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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第二章

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第三三話 不気味なモンスター

 町から出てメルトランに向かう道中、さっそくHIMAはメイン武器である槍を二本取り出した。

 こちらもいつも使っているメイン装備の槍ではなく、ステータス弱体化が付いた呪いの槍。

 右手に持つのは何個もの頭蓋骨が掘られた白い柄に、赤い穂先の槍を。

 左手に持つのはシンプルに柄と尖った先端が繋がった、漆黒のオーラを垂れ流す杭のような槍を。



「お、いきなり二槍流か。やる気だな」

「フォローならブラットがいるからね。火力マシマシでいくよ」



 HIMAの戦闘スタイルは大まかに二種類。

 一槍流による精密な攻撃で敵を突き刺すものと、精密さをある程度捨て去り攻撃に特化した二槍流がある。

 フルパーティやクランでの行動中なら二槍流で、一人か少人数での行動のときは一槍流と普段なら使い分けているのだが、互いに深くどういう性格なのか分かっているブラットとならと二槍を手に持った。


 道中の敵はブラット一人でも対処できるところを二人がかりで倒しているので、ほぼ消耗もなくメントランの丘に辿り着いた。



「──っ! おにーちゃんっ」

「マリーちゃん!」



 そこには待ってましたとタイミングを見計らったようにマリーを襲おうとする、大量の幽鬼──レイスの姿が。

 ここでマリーが殺されたらイベントは失敗に終わる。ブラットは急いでHIMAと共にレイスの群れに突っ込んだ。



「どりゃああ!」「はぁああっ!」

「きゃぁーーーーっ」「「「「「「ォォォッォオオオオ」」」」」



 跳躍と飛行で無理やりマリーとレイスの間に割って入りながらの【狼爪斬】。

 HIMAも両手の槍を片手ずつで器用にバトンのように振り回し、周囲のレイスを蹴散らしていく。


 マリーにちょっかいをかけようとするレイスたちはブラットが担当し、その他周囲に大勢いるレイスはHIMAがと、事前に打ち合わせもしていないのに自然と役割が分担される。


 幸いレイス自体は非常に弱く、一人だったとしても対処できるモンスターだった。

 けれどレイスを倒せば倒すほど、その群れの奥に黒く大きな影が膨れ上がっていく。

 その光景はまるでブラットたちがレイスという供物を捧げることで、あの影を育てているかのよう。



「てい! うーん、さすがにムリか」

「もー何してんの? ブラット。ここで無駄に消耗してたら持たないよ。

 とりあえずアレが来る前にマリーちゃんを下がらせとこ」

「はーい」



 今のうちに後ろの影を倒せないかと【闇弾】を撃ってみたが、すり抜けるように向こう側にいってしまう。

 この状態では攻撃無効なのだろう。素直に諦めてマリーを守りながら、手薄になってきたレイスの群れから引き離していった。



「マリーちゃんはここにいて」

「う、うん。お兄ちゃん……、ありがとう」

「いいってことよ」



 こんな妹がいたら最高だなと妄想の翼を広げそうになるのを我慢しながら、ブラットはHIMAと一緒にレイスを全て蹴散らした。

 すると大きな影は五メートルほどの風船のように膨らんでおり、最後の一体を倒すのと同時にパンッ──と破裂音を響かせながら中から不気味な親玉が現れた。



「ォォォォォォォォォォオゥゥゥォォォオォオオ──」

「きもちわるっ」「相変わらずきもいなぁ」



 出てきたのは全長三メートル程で、枯れ木のような手足にボロボロの黒いローブを全身にまとった、一応は人型の幽霊系モンスター。

 けれど頭が非常に特徴的で、大きな頭の口からそれよりも少し小さな頭が無理やり飛び出し、その頭の口からまたそれよりも小さな頭が──とそれが幾重にも繋がり、頭部だけが異様に前に伸びていた。

 掠れるような不気味な声は、一番先頭に飛び出した皮だけが張り付いただけの、目玉も嵌まっていない一〇センチほどの小さな頭部の口から吐き出されていた。



「バリアントクリーピー……のイベント特別個体だよ」

「あんなのの特別って言われてもなぁ──と、始まるね」



 長い唸り声をあげながら、空に向かって万歳するまでが演出。

 イベントモーション中なので攻撃できなかったが、ようやくそれも終わり戦闘が開始された。



「いっくよー!」



 先に動いたのはHIMA。二槍を手に突っ込んでいく。

 近づけさせまいとバリアントクリーピーは節の長い指をHIMAに向け、そこから黒い三〇センチほどの球体を撃ってきた。



「【焔光爆砕槍】──」



 それに対してHIMAは左に持った槍の先に光の玉を浮かべ、躊躇なくそれにぶつけていく。

 二つはぶつかり合い、拮抗することなく爆炎を巻き散らし爆ぜた光の玉に飲み込まれる。さらに──。



「【二連】!」



 爆風をものともせずに突貫していったHIMAの右手の槍が、バリアントクリーピーに突き刺さる。

 一つ前のスキルを続けて出すと威力を上乗せして放つことができる【二連】によって、さらに威力を増した【焔光爆砕槍】の光の玉が炎を巻き散らし爆発した。


 爆発ダメージによる衝撃で、バリアントクリーピーが硬直しながら後ろに一メートルほどノックバックする。



「【根源なる捕食】!」

「ォオォォォォォォォォォゥォォォォォォオッ──」



 だがそこには最初の爆風の際に、どさくさに紛れて後ろに回っていたブラットが右手を突き出し待ち構えていた。

 最高のタイミングで【根源なる捕食】を発動し、敵側のダメージによる硬直と【根源なる捕食】後の硬直時間がほぼ拮抗。

 ブラットはリスクなく妖魔族への根源特攻攻撃に、攻撃能力強化のバフまでつけて離脱する。



「ォォォオオ!」

「させないよ」



 よくも──とブラットに抱き着くようなモーションで襲い掛かろうとするも、今度はHIMAが後ろから【狂槍乱舞】という本来なら一槍のスキルを、無理矢理プレイヤースキルでゴリ押しして両手で発動させる。

 二槍では精密さに欠け一撃あたりのダメージは少し減ってしまうが、単純に火力は二倍なので秒間あたりのダメージ量は跳ね上がる。

 その代わりスタミナ消費量も上がるし、ほとんど移動ができなくなってしまう荒れ狂う二槍の乱舞。


 ヘイトがHIMAに向く。

 槍でバシバシ殴り突き刺してくる彼女に対し、真っ黒に染まった両手で蚊でも叩き潰すように素早くパンと手を打つ動作に入る。



「【魔刃断頭】!」

「ゥゥゥゥッ──ォォォオオオ!」



 しかし昨日手に入った、職業【中級魔刃師】の〝四つ目〟のスキルを発動したブラットに邪魔される。

 ブラットの右手にはギロチンのような平たい魔法の刃が付いており、それでバリアントクリーピーの首を切ったのだ。

 これは首切り動作以外はただの魔刃より数段劣る威力になるが、首切り動作に成功すれば威力が大幅に上昇するスキル。

 見事成功したことで他にも様々なバフが乗ったブラットの一撃により、バリアントクリーピーのHPの目盛りがぐぐっと減っていく。


 それからも交互にブラットとHIMAと攻撃を繰り返し、互いに上手くヘイト管理をしながら自分のスタミナ切れも予防する。

 休む暇もなく後ろ前と右往左往するバリアントクリーピーは、そのままHPを半分まで削られていった。


 だがここでバリアントクリーピーは、これまでしなかった行動をする。



「イィィィイイイウゥゥゥォォオオォオオ──!」

「わっ!?」「おっと」



 黒い力場のような衝撃波がバリアントクリーピーを中心に発生し、ブラットとHIMAが吹き飛ばされる。

 初見のブラットは驚きながら空中で態勢を整え直し、知っていたHIMAは吹き飛びモーションの辺りで構えていたので綺麗に着地できた。

 ちなみにHIMAがブラットに教えなかったのは、ブラットはこういう初見の戦いが好きだと知っていたからだ。



「うわぁ……、なんかもっとキモくなってる」

「こっからが本番だよ、ブラット」



 ボロボロのローブが消え去り、代わりにイソギンチャクの触手のようなものを全面に付けた上半身が露わになる。

 その触手は自由に伸び縮みし、主を守るように前と後ろにウネウネと蠢いている。


 ブラットが試しに近づこうとすれば、それに反応して触手が素早く鞭のような一撃を何重にも放ってきて容易に接近できそうにない。

 今の敵は近距離戦を得意とせず、中遠距離戦でこそ本領を発揮する。

 ようやく離れたブラットとHIMAに対して、黒い球体や黒い炎に包まれたレイスの顔を次々と撃ち出しやりたい放題。


 かと言って近づけば触手が襲い掛かってくる。

 ブラットが強行突破を試みようとしたが、触手のダメージはなんとかなりそうだが、触られるとスタミナがどんどん吸い取られてしまう。

 このまま無理に突撃しても本体に攻撃が届く距離に入ったときには、スタミナ切れで動けなくなるという嫌らしい仕様だと気が付き直ぐに見切りをつけた。


 ブラットは触手を切りながら、強行突破しようとして失ったHPを回復しつつ後ろに下がる。



「ならこっちも、あそこまで遠距離攻撃を通せばいい。

 ──HIMA、ちょっとでいいから注意を引いて!」

「分かった! 任せて」



 HIMAは左手の槍は手持ちスロットにしまい、今さっきのブラットのように自分から近づいていく。

 一本になって身軽になったHIMAは攻撃よりも防御に主体を置いた型で、触手を弾きながらスキルで爆破していく。

 触手への攻撃は本体へのダメージはなく無限に再生するが、派手にドンパチやることでブラットへの意識が薄れていく。


 その間にブラットはおざなりに自分に撃たれる遠距離攻撃をかわしながら、チャクラムのような【輪刃】を生成し、【魔刃回転】で右手首を軸に高速スピンさせていく。

 ブラットの指だと細く小さすぎて上手くできないからだ。


 さらに【輪刃】に【曲刃】を四方に混ぜて手裏剣のような刃を生やし、よく相手の動きを見極め狙いを定めていく。



(当たれ!)



 腕を振り抜き、【魔刃投擲】で大きな手裏剣と化した魔法の刃が高速回転しながら飛んでいく。

 これも【魔刃断頭】と同じく覚えたての中級〝三つ目〟のスキルで、昨日少し練習した程度。

 しかも投擲へのアシストは一切ないスキルなので、当てるには自前のセンスか別途スキルが要求される。

 だがそれでも、ブラットは余裕がある状態ならかなりの命中精度を叩きだせるようになっていた。


 魔刃手裏剣とでもいうべきものの飛来に敵も気付くが、迎撃しようとする触手もズバズバ切り裂きバリアントクリーピーの胸元に突き刺さる。

 今のブラットにとってはかなりMPを消費する技だが、それに見合っただけの威力もあった。



「ィィィィィィイイイ──」



 まだ終わらない。痛みのモーションを取って隙が生まれるより前に、ブラットを信じてHIMAは既に動き出していた。

 手持ちにしまっていたもう一本の槍を取り出し、スキル【猪突猛進】【フレアブースト】【焔纏い】を発動。

 もはや人間サイズの火の玉と化して高速で突っ込んでいき、衝突と同時に【焔光爆砕槍】の二槍による爆発も同時に巻き起こす。

 【火耐性】と【爆発耐性】を持っているので自分の攻撃でダメージこそほぼ負っていないが、爆発の衝撃でHIMAも後方に吹っ飛んだ。


 だがその代わり、バリアントクリーピーの上半身中に生えた触手が一時的に全て焼き尽くされ、本体も火傷ダメージと爆発によるノックバックモーションで一時行動不能に陥った。



「【根源なる捕食】!」



 いつかのようにまた、HIMAが来ることを信じて真後ろに回り込んでいたブラットによる【根源なる捕食】が発動。

 攻撃とバフ掛けを同時に行ってから、相手の触手が再生しはじめ、黒いオーラをまとった手による薙ぎ払いモーションに入る寸前に、ブラットはさらに前に突っ込み【魔刃断頭】を首筋に叩きこんだ。


 一定以上のダメージを負ったことで怯みモーションが発動し、攻撃がキャンセル。

 その間に戻ってきたHIMAが槍で再生しかける触手を切って燃やして爆破して、ブラットが本体に攻撃を畳みかける。

 そしてバリアントクリーピーのHPは一気に削られていき一割、レッドゾーンに突入したその瞬間──また黒い衝撃波によってブラットとHIMAが吹き飛ばされてしまった。



「おわっ」「ええっ!?」



 今度はHIMAも驚いていた。なにせHIMAがやったときは、衝撃波による強制吹き飛ばしはHPが半分を切って触手モードに入る一回きりだったから。

 そして、さらに見たことのない形態にも変化していた。



「ィィィィィゥゥゥゥゥォォォォォオオオオオ」

「えっと、前にやったときはあんなの見てないんですけど……」

「モドキ種限定のモードなんだろうね」



 触手がなくなった代わりに、左手にはレイスを無理やり固めたような呻き声をあげる盾を、右手にはレイスを無理やり固めたような呻き声をあげる剣を持ち、周囲にはムンクの叫びのような顔がいくつも飛び交う謎のオーラを放っていた。



「えいっ、うん、まあそうなるぅぁっ!? あぶなっ」

「大丈夫?」



 試しに威力抑え目の省エネ魔刃手裏剣を投げつけてみたが、あっさりと盾に弾かれた上に流れるような剣による呪いの斬撃がお返しとばかりに飛んできた。

 いつもの癖でギリギリのタイミングで躱したせいで、微量ながらスタミナが奪われていた。



「たぶん直撃したら、ごっそりスタミナ持っていかれるね、あれ」

「あの変なオーラも気になるけど……どうする? ブラット」



 敵からポンポン飛んでくる斬撃を躱しながら、互いに今後の行動を確認していく。



「うーん……、とりあえずどんな感じかやり合ってみる。

 オレは死ににくいから、たぶん大丈夫なはず」

「分かった、フォローは任せて」

「任せた!」

「ォォォォォオォォォォォォォオォオオオオ」



 残りあと一割のHPを削るべく、ブラットは先行して駆け出し、そのやや後方につく形でHIMAも続いて走り出した。

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