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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第二章

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第三九話 ビアバレル

 しゃちたんとその後もしばらく三町周辺で一緒に遊んでから分かれたブラットは、資金稼ぎのクエストや狩りに勤しんだり、微妙に残った時間で見せ拠点の内装を少しだけ進めたりしてから、最後に炎獅子チャレンジをして毎度のごとく倒されログアウトした。



「せっかくだし、秘伝書の情報とかしゃちたんのことも教えてやるか」



 紗千香にも許可を得ているので、新種の進化の件も含めて情報に飢えている兄に教えてあげることにした。

 情報の取り扱いについても、色葉たちよりも治樹の方が慣れているのでその相談もかねて。


 さっそくチャットを開き治樹にメッセージを送る。新しい情報が手に入ったと。

 すると送信後三〇秒もしない間に、返信ではなく電話がかかってきた。



『新しい情報ってのはなんだ? 場合によっては今編集中の動画と差し替えになるかもしれないから、できるだけ手早く教えてくれると助かるんだが』

「えっと、まず私の友達にしゃちたんっていうプレイヤーがいるんだけどね──」



 黒雷ノ秘伝書とセーラスライムについて、治樹に説明していった。



『これまた……新情報ばかりだな』

「やっぱ治兄も知らなかった?」

『ああ、だがある程度推測はできる』

「まじで?」

『まずセーラスライムだが、見た目や特性のセーラスコートなんてものからして、セーラス……ギリシャ語でオーロラを表わす言葉があることからも、オーロラのスライムって意味で名づけられたんだと思う』

「たしかに言われてみれば、それっぽく見えるね」

『でだ。オーロラってのは宇宙で発生した電磁波が関係していて、雷ってのは電磁波を放射していることから、セーラスライムの進化条件は幼年期で『雷』系統の職業を持っていることだったんだと思う。

 元々進化しようとしていた種の前提条件も加味されているんだろうが』

「じゃあやっぱり、秘伝書で職業選択したから進化できたって線でほぼ確定なわけね」

『だな。そして秘伝書の取得条件なんだが……』

「そっちも分かったんだ」

『これも推測だがな。色葉がちゃっかり録画してくれていた大天狗『迅雷』との戦闘映像を見る限りだと、鼻への攻撃がカギだったんだと思う。

 BMO界の天狗にとって鼻ってのは重要な意味を持つらしいし、それがトリガーになっている可能性が高い。

 ほら、しゃちたんの最後の攻撃も鼻に当たってるだろ?』



 色葉は戦闘に必死すぎて気にもしていなかったが、治樹側からその瞬間のスクリーンショットを二枚見せられ確かに鼻に攻撃が当たっていたこと、当てた瞬間に大天狗が動揺していたことを思い出した。



「言われてみれば……。じゃあ、これから欲しい人は鼻を狙って攻撃すればいいのかもね」

『かもしれないが……、たぶん秘伝書の馬鹿げた効果からして、ただ鼻に当てればいいってわけじゃないと思う』

「そうなの?」

『プレイヤーもどんどん成長していってるし、いつかは迅雷の強さに届くようになっていくはずだろ?

 そのときに鼻に攻撃を当てたからと言って、そんなスペシャルアイテムをほいほい全員に配っていくとは考えにくい。

 だとするとだ。そのアイテムの取得条件は、この入門試験のクエスト内で鼻に攻撃を当てること──が厳密な達成条件なんだと思う』

「入門試験に参加できるのは一次進化までだから……うわぁ……、それほぼ無理じゃん。

 私だってもう一回やれって言われても、もう無理だろうし。絶対あの大天狗のAIは学習してるよね」

『だろうな。ブラットという一次進化の状態で職業【合成獣】っていう上級職でもトップレベルに優秀なものを持っていて、素のスペックも他とは段違い。

 まずモドキで進化でもしなけりゃ無理だし、色葉のおかげで同じような手は迅雷には通用しなくなったから、さらに難易度は上がったと考えてもいいかもしれない。

 それでいくと、色葉の友達のしゃちたんは本当に神がかり的な運を持ってるな。

 色葉っていうモドキで進化できる友達がいて、たまたま最後攻撃できる隙があって、たまたまそこに鼻も入っていたって言う』

「あの大天狗が言うには、運も実力の内だってよ?」

『ははっ、違いない。しゃちたんは、これから上手くやっていけば上位プレイヤーに仲間入りも夢じゃないかもしれないな』



 多かれ少なかれ今の強いプレイヤーたちも、なにかしらの幸運に見舞われて今の力を手に入れたという者も多い。

 偶然行ったところで、たまたまやったことが強力な力に繋がることがBMOでは、ままあることなのだから。

 偶然の産物で有用な稀少アイテムを手に入れたのだって、別に色葉たちだけではないのだ。黒雷の秘伝書並みの物はないだろうが……。



『しかし黒雷か……うらやましい。今のプレイヤーでも黒雷系のスキルは、誰も所持していないはずだぞ』

「へぇ、そんなに珍しいスキルだったんだ」

『迅雷みたいな黒雷が使える特別な大天狗に弟子入りすれば、使えるようになるだろうとは言われていたけどな。

 実際に探し求めてる人がそれっぽい情報を天狗のNPCから聞いたっていう噂もあるし、特定のNPCに教えてもらうことで解放される職業も結構あるからな。

 ちなみに分かっているだけでも、黒雷の効果はすさまじいぞ?』

「そうなの? 教えて教えて!」

『属性的には雷なんだが黒雷は何と『雷耐性貫通』『麻痺耐性五割貫通』『怯み耐性七割貫通』『魔法防御二割貫通』……。

 つまり雷に完全な耐性を持っていたとしても何の軽減もなくダメージを受けて、完全な麻痺耐性を持っていても黒雷系の麻痺がある攻撃は五〇%状態異常にかかるし、完全な怯み耐性があっても黒雷系の怯みがある攻撃は七〇%の確率で怯む。

 その上で受ける側は八〇%の魔法防御で耐える必要があるんだ。

 どうだ、ぶっ飛んでるだろ? 敵限定のスキルじゃないかとまで言われてるからな』

「さすがバカ強い大天狗がくれた秘伝書なだけあるわ……」



 だがそうなると、零世界でも黒雷はそれだけの猛威を振るえる力ということでもある。

 それほどともなると乱発はできなさそうだが、それでもほぼどんなモンスターにも通用する奥の手が手に入るというのはかなり大きい。



『とまあ、かなり面白い内容だったのは確かだが、問題はどこまで情報を出すかだ』

「全く出さないってのも、しゃちたんがめんどくさい状況になりそうだしね」

『今ネットをあさったらもう、その子のことが話題になりはじめてるし、変なやつに絡まれる前に先手を打ってある程度好奇心を満足させておいた方がいいだろう。

 俺の同業者の中には話題になりそうなら、他人の迷惑も顧みない過激なやつもいるしな』



 その後、治樹と二人で相談して、どこまで情報を流すか決めていった。

 決まった内容は、入門クエスト中に大天狗『迅雷』の〝鼻〟に攻撃を当てると黒霧衆が所有する秘伝書が貰え、それは受け取ったプレイヤーだけに『雷系職業の取得条件緩和』+『職業枠プラス』の効果を持つアイテムである。


 その秘伝書で某プレイヤーは幼年期にして雷系の職業を覚えたことで、BMOでは久しぶりに幼年期の新種進化が発見されることになった。

 その情報と一緒に、証拠としてブラットとしゃちたんが鼻に攻撃を当てているワンシーンだけを切り取った画像も公開する予定だ。

 あとはセーラスライムという名称と特性が全ダメージ軽減だということ、外見の画像一枚を公開。

 最後にしゃちたん──高田紗千香にも改めて確認を取って、了承を得ておくのも忘れなかった。


 隠す部分としては黒雷について、黒雷に繋がる職業全て取り放題のつけ放題というぶっ壊れアイテムだというところ。

 下の職業から積み上げていかなければいけないという条件は残っているのだから取得条件〝緩和〟というのは嘘ではないし、職業枠が結果としてプラスされているのも嘘じゃない。

 もし誰かが条件を達成、もしくは別の何かで同じものを入手したとしても、治樹や色葉が嘘つき呼ばわりされないよう予防線も張っておいた形だ。


 今日の動画が差し替えになったこともあって、話し合いが終わるとすぐに治樹は動画編集作業に戻っていった。




 その日の夜。色葉は【黒雷の秘伝書】が零世界でどういう扱いになるのか、念のため鈴木小太郎に聞いておくことにした。

 BMOの仕様では秘伝書を手に入れたものは、まったく雷属性に適性がないはずの種──つまり本来であれば絶対に雷系統の職業が解放されるはずのない種であっても無理やり使えるようになるレベルの強制力がある代物だった。

 職業というシステムがない世界ではあるが、もしこれを何かしらの方法で上手く零世界で使えれば、黒雷……とまではいかずとも雷系統の攻撃を向こうの住民に覚えさせることができるのではないかと考えたからだ。

 なにせモドキでは使えないはずの経験値ポーションが使えるというゲームの制限がないのだから、受け取った者限定という制限もなくなるのかもしれない。


 だが色葉が聞こうとする前に、既に運営から……というより鈴木小太郎からメッセージが届いていた。

 BMOのお知らせメッセージだと思って、後で見ようと放置していたので今まで気がついていなかった。

 さっそく中身を確かめてみると、まさに話題に上げようとしていた秘伝書についてだった。


 曰く。秘伝書の効果はあまりにも仕様が持ち運ぶことを一切考慮していない物になっていて、零世界では再現不可能なアイテム扱いになっているくせに、変に世界のシステムに干渉しようとするせいで何が起こるか小太郎にすら予想ができない危険物になってしまっているので、持っていかないでくれとのこと。


 では何故そんなものをゲーム内に入れたのかという色葉の疑問にも、次の文章で解答を得ることができた。

 なんでもそういうアイテムがあることは知っていたし、最終的にGOサインを出したのも自分だという。

 けれどその理由は小太郎自身でさえ「たとえモドキで進化できる人でも、その条件は無理だってww」という、この仕様と条件を設定した運営スタッフと同レベルの楽観的な考えで実装してしまったという。



「いやあのさ……。そういう詰めの甘さがあるから、自分の世界の管理も上手くいかなかったんじゃないの……?」



 今ここでその言葉を小太郎が聞いていたら、精神的に砕け散っていたかもしれない……。


 ちなみに種族的に雷属性に適性がない種だった場合、どんなにこちらでその職業やスキルを鍛えても、向こうでは使えなかったが、幸いブラットの種は、あらゆるものに適性があるので黒雷だろうと向こうで使えるとのこと。

 なのでブラットがこちらで秘伝書を使い倒して、マニュアル操作で完璧にスキルが扱えるようになったのなら、向こうでも同じ感覚で使うことはできるようだ。



「ならまぁ、別にいいかな。黒雷持ち量産とか夢がありそうだったけど」



 さすがにそこまでは甘くないだろうとも思っていたので、色葉は「持っていかないよう、手持ちじゃなくてカバンの隅の方で塩漬けしとく」と返事をしてこの話題を切り上げた。




 翌日は学校もお休みということで、朝からBMOへダイブした色葉。

 さっそくブラットとなって待ち合わせ場所である三町のポータルへと向かうと、既に二人はやってきていた。



「おはよう。皆はやいな」

「おはよう。しゃちたんを早く見たくて急いできちゃった」

「おはよ~。私は我慢できずに朝の四時からもうBMOにインしてた」

「「それは早すぎ……」」



 よほど進化したのと進化先がお気に召したのか、今まで以上にしゃちたんはBMOにのめり込んでいた。

 それに今日もしかしたら安く装備を作ってくれるかもしれないということで、できるだけギリギリまで使えそうな素材集めもしたかったようだ。



「あ、そうだ。しゃちたん、これうちの兄から情報料にって貰ったやつ。貰ってくれる?」

「え? そんなの別にいいのに」

「いいんだって。それで向こうも利益を出してるんだから、これくらい貰ってくれなきゃ逆に心苦しいんだよ」

「そうなの? なら……うん、貰っておこうかな。で、これってなんなの?」



 治樹──はるるんから昨夜のうちに受け取ってきたのは、青い水晶玉のようなアイテム【スライムクリスタル】。

 効果はスライムが装備すると、任意のステータスを上昇させるという稀少アイテムだ。



「なんか凄そうなアイテムだけど、ほんとにいいの?」

「うん。それだけの価値のある情報だったからって」

「そっか。じゃあさっそく装備っと」



 装備というか、この場合は吸収に近いだろう。

 【スライムクリスタル】を装備選択すると、しゃちたんの体の中に吸い込まれていき粘土のように形を変え、内部にあるスライム核をコーティングするようにまとわりついた。

 すると、どのステータスを強化するか選択画面が出てくる。



「それは一回選んだら、ずっと固定になるからな。今後も使いそうなステを選んでおいた方がいい」

「そうなんだ。でもまぁ、ここは魔法攻撃力かな。電魔法とかも使ってみたいし」



 かなりのレアアイテムなのだが、しゃちたんは躊躇なく選択した。

 これにより、しゃちたんのMATがぐんと上昇した。



「それじゃあ、そろそろ行こうか。待たせても悪いし」

「そうだね」

「そうしよ」



 ブラットは持ち込み用の素材は昨日のうちにカバンに入れておいたので、今から拠点に取りに行く必要もない。

 どちらも準備は済ませたということで、HIMAの案内でビアバレルの店へと向かうことにした。



「HIMAはそのビアバレルさんには会ったことあるのか?」

「ううん、私はないよ。同じクランの子が話を付けてくれたから、直接会うのは今日がはじめて。

 でも場所はちゃんと教えてもらってるから大丈夫だよ」

「なら安心だ」



 ビアバレルの店は町の片隅の寂れた一角に、ポツンと建っていた。

 しかし外観は古さを感じるが安っぽくはなく、隠れた小さな名店といった趣がある店構えをしている。


 チリンチリン──というベルが鳴る扉を開けて中へと入ると、そこは木の椅子にテーブルが並べられた、ちょっとおしゃれな小さなカフェ、もしくは民家といった内装だった。

 いかにも鍛冶師といった店を想像していた三人がぽかんとした顔で呆けていると、奥の扉から大きさ約二メートルの大柄なプレイヤーが顔を出してきた。



「おお! よく来てくれた! 歓迎するよ!」



 その人物を一言で言い表わすとするのなら、『ジュゴン』という言葉が一番当てはまるだろうか。

 しかしジュゴンでは決してない。なぜならボディビル大会を連覇していそうなほど立派な人の腕と足を生やし、背中からは妖精の小さなはねがちょこんと生えていた。

 声も特徴的で、見た目や手足からして野太いボイスを響かせていそうなくせをして、幼い少女のような甲高い声音をしている。

 変わった種族が好きなだけあって、本人もなかなかに特殊な姿をしているようだ。


 互いに軽く挨拶を済ませてから、ビアバレルに促されるままに店内の椅子に着席する。



「いやぁ、あのBMOきってのオンリーワン! ブラットさんに、昨日はるるんさんの動画で話題になったばかりのスライムさん……えっと」

「しゃちたんだよ」

「そう! しゃちたんさん。それにあの上位クラン『Holy Maiden Knights』の切り込み隊長、HIMAさんにまで会えるとは今日はついてる」

「よろしく」「よろしくお願いします」「よろしく~」

「こちらこそ、よろしくですよ。えっとボクのことは、どこまで聞いてる?

 君たちが装備品を作ってほしいというのなら、こちらこそ是非にと言いたいところなんだけど……その代わりにね」

「ビアバレルさんの装備品をまとって、その写真を撮りたいってやつだよな」

「そうなんだ! 決して悪いように使わないから安心してほしい。

 個人的に部屋に写真を飾って楽しんでるだけで、不特定多数に公開するわけでもないから。

 もしそれでいいっていうなら、できるだけお値段も勉強させてもらうよ。どうかな?」



 本当に変わった種族コレクターなようで目はルンルンと輝き、鼻の穴はフンフンと開き、興奮した面持ちで向こうから交渉してくる。

 ブラットもしゃちたんも少し時間を使ってモデルになるだけで、優秀な鍛冶師の装備品が安く手に入るなら文句はない。

 こちらこそと言って、あっさりと握手で交渉成立した。



「ところでHIMAさんはいいのかな?

 HIMAさんも珍しいうえにBMOきっての美形キャラだから、こちらも大歓迎なんだけど」

「私はいいです。うちのクラン専属の子に作ってもらってるんで」

「そうかい、それは残念だ……。うん…………残念だ……」

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