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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第二章

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第二五話 ガンツ隊

 宿に戻る途中、昨日のメンバーそのままのガンツたち五人と出くわした。

 朝食がてら今後のことについて説明も必要だと、管理人から聞いて探しに来ていたのだ。

 軽く手をあげ挨拶もそこそこに、昨日と同じあの食堂までやってきた。

 象人のボンドはかなり夜更かししたのか一人だけ眠たげな顔を隠そうともせず、席に着くなり船をこぎだした。



「券は持ってきてるか?」

「ああ、持ってきてるよ」



 運ばれてきたのは昨日と全く同じ、適当に焼いただけの肉塊と激マズ飲料。

 せめてメニューくらいは変わるだろうと思っていたブラットは、がっくりと肩を落としなが朝食に齧りついていく。

 気落ちしている様子のブラットなど気にもせず、ガンツも大きな口で肉に齧りついて、ゆっくり咀嚼し終わってから、この隊の長として語りはじめた。



「今後のブラットについてなんだが、ひとまずうちの隊で預かることに決まった」



 昨夜ガンツはボンドたち同様、戦士の義務を果たすべく赤券を持ってブラットと別れた。

 そのまま意気揚々と出掛けたまではよかったのだが、すぐに国から出頭命令が来て彼だけはブラットの説明も含めて色々とお話をするはめになっていた。

 その話し合いの末、ブラットの今後の処遇について国のお偉いさんたちと一緒に決めてきたのだ。



「ひとまず? ってことは近いうちに移動もあり得るのか?」

「いや、今の一次進化段階の状態でいる限りは、うちの隊にいてもらうことになるはずだ。

 上の方針を聞いた限りだと、まずこの隊で経験を積んで二次進化した後、自分の隊を持つことになるってぇ流れだろうよ」

「自分の……つまり、今のガンツの立ち位置ってことか?」

「いやぁ、そいつはどうだろうな。確かにうちの隊は分隊長候補の新人育成として使われることが多いが──」

「そうなのか?」

「そうだぜ、ブラット。我らがガンツ隊が最低人数なのは、いつでもそういう人員を受け入れられるようにってのもあるんだ。

 もちろん、そのほうが身軽でいいってのもあるんだがな」

「そうそう。うちの隊から巣立った分隊長ってのもけっこういるんだよ。ガンツを慕う分隊長も多いしね。

 そういうところが国から評価されてるってのも、ガンツの価値がこの国にとって高い理由になってるんだ」



 中年エルフのワーリーと、純人のマッスル中年トッドがどこか誇らしげに自分の隊についてそう語った。

 こういう一面だけ見ても、ガンツは皆から慕われているのがよく分かる。


 確かにガンツはがさつでぶっきらぼうな風貌と性格をしているが、ブラットもたった少しのやり取りだけ見ても彼の面倒見の良さは理解していた。

 強さとしては打ち止めと判断されていながら、五級戦士の中では最上位の発言権を有しているのも、偏に彼の人格が成すところである。


 だが本人からすれば少し気恥ずかしかったのか、顔をしかめたガンツが話を元に戻す。



「あー……ゴホン。とまあ、そういう扱いをされてるのも事実だし、おそらくお前も経験として何度か分隊長をやらされることもあるだろう。

 だが本当にブラットが期待されているのは、さらにその上のはずだ」

「さらにその上?」

「ああ、普通なら四級や三級の戦士たちと同じ役割、つまり俺たちでも手に負えないやつが来たときのための後詰役。

 もっと上に昇級できる強さなら重要施設の防衛なんてことを国から任命されるんだが、ブラットの場合は〝神の恵み箱〟を授かってるだろ?」

「ああ、そうだな」

「俺も昨晩説明されてはじめて知ったんだが、力を示せた恵み箱持ちは、ある程度の自由意志での行動が認められているらしい」

「自由意志……? 破格の待遇だな」

「緊急事態やどうしても本人の手伝いが必要なときは出頭要請が出ることもあるようだが、基本的にはな。

 国はその上で、誰にもできない大きな成果を望んでいる。そのためなら、ある程度の融通を利かせることも視野に入れているらしい」



 国民は何かしら人類のために行動し続けることを義務づけられている。それができないのなら国外追放もあり得るほどに。

 しかしブラットの場合は自由に行動し、ときに国益になるかどうかも分からない行動においても認められるという。

 小人族のデンが破格の待遇と言ったのも頷ける。人によっては贔屓しすぎだと思われても仕方がない。



「だがブラット。これも聞いたんだが神の恵み箱と知識を授かる代わりに、神から試練を与えられるんだってな。

 その試練を優先させるための優遇措置らしいんだが……、やはりお前もそうなのか?」

「そうだな。これをやってくれって頼まれたことはある」



 BMOの手持ちスロットの中身を、零世界に持ち込めるようにすることと引き換えに──というのは間違った認識なのだが、こちらではそういうことになっているのだと直ぐに察し、ブラットはガンツの話に合わせていく。

 むしろ、そのほうが動きやすいとすら思いながら。



「……それが何か聞いてもいいか?」

「ベグ・カウの討伐だ」

「「「「「──っ!?」」」」」



 ほぼ無言で半分目を閉じたまま話を聞いていたボンドまで、目を見開き手に持っていた肉をテーブルの上に落としてしまう。



「やっぱり、そうとう厄介なやつみたいだな。ベグ・カウってやつは」

「や、やっかいなんてもんじゃねぇだろーが……」

「なんつーもんを頼まれてんだよ……」

「いや、むりだろ……」

「ありえない」

「神の試練だとしてもそれは……」



 ボンド、ガンツ、エルフのワーリー、小人のデン、純人のトッドの順でブラットの神の試練を暗に無謀だと口にする。

 そしてその表情は冗談だよな? とでも言いたげだ。



「言っておくが冗談でも何でもないぞ」

「……みたいだな。けどよ、そんなことホントにできんのか?

 相手は史上最悪のバケモンだぞ」

「もちろん今すぐってわけじゃないし、やれる限り準備もしていく。時間制限があるってわけじゃないしな。

 けど史上最悪の化け物か。ガンツたちは見たこととかあるか?」

「「「「「あるわけねぇだろ……」」」「「あるわけない……」」



 今度は何を言ってるんだという視線を向けられてしまう。



「そもそも目視できる範囲に辿り着く前に俺たちなんて死んでらぁ」

「ボンドの言う通りだ。資料によればベグ・カウは人類が最も栄えていた時代に、世界の覇権を握っていた国家〝アンテバルン〟を一夜で滅ぼしたとされている。

 国力で言うのなら、我々の国など吹けば飛ぶほどの強国をたった一体でだ。

 その後もその地を人類側に奪還しようと名だたる国々が討伐に乗り出したが、その全てを鎧袖一触がいしゅういっしょく

 奴は縄張りとした元アンテバルン領に一歩でも踏みこんだだけで、人もモンスターも関係なく全てを無に帰す破壊を撒き散らす暴君と化した。

 そのあまりにも桁外れの強さに、人もモンスターも誰も近寄らなくなった不可侵の土地に指定されている」



 このパーティにおいての頭脳担当でもあるトッドが、零世界においてのベグ・カウについて詳しく説明を付け足してくれる。



「ベグ・カウも余程その地が心地いいのか、手を出さない限り自分から動くことはないしな。あんなもんは放置に限るってもんだぞ。

 ここまで聞いてもまだ、お前はそんなものを倒すって言うのか?」

「それがオレがしなくちゃいけない試練だからな。大丈夫、安心してくれ。

 色々と考えてることもあるし、ガンツたちまで巻き込もうなんて考えちゃいない」

「馬鹿野郎。そんなことを言ってんじゃねーんだよ、俺たちはよ。

 別に人類のためなら俺たちは死ぬのなんて惜しくはねぇ。

 だが無駄死にだけは絶対にしたくないし、させたくないってだけだ。もちろん、お前もだぞ。ブラット」

「オレだって無駄死になんてする気はない。ちゃんと勝算が見えるまで手を出す気もな」



 ガンツたちと違って最悪ブラットが死んだとしても、色葉という人間は死ぬことはない。

 だからこそブラットの命を懸けて挑戦することもできるという気持ちがあるのは確かだが、無謀なトライをしてみすみす死ぬ気は毛頭ない。

 色葉にとってBMOをやっていくうえで、ベグ・カウの討伐というのは一つの最終目標とも言えなくもないのだから、彼らに何と言われても挑戦しないという選択はないのだ。


 強い意志は伝わったのか、ガンツたちもどうせ出来はしないだろうとは思いつつも、それ以上は止めはすまいと食事を再開する。



「さっきも言ったがベグ・カウは本当に最終目標だ。

 そこまで行くのにもおそらく色々と倒さなくちゃいけないと思うんだ。

 だからオレに現状、ガンツたちが知っている限りのモンスターたちの情報をくれないか?」

「そりゃそうだ。というか最終目標がそんなとんでもないのでなくても、その情報は知っておいた方がいいぜ」



 ワーリーの言葉にガンツたちも頷き返しながら、すっかりブラットにも説明役として認識されたトッドが現状人類側が知っているモンスターたちの情報を教えてくれた。


 それによると今、人類と明確に争っている勢力は七種──

 森林地帯ではオオカミ系、シカ系、カラス系、カマキリ系。

 沼地地帯ではワーム系、カエル系、スライム系。

 ──となっている。



「その中でも特に多く人類にちょっかいを出してくるのが森林に暮らすオオカミ系、カラス系。

 こいつらは主の縄張りの中心地が一番俺たちの国に近いからってのもあって、他勢力に対しての牽制もかねてマーキング感覚で子飼いのモンスターたちが攻めてくることが多い。

 次点でシカ系とカマキリ系と沼地の主たちの勢力。こいつらも多少頻度が前の二種よりも少ないってだけで、けっこう来る厄介なやつらだ。あとは──」

「まだいるのか」

「いるにはいるが、こっちはちょいと特殊だな。

 英雄ヘイムダルによって主を失ったことで、侵攻を止めて彷徨うだけになった岩石地帯のゴースト系たち。

 海岸沿いから海中までを支配するイカ系のモンスターたち。

 こいつらは危険だが、ちょっかいをかけにいかない限り、こっちには消極的なやつらだ」



 ゴースト系たちはヘイムダルが主を仕留めるまでは、どこの勢力よりも積極的に人類へ侵攻してきたモンスターだ。

 その侵攻は他のモンスターたちとも違い、縄張りを広げようという動物的意志など皆無で、人類の虐殺を至上の喜びとして暴れ続けた悪夢とも呼べるものたちだった。

 けれど主が倒された今は自由意志を持たず、自分たちの居場所から離れようとしない地縛霊状態でほぼ無害な存在に。

 岩石地帯も取ったところでどこにとっても大した魅力のない貧相な土地なので、他のモンスターたちも手を出すことなく完全にスルーしている寂れた土地だ。


 海は国からはそれなりに近いのだが、海側の主は陸地の縄張りにはそもそも興味がない。

 下手に突つかなければ、海の中で他の海の主たちと日々縄張りを巡って戦いを繰り広げているだけのモンスターたちだ。

 海洋資源は人類にとっては魅力的だが、海中においては今あげた他の全勢力中でもトップの危険度を誇るので、こちらから手を出すこともできず放置するしかない勢力でもある。



「ちなみにベグ・カウは、森林地帯か、沼地を越えたもっと先にいるはずだ。

 だからもし、そこまで行こうって言うのなら──」

「最低でも積極的な方のボスたちを蹴散らしておかないと、後ろから邪魔されることもあるわけだ」

「そうだ。一か所の主を倒したところで、他の主たちがそこを取ろうとやってくるだろうしな。

 それにそいつらを倒した先は、俺たちもどうなっているのか精確に把握できていない。

 もしかしたら森林や沼地の主たちより、もっとヤバいやつらがいる可能性だってある。

 ……ブラットならここまで聞けば、そもそもベグ・カウに挑むまでの道中ですら英雄クラスの功績を何回も積み上げていく必要があるって分かっただろう?

 さすがに心が折れたりは…………してないか」

「してないね。必要だって言うのなら、そいつら全員ぶっ飛ばしてやるだけだ。

 オレはオレのためにも、ベグ・カウを倒さなくちゃいけないんだから」



 現実を教えれば少しは気持ちが変わるかもしれない思っていたトッドだが、それどころかブラットはその難易度の高さに逆に闘志を燃やし出す。

 一度でも死ねば終わってしまう世界であり、危険でないに越したことはないと分かっていても、どうしても心の奥底に根付いた本性は変わらない。

 できるかどうか分からない状況に挑むときこそ、ブラットこと灰咲色葉は燃えてしまう性質なのだ。


 そのギラつく視線に一瞬あっけにとられるガンツたちだったが、まっ先にボンドが大きく笑い声を上げた。

 馬鹿にしてではなく、最高にクレイジーな仲間に向けて称賛の笑い声を。



「ぐっくっく、がぁーっはっは! 最高にぶっ飛んでるが、最高にいかしてるじゃねぇか、ブラット!

 これはマジでやっちまうかもしれねぇなぁ! がっはっはっは!」

「ふっ、他の奴ならただの馬鹿か狂人かってところだが、神に託されるなら可能性はゼロではないのかもしれない」

「そんな熱い目をされちまうと、こっちまで夢見ちまいそうだ」

「だな。英雄になるやつってのは、このくらい言ってのけられなきゃなれないのかもしれない。

 その若さと強さが羨ましくなってくるよ、こっちは」



 ボンドに続いてデン、ワーリー、そしてトッドが続けて笑い出す。

 ガンツだけはそんな自分の隊の仲間たちをしばらく冷静に眺めてから、一度考え込むように目を閉じてから軽く口角を上げた。



「了解だ。こっちの腹も決まったぜ」

「ガンツ?」



 先ほどまでとはまるで違う本物の戦士の力強い視線で射抜かれ、ブラットの背筋が思わず伸びたところでガンツは言葉の続きを口にする。



「きっといつかお前がベグ・カウに挑むなんてときには、俺たちなんかじゃ手の届かない高みにいるんだろうさ。

 だがな、それでもできることがあるってんなら俺は、俺たちは、お前に全力で力を貸してやる。

 それが例えお前の盾になって死ぬことだろうと、囮になって殺されることになろうともだ。

 だからその言葉、最後まで絶対に曲げんじゃねーぞ、ブラット」

「当たり前だ」



 ガンツから突き出された拳にぶつけるように、ブラットも拳を突き出して不敵な笑みを浮かべる。

 ボンドやワーリー、デンやトッドも同じような笑みを浮かべて拳を突き合わせ、この日、ブラットは本当の意味でガンツ隊の一員として受け入れられたのであった。

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