なんかを請け負う場所だからね。

 作業場と品が置いてあるのは、あの扉の向こうだよ」

「え、けどあれは裏口じゃないの?」



 外から見た限り小さ目な一軒家だったので、一階の面積は今見えている範囲で全てのはずだ。

 だから裏手にある扉は、裏口だろうとしゃちたんは思ったようだが、ブラットとHIMAはそれだけでどういうことか理解できた。



「あそこの扉と課金拠点と繋げてるのか」

「うん、そうだよ。中にはお客から受け取った重要な素材もあるから、万が一もないように用意したんだ。

 とはいえ、鍵さえケチらなきゃそうそう泥棒に入られることもないんだけど根が小心者でね」



 課金要素の一つに、BMO内の拠点の扉と課金拠点の扉を繋げて簡易ワープゲートにする【コネクトゲート】という課金アイテムがある。

 それによって、あの裏口の扉は彼の課金拠点ともいえる本店に行けるように設定してあった。

 彼が許可をしなければ課金拠点の中の物は一切持ち出しできないので、防犯対策としてこれ以上のものはない。

 店の内装も課金拠点の方が手軽に豪華にお洒落に装飾できたりもするので、社会人の生産職プレイヤーがよく使っている手法でもある。



「そっか、BMOってそんなのもあるんだ」

「使って見るとストレスフリーでいいんだよ。ドアや窓を開けっぱなしで出かけられるし」

「まあ宝くじ一等レベルの確率とはいえ、【盗賊王】なんてイベントが発生することだってあるしね」

「盗賊王? なにそれ?」

「絶対鍵あけちゃうマンだな。どんなに高級で複雑な鍵でも開けて、家の中の物を盗んでいくっていうNPCがいるんだよ」

「なにそれ、最悪じゃん」

「でも戦闘は生産職でも勝てるくらい弱いし、逃げ足は結構速いけど捕まえるともの凄い報奨金が国から支払われるから美味しいイベントでもあるんだよ」

「へぇ」



 ただし確率は極小も極小で、実際にイベントが起きたプレイヤーは五人もいないと言われている超レアイベントである。

 その内の一人がイベントの全貌を動画に収めることに偶然成功し、それを公開したことで実際にあるイベントだということだけは、ほとんどのプレイヤーが知っている。



「と、話がそれちゃったね。とりあえず話を進めようか。

 装備品を作ってほしいということだけど、二人に要望はあるかい?」

「オレは胸当てみたいな軽くて動きやすいけど、心臓は守れそうな頑丈な防具が欲しい。

 あともしも他に作れそうなら、魔法攻撃力が上がるような何かもあったら嬉しい」



 マントは衣装扱いでダメだったが、装備なら衣装とも合わせられるので零世界でもちゃんと使える。



「私は可愛いティアラがいいな。魔法触媒? っていうのになってるやつ。他の人が付けてるの見て羨ましかったんだ」

「ふむふむ……軽くて動きやすい防具にMAT系装備、魔法触媒になるティアラね。

 これを使ってほしいっていう持ち込み素材とかはある?

 あるならその分もさらに値引きは可能だけど」

「一応使えるかどうかわからないけど色々と持ってきた」

「私も」

「ちょっと見せてもらえる? 混ざっちゃいけないから、まずはブラットさんから」

「分かった」



 【肥醜鬼・精鋭戦士の戦鎚】【肥醜鬼・精鋭戦士の瞳】【肥醜鬼・精鋭戦士の頭蓋骨】【毒蜥蜴王の鱗】【変異怖霊の盾片】【変異怖霊の魂片】【怒蟷螂の右鎌】【怒蟷螂の目玉】【怒蟷螂の翅】……などなど、これまで手に入れてきたボス級の素材や、何かの足しになるかもしれないと持ってきたモブモンスターたちの素材。

 さらに情報料としてはるるんに貰った、稀少素材【月光樹の枝】も取り出した。



「けっこうたくさん持ってきてくれたんだね。どれどれ~~【素材鑑定】」



 鍛冶師御用達のスキルで一つずつ丁寧に調べていき、ブラットの要望で使えそうなもの、一緒に使うと相乗効果を生み出しそうな物をピックアップしていく。



「【毒蜥蜴王の鱗】と【変異怖霊の盾片】のどちらかをメインにした、軽い胸当てが作れそうだね。

 前者は防御が特に高くてトータル的にも性能が良い物に、後者はトータルで性能は劣る代わりに、とっても軽くて魔法防御だけは上って感じのものになると思うけど、どっちがいい?」

「軽さの違いって結構違うのか?」

「非力な種族だと気になるかなってくらいの違いかな。

 普通に前衛で戦える程度の力があるなら大して気にならないと思う」

「うーん……なら【毒蜥蜴王の鱗】がいいかな」



 魔法防御だけが分厚いよりも、全体的に厚くしたほうがあらゆる状況に対応できる。

 とにかく死亡率を減らしたいブラットは前者を選択した。

 【毒蜥蜴王の鱗】と、それと相性がいいという素材もビアバレルに渡していく。



「あとは魔法攻撃力を上げたいって話だけど、普段はどんな魔法を使ってる?」

「今のところ【魔刃】での近接魔法がメインだな。

 最近、雷系の職業を覚えたから、そっちも使うようになるかもしれないけど、基本的に前に出て戦うのは変わらないと思う」

「ああ、昨日の動画で言ってた秘伝書の効果だね」

「そうそれ」

「いいなぁ……」



 HIMAが羨ましそうにブラットとしゃちたんを見てくるが、どうしてあげることもできないのでスルーする。



「今はどんな魔法触媒を?」

「オレは特性のおかげで、この腕自体が杖の代わりになるから特に持ってないよ」

「また珍しい特性だねぇ!」



 また目をキラキラとさせ、ビアバレルに体操服の袖から伸びる二の腕や手の先をチラチラと観察された。

 だがただ欲望のままに観察していただけではなく、ちゃんと鍛冶師の視点からも鑑定していたようだ。



「うん、本当に杖になってるんだね。ならこれ──【月光樹の枝】をメインに使った腕輪なんてどうだろう。

 その腕なら杖に装着して強化する補助具の仕組みを応用すれば、腕輪でさらに腕の魔法触媒としての性能を上げることができると思うよ」

「おー! それはいいかもしれない! ぜひやってほしい」

「分かった。じゃあ【月光樹の枝】とこれとこれを使おうかな」



 ビアバレルはメインとなる素材に加えて【怒蟷螂の右鎌】や、モブモンスターの雑多な素材をいくつかピックアップしていった。



「それで……その二つを作った場合、値段はどれくらいに……?」

「うーん、持ち込み素材をメインに使わせてもらうし、作ってみないと正確な査定はできないけど、ブラットさんの写真が撮れるなら正直タダでもいいよ」

「それはさすがに……」



 タダの方がありがたいに決まっているが、さすがにそこまでがめつくはなれなかった。



「なら大幅な値引きはするけど、いくらかは請求させてもらうって感じにするね。

 支払いは有る時払いの催促なしでいいからさ」

「まじか……」

「まじまじ」



 かなり破格の待遇でアイテム作成依頼が通ってしまった。

 その後、しゃちたんも同じように交渉が進んでいき、彼女の場合はできるだけ見た目もかわいく、かわいくなるなら多少性能が下がってもやむなしと凄い注文をしていた。

 そちらも持ち込んだ素材のいくつかが使えるというので渡しておいた。



「それじゃあ、撮影は受け取りのときでいいか?」

「ボクはどちらでもいいけど、どうせなら作ったばかりのブラットさんたち専用の装備を付けているところも撮りたいから、その方が都合がいいかな」

「わかった」「りょーかい」



 いつでも連絡が付くよう互いにフレンド登録もしておいた。



「できたらすぐに連絡するね~」



 これから直ぐに作業に取り掛かってくれると言うので、ビアバレルに見送られながら三人はそそくさと店を後にする。

 思っていた以上にとんとん拍子に事が進んだため、大して時間はかからなかった。ということで──。



「せっかくだし、お昼まで三人で一緒に遊ぶか」

「そうだね。私もしゃちたんが戦ってるとこ見てみたいし」

「ふふふ、私の可愛さに見惚れるがいい」

「「はいはい」」

「なんだよー」



 拗ねたようにプルプル震えるキラキラスライムは、確かに可愛らしかった。この人形があったら買ってもいいと思えるくらいに。



「あ、そうだ。じゃあさ、せっかくだし三町から海のほうに行ってみない?

 確か次のイベントって海関連のイベントなんだよね? こっちの海がどんなのか見ときたい。

 それに雷系のスキルを鍛えるには水場のモンスターが一番狩りやすそうだから、鍛えるにも持ってこいだろうし」

「いいね。オレも山の方ばっか行ってて海はまだ未開拓だし」

「ならまた呪いの装備一式借りてきて、弱体化してこようかな。私が戦闘に入っただけで敵が消滅とか嫌でしょ?」

「それは嫌だな」

「うんうん。レベルもスキルも鍛えられないからね、それじゃあ」



 三町から海に行くには、東へ向かい『ミルゴン』の町を経由して港町『ドナナド』に向かうのが一番最短で安全だ。

 ミルゴンへのエリア解放は辻斬りのようにボス狩りしていた頃にブラットは倒していたので、HIMAが弱体化装備を持ってくるのを待ってから、しゃちたんがクエストを受けていざ出発。


 エリアボスはブラットのときは【ハイスケルトン・マジシャン】などという骸骨魔法使いだったが、しゃちたんのクエストで現れたのは【メガボアウルフ】というイノシシの体にオオカミの頭をくっつけたかのような四メートル級のモンスター。

 またもや被らなかったことに喜びながら、ブラットはHIMAとしゃちたんと一緒に狩っていく。


 今回はブラットもHIMAもお互いに分かっていること前提に好き勝手動くのではなく、ゲーム初心者であるしゃちたんにパーティでの戦闘を教える意味もかねてオーソドックスな陣形で戦っていく。


 まずしゃちたんは耐久力が抜群に高いので基本的に『タンク』として前に出てメガボアウルフの足を止め、HIMAは『純アタッカー』としてその間に威力の高い技を決める。

 ブラットは『遊撃』で、隙あらば攻撃をあちこちから当てる。


 しかしブラットの場合は時にしゃちたんの代わりに『回避盾』として、注意を引き付けたりなんてこともできた。

 その間しゃちたんはブラットが『タンク』をこなしてくれているので、『魔法アタッカー』になって後方から雷系攻撃をしたりと、いつもと違うパーティでの連携を意識した戦闘を味わった。



「なんかこういうのも面白いね」

「だろ。んじゃあ、次もサクッと狩っちゃおう」

「「おー」」



 即席とはいえリアルでも仲のいい三人なので、それなりにみられる連携で【メガボアウルフ】を仕留めた後は、そのまま次のエリア解放クエストをブラットとしゃちたん二人分受領して、お目当ての港町【ドナナド】へと足を向けた。


 そちらでは道中の敵もそこそこ歯ごたえがあったが回数を重ねるごとに連携もこなれてきて、戦闘もスムーズになっていく。

 少ない声掛けだけで仲間がどうしたいのか、しゃちたんも分かるようになってきていた。

 その成長を微笑ましくHIMAと二人で見守りながら、ブラットは次のエリアボスはどんなモンスターだろうかと胸を高鳴らせた。



「GIGIIIII」

「アイアンゴーレム・改だね。動きは遅いけど、耐久と一撃が重いから気を付けて」

「私でも受け止められないかな?」

「まだ種族レベルも低いし止めといたほうがいいよ。ってことでブラット、盾役お願いね♪」

「はいよ~。あでも、DOTダメージはああいう攻撃が通りにくそうなのには効果的だろうし、魔法だけじゃなくて接近できそうなら【接着】【溶解】【吸収】【電撃】のコンボを狙ってみてもいいかもな。じゃあ、行ってくる!」



 ブラットにとっては一撃が重かろうと動きがのろければカモでしかない。敵としては戦いやすい部類に入る。

 余裕でクルクルとアイアンゴーレムの周りを動き回って、注意を引き付けておいてくれる。



「なるほど、硬そうなのには継続ダメージでチクチクやった方がいいのか」

「攻撃が通りにくいやつなら、そういうのも意外とバカにならないからね。それじゃあ、私たちもいくよ!」

「おうさ!」



 ブラットが回避しながら攻撃もしつつ、その合間合間でHIMAが攻撃。

 しゃちたんはやや近めの位置取りで魔法攻撃や電撃触手でダメージを稼ぎながら、【粘着】できるタイミングを見計らってはチクチクとアイアンゴーレムのHPを削っていった。



「GI……GIgi……i────」

「はい終わりっと。ドロップ品は~~【純鉄インゴット】に【鉄人形の魔核・改】、【鉄の重鎧】か。鎧はいらないなぁ」

「それ前に試しに着たことあるけど、ものすっごい重いよ。

 防御性能は結構高いんだけど、可動域も他の鎧より狭くて動きにくい。

 タンクでもなきゃ、溶かして売っちまえって言わてるやつ。タンクでもあんまり着けてる人見ないけど……」

「ひぇ~、よかった。私の貴重な三つのドロップ枠には入ってないや」

「おのれ、しゃちたん……」



 試しにブラットも持ち上げてみるが、【鉄の重鎧】は馬鹿げた重さをしていた。

 零世界のボンドにでも着せられないかと思ったが、彼は彼で見かけよりも動ける戦士なので逆に迷惑だろう。それほどに、この鎧は重すぎた。


 【鉄の重鎧】はそのままでは買い叩かれるので、売却するならどこかで鋳つぶしてインゴットにしたほうが売れるアイテムと、アイアンゴーレムの中ではハズレアイテム扱いされている代物だ。

 今回のブラットの引きは悪かったと言えよう。


 とはいえエリアボスは倒して港町が解放された。

 ここまでくると潮風が漂い、波音も微かに耳に届いてくる。


 BMOでの海は初めてなブラットとしゃちたんは、意気揚々と『ドナナド』へと入町しポータルを登録した。



「それじゃあ、海に行ってみ──ん? お知らせが来たな。なんだろ」

「「ほんとだ」」



 また鈴木小太郎からかと思ったが、HIMAたちも来ているのならBMOからの全体に向けての情報だ。

 なんだろうと三人がお知らせを開くと、次の期間限定イベントの開催日時と詳しい内容が記載されていた。



「ついに日にちが公開されたんだ。ふむふむ…………今回はプレイヤーたちは海賊狩りしてポイント稼いだり、お宝ゲットしたりって感じか。面白そうじゃん」

「これさ、PVPとPVEって二つのモードが選べるみたいだけど、これってどういう意味なの?」

「PVPは、プレイヤーVSプレイヤー。PVEは、プレイヤーVSエネミー。

 プレイヤー同士の戦いにするか、NPCの敵とだけ戦うかって意味だよ。

 ちなみにPVPは取得ポイントが段違いに高いけど、魔境だから初心者とかは絶対にやめておいた方がいいからね」

「下手したらポイント稼ぎのカモにされるからな。

 前のイベントだったかで、知らないのに説明も読まずにPVPで行ったプレイヤーが、復活するたびに延々と色んなプレイヤーに狩られてる動画とか見たことある」

「こっわ。絶対やらんわ、そんなの。PVEサイコー。

 で、ブラットはどうするの?」

「オレもPVEかな。今はできるだけ色んなものを集めておきたいし、自分で言うのもなんだけど注目度も高いから絶対に標的にされてまともにプレイできないと思うから。

 さすがにまだPVPに意気揚々と挑めるプレイヤーたち相手じゃ手も足も出ない」

「うん、私もそっちのほうがいいと思うよ」



 今回のPVEイベントではプレイヤーに船が一つ支給され(パーティでの参加の場合はパーティで一つ)、その船で海を漂いながらモンスターたちが扮する海賊を探して倒し、ポイントを稼いだり海賊船の物資で船を強化していったり、お宝をゲットしたりと海上戦がメインのイベントとなっているようだ。

 PVPの場合は、海賊モンスターに加えて他プレイヤーたちも標的になる。



「ねぇ、だったらブラット、今回のイベントは私とパーティ組まない?」

「しゃちたんと? うん、まあ一次進化同士だしバランスはとれてるか。それに一人でやるより楽しそうだ」

「え!? ずるい! だったら私もブラットと組むもん!!」

「HIMAはクランの子たちと出なくていいのか?

 そっちの方が絶対にポイントも稼ぎやすいぞ?」

「うちは基本的に自由だから大丈夫。未参加ってなると、さすがに事情がないと怒られそうだけど、友達と遊ぶなら全然問題ないよ」

「でも私たちと強さが違いすぎない?」

「それは大丈夫だぞ、しゃちたん。

 期間限定イベントの場合は、離れ過ぎた進化種のプレイヤーがパーティにいた場合、呪い装備なんてつけなくても弱体化する仕様になってるから」

「キャリーを防ぐ仕様だね。リアルマネーで買収して、強い人にポイント稼いでもらってたプレイヤーが過去にいたんだよ。

 だから強いパーティに一人だけ弱い子とかが入ってた場合でも、一番弱い子の進化段階に強制的にあわせられちゃうの」



 HIMAの場合、同じレベルの子らと一緒にやった方が圧倒的に効率的なのだが、それでもブラットたちとやりたいと意志は固いようだ。

 ブラットに抱き着いて……ゲーム内の規制で胸の柔らかさなどは一切感じないが、離れようとしなかった。

 ブラットとしても気心の知れた友人たちと、初めてまともに参加できるイベントができるのなら否はない。



「じゃあ今回は、三人でイベントに挑むか!」

「「いえ~~い!!」」

「チーム名はズットモーズでいいか」

「「なにそれダサッ」」

「………………え」

次は火曜更新予定です。

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