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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第二章

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第三八話 まさかの展開

 情報の取り扱いには注意が必要な気がするが、決して悪いことではない。

 直接大天狗に渡されたプレイヤーのみ効果があるアイテムでもあるようなので、自分以外が使うこともできない。

 公式が是としているのなら、ブラットたちがどう使おうと自由である。


 そう開き直って道場に居座ったまま、ブラットもさっそくタダで取れる職業を眺めていく。

 ずらっと並ぶ雷系の職業に思わず顔がニヤけてしまう。まさにバーゲンセール状態だ。


 そしてしゃちたんも同じく、まだ選択の余地すらない状態からいきなり職業が取れるようになったことでウキウキしだす。

 なにせDOTダメージばかりで、バシッ!と大きな一撃が与えられないことを少なからず気にしてはいたのだから。

 だが雷系の職業は、純粋な攻撃能力ばかり。まさに望んでいたものが手に入ったといえよう。



「うーん……、せっかくだし最初はこれにしよっと。あとでいくらでも取れるし」



 しゃちたんが取得したのは、下位職業【見習い雷触師】。触手かそれに似た物が体から出せる種族だけが取得できる職業。

 鞭のように雷撃をまとった触手を振り回す中距離攻撃に、【吸着】でくっつきながら電撃触手を巻き付ければ【溶解液】【吸収】と合わせてさらにダメージアップ。

 しゃちたんは今のスタイルの強化に射程の延長と、分かりやすく強くなれると判断した。



「ブラットはどう? もう使って見た?」

「ああ、うん。無難に【見習い雷術師】を取ってみた。

 雷系の基本中の基本だけあって、中級まで上げると派生先がかなり広がるっぽいし」

「そーなんだ。私も雷触系をちょっと覚えたら、そっちも齧ってこうかな」

「やっぱこの秘伝書、限られた職業内だけって言っても、RPも職業枠も気にせず齧りたい放題なのぶっ飛んでるよなぁ……。

 あ、てかしゃちたん。そう言えば、もう進化できるようになったんじゃない? 称号手に入ったんだろ?」

「おお、そうだ! そのために来てたんだった。

 職業なんて目新しいのが来たから目移りしちまったぜい。

 えっと……進化条件は全部満たしたから~確かこっから選択画面が出せたはず──ほいっと………………ん?」

「どうしたんだ? しゃちたん」

「いや……えっと…………、なんか知らない進化先が増えてる。こんなスライムあったっけっかなぁ」

「なんか別の進化条件を今までの間に偶然、満たしたとかじゃないか?」

「かもね。どんな子だろ。調べてみよっと」



 しゃちたんは外部サイトを開いて、明記されている見たこともない進化先の名前を検索してみた。

 だが、その情報は載っていない。不思議に思いながら別のサイトもいくつか巡って検索をかけていったが、見つからない。

 こうなったらと公式から非公式までの掲示板までも指定して、これまでにその名前が出たことがないかを一気に検索するようデバイスに命じた。

 しかし──やはりどこにも、そんな名前のスライムは出てこなかった。



「いやそれってさ……、つまり新種なんじゃ?」

「まじで!? いやでもなんで? 私ゲーム素人だし、攻略情報に乗ってるままに進めてきただけなんだけど」



 上の進化──四次や五次以上ともなってくれば新たな進化先は発見されてもそれほど珍しくないが、さすがに一次の進化先はブラットのような特例を除けば、ほぼ全て誰かが通っていると考えて良いほど埋めつくされていた。

 一度でも誰かが辿り着けば、その情報はどんどん拡散されていくものだから。



「しゃちたんに心当たりがないなら、たぶん【黒雷ノ秘伝書】が関係してそうだなぁ。

 ちなみに何て名前のスライムが出てるの?」

「えっとね、『セーラスライム』だって」

「なんかいそうな名前だけど、どこにも情報がないんだ」

「ないね。ん~~どうしたらいいと思う? ブラット」

「そればっかりは、しゃちたんのしたいようにってのが一番なんだけどな。

 本当になりたかったスライムはなんてやつ?」

「ウィリーウィンドスライムっていうやつ」

「ほうほう」



 ブラットがウィリーウィンドスライムで画像検索したところ、ベースの色は元の色で、おでこのところに緑色のクルンとした巻き毛のようなものがつくようだ。

 なんというか〝あほかわいい〟という言葉が合いそうな、絶妙にとぼけた顔をしている。



「あははっ、これ面白い子だね。けどまぁ、オレだったら新種らしいほうを選んじゃうかな。

 絶対にそういう子のほうが強いだろうし、将来性もありそうな気がするし」

「だよねぇ。攻略情報に頼れなくなりそうなのはちょいとキツイ気もするけど、なるようになるか」

「そうそう。最悪気に入らなかったら、次の進化で別の進化の道を探せばいいだけだしね」

「なるほど、そういう手もあったか。うん、ならこの『セーラスライム』ってのに進化しちゃおう!」



 未だに道場内にいるが大天狗も興味深そうにこちらを見ているだけで出て行けと言われないので、このままここで進化することに。

 ブラットもしゃちたんも待ちきれないと言った様子だが、しっかりと二人とも録画状態にしてその瞬間を記念に撮っておくことも忘れない。


 そして準備が整ってから、しゃちたんは進化を選択した。

 するとすぐに白い光に包まれていき、しゃちたんのシルエットしか見えなくなる。そのまま光が強くなったり弱くなったり点滅し続ける。



「長いな……」



 ブラットは少し前に動画で別の人が進化したときの光景を見たことがあるが、その人はすぐに進化していた。

 けれど、しゃちたんは少々……というより、もう一分ほど点滅が続いている。


 しかしこれは、BMOにとっては正常なこと。

 BMOの進化先は基本の種の原形と進化条件のアルゴリズムを運営が形成し、それをもとにAIが判定して進化先を割り当てている。

 その中には特殊な行動や結果がAIに評価され、亜種や全くの新種という進化先をAIの権限の中で作り上げることもある。

 劣等種はその振れ幅が大きいため、普通種以上に多岐に渡った種が存在するのだ。

 とはいえ幼年期ではできることも少ないので、そうそうイレギュラーな結果が生まれることもないのだが。


 それを踏まえた上で言えば、しゃちたんは本来、幼年期では持ちえない職業を得たことでAIが最上級の特殊条件と判定し、それに相応しい進化先を作成。

 そして一度もBMOのワールドに読み込ませていないデータだからこそ、読み込みに他よりも時間がかかる──つまりこの待ち時間はいわゆる〝ロード画面〟状態なのだ。


 しゃちたんは初めての事なのでそういうものかと気にしていないが、ブラットはそんなこととは知らずバグか何かかと不審に思いはじめたところで、ようやく読み込みも終了した。


 チャラララーン──とゲームの効果音と共に、進化終了の知らせがしゃちたんに入る。



「進化できたー!」

「お、おお! かわいいじゃん! やったね、しゃちたん」

「まじ? なんか体がキラキラしてるけど、どっかに鏡とか──」

「ここにあるぞ」



 なんと大天狗が自らどこからともなく姿見を取り出して、しゃちたんの前に置いてくれた。

 しゃちたんのように進化の最後の条件がここになっていたプレイヤーが多く、よくこの場で進化して姿見を探すものだから運営側が大天狗に持たせたのだ。


 そんなこととは知らないブラットは何で持ってるんだろうと不思議に思いながらも、しゃちたんと一緒に改めて『セーラスライム』の姿を確認していく。



「これが私!? いや最高なんですけどっ!

 どちゃくそ可愛いじゃん! これもう夢かわスライムじゃん!!」

「ね、進化しようとしてたのよりこっちの方が良かったんじゃない?」

「マジそれな!」



 ベースの色は淡いピンクのまま、大きさは据え置きで五〇センチほど。

 けれどその体の表面はまるでピンク色のオーロラのように下にいくにつれて虹色のグラデーションに輝いていて、体を動かすたびに鱗粉のように周囲にキラキラとした虹の粒子を飛び散らせていた。

 大きくて丸い瞳の中もキラキラと虹色に輝いて、まるで宝石が埋まっているかのようだ。


 人によっては派手すぎるとも思えるスライムだが、しゃちたんの琴線には大きく触れた。

 姿見の前で何度もピョンピョン飛び跳ねたり、クルクル回ったりと、その姿を余すところなく観察し続けた。


 その後このスライムの特性を確認してみれば、元からあった物理耐性のほかに【セーラスコート】という全ダメージ軽減という物が追加されていた。

 これが凄いのは魔法なんかだけでなく、状態異常によるダメージまで減らしてしまい、弱い状態異常なら弾いてしまうことすらできてしまう。

 物理に硬かったしゃちたんは、さらに魔法や状態異常に対しても防御性能を発揮できるようになったと言える。



「この表面のキラキラが【セーラスコート】なんだろうな」

「雷撃系の攻撃も手に入った上にもっと硬くなって、可愛くもなって。このゲームめっちゃ楽しいわ!」

「だろう?」

「うん! ブラット、誘ってくれてありがと!」

「どういたしまして」



 誘った身としても、ここまで楽しんでくれれば嬉しくもなる。

 ブラット自身も誘ってよかったと喜びながら、そろそろ道場から去ることに。



「ブラット。もしお主も試験を受けたくなったら直ぐに来るといい。待っておるぞ!」

「今のところそんな予定はないけど、そのときがあったらよろしくな」

「うむ! しゃちたんも、進化したからと言って努力を怠るでないぞ!」

「うん、分かってる!」

「ならば良し! さらばじゃ! のーほっほっほ!」



 最後までダイナミックな大天狗に見送られながら道場を出て、あの長い階段を周りに誰もいないのもあって二人でキャイキャイ会話しながら下りていく。

 するとその道中──ブラットにメッセージが届いた。



「ん? なんかメッセがきた。ちょっとごめんね、しゃちたん」

「全然いーよ」



 差出人はHIMA。内容は例の頼んでいた職人『ビアバレル』と繋ぎが取れたというもの。

 向こうも乗り気なようで、いつでもいいから来てくれとのことらしい。

 なら明日にでも──と返事をしようとしたところで、横にいるしゃちたんが視界に入った。


 ビアバレルなる人物は変わった種族のプレイヤーに目がなく、自分が見たことのない種族に自分の装備品を持たせるのが趣味だという。

 ならばその対象は今進化したばかりの、新種らしきスライムも対象になるのではないかと思ったのだ。

 すぐにしゃちたんに事の経緯を語って聞かせると、彼女も会ってみたいと返す。


 しゃちたんとしても、もしかしたら安くいい装備が手に入るかもしれないのだから、その機会を逃すこともない。

 さっそくそのことも付け加えて返事を送ってみると、まずしゃちたんの新種情報に驚きとスクショを送ってほしいという返事が来た。


 その後も何度かメッセージのやり取りをしていき、先方もしゃちたんを是非見てみたいということで会ってくれることに。

 しかしここで一つ問題が。『ビアバレル』の店はどんなプレイヤーでも絶対に通る三町にあるのだが、しゃちたんはまだ三町までのエリア開放をしていなかった。

 正確には、まだできなかったというのが正解なのだが。



「ん~じゃあ、もうせっかくだし、このさい一緒に開放しに行っちゃう? 新しい力の確認もかねてさ」

「いいの? ブラットからしたらもう倒したやつじゃない?」

「他にもエリアボスが何種かいたはずだから、かぶんなきゃ違うやつと戦えるし、かぶってもボスはドロップ三つ落とすから変な奴と戦うより美味しいしオレは全然いいよ。

 それに、できるだけ色んなモンスターと戦ってみたいから」

「うーん、ならお願いしちゃおっかな。もしヘマしてデスペナもらっても嫌だし」

「じゃあ、決まりだな」



 階段を降り切って祠の扉から外に出ると、二人はそのまま揃って二町へ戻る。

 そしてしゃちたんがエリア開放クエストを受領してから、再び来た道を戻るように町を出て、今度は道にそって先へと進んだ。

 ブラットに加えて見たこともないスライムがいることにさらに注目が集まるが、ガン無視して突き進む。


 ブラットが以前倒した、三町開放のエリアボスは灰色のリザードマンの戦士だった。

 けれどその前のファットゴブリン・EWが衝撃的だっただけに、そこまでブラットの印象に残っていない。当時は強かったかな~程度の記憶である。


 さてそんな中、イベントモーションに入った後に出てきたのは『アングリーマンティス』。二メートル級のカマキリ系のモンスターだった。

 戦ったことのない新しいモンスターの登場に、ブラットは心の中でガッツポーズをとる。


 軽快に羽音を響かせ着地してから、両鎌を振り上げ「ギシャー」と鳴くとイベントモーションが終了──戦闘開始だ。



「素早そうだし、空も飛ぶから気を付けよう」

「うん。じゃあ、私から行くね。いくぞおりゃ~! かちこみじゃ~い!」

「いや、いきなり突っ込むんかい」



 はやく新しい体を試したくて、しょうがなかったのだろう。夢かわスライムがバニーホップしながら、アングリーマンティスに突っ込んでいく。



「シィァ──」



 右の鎌による【切り裂き】がしゃちたんに当たるが、スライムを切ったとは思えない金属音が鳴り響く。

 特性【セーラスコート】の影響で、表面に常時魔法の盾にも似たコーティングがされているせいである。



「お、普通の切り付けくらいなら余裕で耐えられそう。くらえ! 新技【雷触打ち】!」

「シィアア!?」



 表面に硬い抵抗、内面は柔らかな抵抗で鎌を受け止め【粘着】で張り付くと、いつもの【溶解液】【吸収】に加えて電流が流れる触手を伸ばして【雷触打ち】をペシペシとお見舞いしていく。

 まだレベルが低い上に最初のスキルだけあって威力は本当に大したことがなかったが、しゃちたんはそれでも嬉しそうに「太鼓かな?」と思わずブラットが言ってしまうほどにアングリーマンティスを叩きまくる。


 これには敵も黙っていられず左の鎌ではぎ取ろうとするが、そちらにも【粘着】して鎌と鎌同士を自分を挟んでくっつけてしまう。

 カマキリの最大の武器を拘束されてしまい、振り払おうと暴れるアングリーマンティス。



「はしゃいでんなぁ。じゃあ、こっちも──【雷弾】」

「ッギシィィ」



 ブラットはブラットで新たに職業【見習い雷術師】で覚えた最初のスキル、【雷弾】を試し打ちしていく。

 威力は【闇弾】と大差なく目新しさもなかったので右人差指で【雷弾】、左人差指で【闇弾】と、交互に撃って遊びはじめる。

 けれど遊んでいれば職業レベルも上がっていき、新しいスキルも増えていく。しゃちたんも、もちろん同様に。


 哀れアングリーマンティス。

 結局二人の実験に付き合わされるだけ付き合わされ、飽きたら飽きたでボコボコにされて消えていった。

 ただのデータの塊とはいえ、もしこの光景を誰かが見ていたら憐憫の情の一つも抱いてくれたことだろう。


 今回の二人の成果としては──ブラットは【雷弾1】【放電1】【雷球1】というスキルに、【怒蟷螂の右鎌】【怒蟷螂の目玉】【怒蟷螂の翅】を。

 しゃちたんは【雷触打ち1】【雷触締め1】【雷触突き1】というスキルに、【怒蟷螂の左鎌】【怒蟷螂の触覚】【怒蟷螂の目玉】を入手した。


 こうして無事しゃちたんも最後の初心者の登竜門、三町『シェルシィ』に到着したのだった。

次の話は土曜更新です。

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