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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第二章

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第三四話 快適な零世界ライフを目指して

 ブラットは、迷わず不気味な顔が舞うオーラの中に飛び込んだ。

 すると不気味な顔がまとわりつくように寄ってきて、体の動きが目に見えて鈍くなる。

 それを見越してバリアントクリーピーが、レイスでできた剣を振り下ろす。



「鈍化効果のオーラかっ」

「ォォォォォオオォォオオオ!」



 とっさに手の先に出した【魔刃】でレイス剣を受け止めることができたが、さらに左手のレイスでできた盾で横なぎにシールドバッシュを放ってくる。

 初動をちゃんと見ていたブラットは慌てず、ゆっくりながらも動く左足を何とか体の前に持ってきて、絶妙なタイミングでバネのようにグッと膝を曲げて相手の力を利用してオーラの範囲外へと飛び出した。


 追撃で呪いの斬撃が着地点に向かって襲い掛かってくるが、それはHIMAが槍の一撃で相殺してくれ難を逃れる。



「遠距離からの攻撃はあの硬い盾で守って、近付けば鈍化のオーラで動きを鈍らせて剣で叩き切る。随分と戦い方が変わったね、嫌な敵だ」

「うん、でも今のやり取りでなんとなく対処法は見えてきた。回復したらもう一回行ってくる」

「無理して死んじゃダメだよ」



 盾に足で触れた瞬間、ごっそりとスタミナを持っていかれたので、完全になくなる前に【集気法】で回復しておく。

 その間の守りはHIMAに任せているので安心だ。立て続けに飛んでくる呪いの斬撃を両手の槍で潰してくれる。



「よし。スタミナも全回復した。今から第二ラウンドを仕掛けてくる」

「私は何をすればいい?」

「オレが相手をしている間に、あいつの集中力を乱してほしい」

「それだけでいいの?」

「うん。後はたぶんいけると思う──じゃっ、行ってくる!」

「がんばって!」



 オーラの範囲内に入るまでは飛んでくる斬撃は余裕をもって躱していく。

 そして鈍化の範囲に入る前に右手はピンと伸ばして斜め上に向け、左手はピンと伸ばして横に向けるという奇妙な格好で侵入した。

 体の動きが一気に遅くなるが、かまわずそのままバリアントクリーピーに向かって突き進む。

 剣が頭上に迫り、斜め上に向けていた右手から【魔刃】をだして受け止めた。

 だがこれではさっきの二の舞だ。何も状況は変わってないがどうする気かとHIMAが見守る中、ブラットは受け止めた魔刃を【魔刃回転】で折り畳みナイフの刃をしまうようにクルンと一八〇度回転させる。自身は指一本動かさずに。


 魔刃が動いたことで受け止めていた剣は斜めに滑るように地面に向かって受け流され、またそのときの敵側の力に押されるようにしてブラットの位置がずれた。

 ブラットの前方の地面を剣が切り裂いたのを見ながら、自分は動かず【魔刃】だけを右手から再び伸ばし手を軸にグルンと【魔刃回転】で一回転。

 剣を握っていた敵の腕を自分からは一歩も動かず切り裂いた。



「そっか! プレイヤーの動きは鈍っても、スキルの動きは鈍らないんだ」



 小さな魔刃手裏剣を試しに投げたときは盾で防がれはしたが、速度は減衰していなかった。

 中で剣を受け止めたときも、【魔刃】の生成速度は変わらなかった。

 盾に弾かれた後の速度も変わっていなかった。

 このことからブラットは、プレイヤーの肉体依存ではない動きは効果範囲外だと見抜いたのだ。


 腕を魔刃の回転で切られたことで、慌ててシールドバッシュをしてブラットを弾こうと動き出す。

 だがこれも横に向けていた左手から伸ばした【魔刃】で受け止め、【魔刃回転】で受け流す。

 相手の攻撃方向、自分の魔刃の向き、回転の向き、それら全てを瞬時に見極め、自分に有利なポイントに相手の力を利用して押してもらう。

 そして受け流したら【魔刃回転】を使って、また自分からは一歩も動かず切り裂いていく。



「すごい、あんなのブラットの他に誰ができるんだろ……」



 はた目から見たら変なポーズで立ったまま固まった状態で、相手の周りを付かず離れずズルズル動くという奇妙な光景だ。

 だがそれをするのに、どれだけ一瞬一瞬に的確な判断を求められるのか、BMOをやりこんでいる者ほど理解できてしまう。



「っと、見てるだけじゃだめだ。私もやらないと。

 遠距離攻撃は苦手だけど、これくらいなら──エンチャント【マジックカタリシス】。からの【焔砲】!」



 HIMAの種族スキルによる魔法触媒化のエンチャントを槍にほどこし、一時的に杖と同じ効果を持たせてから、二〇センチほどの火炎の砲弾をそこから撃ち出した。

 弾速は大人が軽く走った程度と遅いが、バリアントクリーピーの意識を乱すには充分な効果を発揮する。


 HIMAはそのままブラットの邪魔にならないよう細心の注意を払いながら距離を取って動き回り、【焔砲】を撃ち続けた。



(ありがとう、HIMA)



 一心に集中されないだけで、ブラットに余裕が生まれていく。

 相手の動きも癖もパターンも頭の中に蓄積されていく。

 そして──この戦いに終わりが見えてきた。


 バリアントクリーピーはHIMAの【焔砲】を盾で防ぎながら、直撃すれば大ダメージに加えスタミナを一気にゼロにする剣でブラットを切り裂こうとした。

 確かに剣速は素速く剣技系のスキルもいくつか使っている。鈍化状態でこれを躱すのは至難の業だ。


 けれどそれをただ魔法の刃を回転させるだけのスキルで完璧に受け流し、さらに今までやってこなかったもう片方の魔刃を敵の腕に伸ばして突き刺し、自分を持ち上げるように魔刃を回転させる。

 身軽なブラットはバリアントクリーピーの腕に突き立った魔刃を支えに持ちあがり、狙ったタイミングで魔刃を消すと縦長の敵の顔に向かってポーンと慣性のままに投げ出された。


 バリアントクリーピーの盾は、HIMAの【焔砲】の爆発ダメージを受けているのでまだ動かせない。

 剣は受け流され地面に切っ先が着いているので、まずは持ち上げなくてはならない。


 一瞬とはいえ完全に無防備な状態のバリアントクリーピーの顔面に飛び込みながら、ブラットは右手から魔刃を出して勢いのままに突き刺し固定。

 バリアントクリーピーの顔の中央に魔刃を刺した状態でぶら下がったまま、最大威力の【根源なる捕食】をお見舞いした。



「ィィィィァァァアアゥゥォォォオオオオオオオオオオオォォォ──ォォ……ォ────」



 鈍化のオーラは完全に消失し、全身に重りを付けられたかのような鈍い動きが元に戻る。

 それとほぼ時を同じくしてドロップアイテムを各プレイヤーに対して三つずつ残し、バリアントクリーピーは粒子となって消えていった。



「ふぅ、いっちょあがりっと」

「お疲れー」

「HIMAもお疲れー。アシストのおかげでだいぶ楽に倒せたよ」

「あれで楽ねぇ。手裏剣みたいに投げてる人は見たことあるけど、あんな【魔刃】の使い方してる人はじめて見たよ」

「え? そうなの? もっとやりこめば自分で一切動かずに、【魔刃回転】だけで攻撃の受け流しどころか、弾き返しとかもできそうだけど」



 軽く言ってくれるが【魔刃回転】というのは、低ランクに属する職業の一スキルに過ぎない。

 実戦で使えるレベルで、その場その場の攻撃に合わせてそれができるようになるには常軌を逸した観察眼と対応力が必要不可欠。

 その他のプレイヤーがやろうとすれば、何度も同じ攻撃を同じ状況で同じ角度から受けて練習して、それのみならば高い確率でできるように──というのが関の山だ。


 いったいどこまで行こうとしているんだろうかと半ば呆れすら覚えるが、それでも親友として置いていかれるわけにはいかないと、HIMAは自分も追いつかれる前にもっと強くならないとと気合が入る。


 そんな話をしながらブラットはレベルが上がり、また新しい種族スキルも覚えたりもしたが、とりあえずはと自分の分のドロップ品を三つ拾い上げた。



「オレのは【変異怖霊の盾片】【変異怖霊の魂片】【ソウルマント+1】だって」

「私のは【変異怖霊の剣片】【変異怖霊の魂片】【変異怖霊の呪印+1】だね。

 ……というか他のは知ってるけど剣片とか盾片とか、バリアントクリーピーのドロップアイテムでそんなの聞いたことないんですけど」

「モドキ種限定モードのときの剣と盾の破片だろうし、そりゃあオレとやらなきゃでないんじゃない?」

「あー……ね。そういう特殊なドロップアイテムが手に入ることもあるって利点があるんだ、モドキ種って」

「けどまぁ、ゲーム的にも必須級のアイテムはそういうのに含まれないだろうけどね。

 あったらいいことあるかもだけど、なくてもどうとでもなるみたいなさ。

 あとで、はるるんにこのアイテムのこと教えてあげよっと」



 最低限の確認も済んだところで、戦闘中放置していたマリーのもとへ戻っていく。

 ブラットが言っておいた通り、その場で動かずずっと涙目なまま待ってくれていた。

 マリーはこちらの顔を見るなり飛びついてきそうな勢いでお礼を言ってきたが、NPCとはいえ過剰なボディタッチはコンプラ的にNGなのでそんなことにはならない。



「やっぱり、お父さんのために薬草を取りに来たのか?」

「うん……。クモのおじーちゃんが【メイメイ草】があれば治るって言ってて。

 私それがどんな草か知ってたから、採って来れるかもって……ごめんなさい」

「オレたちはいいけどマーサさんや、マリーちゃんを探すのを手伝ってくれた人たちには、ごめんなさいしないとな」

「うん……」

「それじゃあ、せっかくだし【メイメイ草】も採ってくか? 変なモンスターももういないみたいだし」

「うん!」



 たっぷりと生えている【メイメイ草】をマリーが採っている間に、ブラットやHIMAもせっかくだからと採取しておく。

 道中は雑魚モンスターからマリーを守りながら町に帰還し、ボスを倒してからは波乱もなく母親に引き渡すことができた。



「マリー!」

「おかーさんっ!」



 親子が抱き合う感動のシーンをスクリーンショットに収めながら、イベントの進行を眺めていく。

 抱きしめられた後、怒られて周囲の人たちに謝ったマリーは採ってきた【メイメイ草】を蜘蛛老人に渡す。

 蜘蛛老人はすぐにそれで薬を作ってお父さんも回復。最後は家族そろって、お礼を言われた。

 病床から直ぐに立ち上がっていることに驚きはしたものの、魔法的な何かだろうとブラットは納得しておいた。


 そして家族との別れ際、ブラットはマリーに呼び止められる。



「お兄ちゃん」

「なに? マリーちゃん」

「これあげる!」

「これ貰ってもいいの?」

「うん! 私の宝物なの。今日のお礼に!」

「そっか、ありがとう」



 それはキラキラした鉱物が混じった石。子供の宝物というだけあって、いわゆる河原に落ちていた綺麗な石といった様子のものだが、それでも気持ちと一緒にしっかりと受け取っておいた。

 そして受け取ると同時に──。



《シークレットイベント【マリーと丘の上の幽霊】クリア!

 称号【マリーのお兄ちゃん】を取得しました。》



 ──というアナウンスが耳に届いた。

 この称号の効果こそが、ブラットが欲していた職業枠+1。

 中には称号の効果なんてなくても俺は絶対に取っていたと豪語する変た──紳士もいるほど、有名な称号である。




 マーサやマリーたちと分かれて、ブラットはHIMAと町の外へと向かっていく。

 今日はこのまま二人で狩りをして遊ぼうという流れになったからだ。

 その道中で他愛もない話をしていると、HIMAから零世界の話題をふってきた。



「そういえばブラットは零世界? ってところの探索はなんとかなりそう?

 なにか手伝えそうなことがあるなら私も手を貸すけど」

「うーん、色々足りないし危なっかしいこともあったけど、とりあえずはね。

 けどそうだな……ねぇHIMA、美味しくて安い保存食か携行食のお店とか知ってる?

 あっちは変な料理しか出してくれないんだよね」

「美味しくて安い保存食か携行食? うーん、私はクランの料理系スキル持ちの子が作ってくれてるものを普段使ってるから、あんまり外のことは知らないなぁ。

 けどチョコとかクッキーとかでいいなら、結構そこらでも売ってるよ。

 ちょっとお値段張るけど、レトルト食品を入れていいなら有名なクラン『クッキング・ジョー』の店なら色々な種類があったりもするけど」

「クッキング・ジョー! なんか動画で見たことあるかも! あれ、おいしそうだったなぁ……けど高いのか」

「まぁ、普通に作るより手間がかかるみたいだからね。

 クラマスの『Joシェフ』は、もっと量産体制を整えたいみたいなこと言ってたらしいけど」



 これからも色々と入用になるブラットが手を出すランクの店ではないようだ。いつか量産化して安く買える日が来ることを願う他ない。



「あとは……そうだなぁ。なんだかんだ言って変に凝った物より、〝お米〟っていう手も有りじゃない?

 炊く前のお米は保存食としてみても優秀だと思うし」

「ああ、お米ね。身近過ぎて全然思いつかなかった」



 水は向こうに既に持っていった魔道具で、飯盒セットもこちらに売っているし、着火剤などもこちらで安価で用意できる。

 長期保存ができて腹持ちもいい、そして美味しくて汎用性も高い。

 これは候補に入れてもいいかもしれないとブラットは、しっかりとメモアプリを開いて記載しておく。



「お米なら農業系のクランとかがでっかい田んぼで作ってたりするし、それなりの量を安く買えるかもね。

 うちのクランの契約農家クラン『農業革命』とかは、そこそこのお値段で品質も良くて味もいいよ」

「へぇ、というかBMOに契約農家とかあるんだ……」

「うちみたいに人数の多いクランとかは、同じとこから大量に買って安くしてもらったほうが費用も抑えられるしね。そんなに珍しくないよ。

 はるるんさんとこも、どこかの農業系クランと契約してたりするんじゃない?」



 その他にも漁師系のクランの干物なんてものもあったりするので、もし必要になったらHIMAに農家や漁師を紹介してもらえることになった。



「それじゃあ、腕のいい防具を作れる職人さんとかは知らない?

 ちょっと作ってほしいものがあるんだけど。出来るだけ安いとこだと、なおいい感じ」

「腕がいい=人気=高いが当たり前だから、そんな都合のいい話は……あ、一人いたかも」

「ほんとに!?」



 自分でも調子のいいことを言っていると分かっていただけに、その驚きも大きかった。



「うん。ブラットなら下手したらタダで作ってくれるかも」

「え……っと、なんか話が怪しくなってきた」

「怪しいというかなんというか、私も詳しくは知らないんだけど、確か名前は『ビアバレル』。

 変わった種族のプレイヤーに目がなくて、自分が見たことない興味のある種族に、自分が作った装備品を持たせて、その写真を撮ってコレクションしてるんだって。

 それでモデルをやってもらう代わりに、値引きとかもしてくれるとかなんとか。

 ね? ブラットならお眼鏡にかないそうじゃない? なんたってBMO界きってのオンリーワンなんだから。

 興味があるなら、うちのクラメンに知り合いがいたはずだから繋ぎもとれると思うよ」

「うーん……、まあ、それくらいならいっかな。

 写真は悪用したりとかはないよね?」

「私自身が知り合いじゃないからハッキリと断言はできないけど、そんな人なら誰も頼んだりしないと思うよ」

「それもそっか。じゃあ、ちょっと近いうちに繋ぎを取ってもらってもいい?」

「うん、もちろん。連絡が取れたらすぐに知らせるね」

「ありがとう、HIMA」

「どういたしまして」



 経験値ポーションについてはまだ何も進んでいないが、【毒蜥蜴王の鱗】を使った装備を用意する当てはできそうだ。食材問題にも光明が見てきた。

 やはり持つべきものは親友だと、ブラットはいつか快適な零世界ライフを目指してやると密かな野望を燃やしながら、その日はHIMAと一緒に色んなモンスターの狩りをして過ごしたのであった。

次話は土曜更新予定です。

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