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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第一章

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第十九話 準備完了

 翌日。学生としての務めを果たし、色葉は葵といつものように帰路についていた。

 話すのは毎度の如くBMOについて。色葉はランランとの秘密は守りながら、昨日のゲームについて語っている。



「それじゃあ、もうロックスまで行っちゃったんだ」

「うん。そんで炎獅子っていうやつに挑んだんだけど、ボコボコにされちった。あいつ強すぎない?」

「あー、あいつに挑んじゃったんだ。あの辺であいつだけ異常に強いから、倒さず先に進んじゃってるランカーとかもいるくらいだからしょうがないよ」

「葵は倒したことある?」

「あるよ。私含めて四次進化した子らでフルパ組んで、ちゃんと炎対策装備も揃えて──だけどね。

 そこまでやったら、ある程度余裕をもって討伐できたよ」

「うーん、それだと装備をきっちり揃えられても一次進化状態じゃ無理そうだね」

「そりゃそうだよ。あの大陸最強のエリアボスとまで呼ばれてるんだから」

「そう言われちゃうと、無理してでも倒したくなってくるんだよねぇ」

「色葉らしいねぇ」



 また無謀な挑戦をはじめそうな親友に、葵はそういって微笑んだ。



「けどもうそこにいるなら炎獅子は一先ずおいて、ロックスから西方面にあるメントランの町を目指してみてよ」

「ん? なんで?」

「メントランからだけ行ける丘があるんだけど、そこで起こせるイベントをこなせば職業枠を増やせる称号が手に入れられるんだ。よかったら一緒にやろうよ」

「葵と? でも葵からしたら、あの辺のイベントはもうヌルゲーじゃない?」



 葵は既に別大陸に渡って活躍しているので、はじまりの町があった最初の大陸では歯ごたえのある戦闘は望めない。



「大丈夫。弱体化できる装備品つけまくって、色葉と同程度にまでキャラスペックを落としてくから。

 それにそのイベントで戦うやつの上位互換みたいな奴と近いうちに戦うことになってるから、その練習もかねて私もやっておきたいな──ってね」

「そっか。葵のためにもなるなら全然いーよ。私がそこまで行けて、また時間ができたとき一緒に行こ」

「うん、絶対だからね。そんなに急がなくてもいいから」



 ならば葵の足手まといにならないためにも、色葉は零世界に行く準備も兼ねたエリアボス狩りを優先することに決めた。



「ふふふふ~~ん♪」

「葵はなんだかご機嫌だね」

「むー。色葉は嬉しくないのー!」

「うわぁあ!? もー重いよ~」



 理由は分かっているくせにご機嫌な葵をからかおうとした色葉は、彼女に後ろからおんぶのようにのしかかられ体勢が前倒しになる。

 そのことに笑いながら文句を言えば、今度は葵が頭で色葉のほっぺをぐりぐりする。



「この半年間、色葉とゲームできなくて寂しかったんだからー! はぐー!」

「うわぁー噛みつくなー!」



 葵に首を甘噛みされ色葉が笑いながらじたばた藻掻いていると、ふいに後ろから声をかけられた。



「あんたら、こんな往来でなにやってんの……」

「ん? あ、さっちゃんだ」「あ、サチ」



 高田たかだ紗千香さちか

 色葉には『さっちゃん』、葵には『サチ』と呼ばれ親しまれている、同じ高校に通い教室ではだいたい一緒にいる面子の一人である。

 身長は低めで一六〇センチもなく、髪型はピンクのメッシュを前髪に入れ、セミロングの毛先を軽く巻いている。

 ちなみにメッシュはホロエク(ホログラムエクステ)なので、学校にいる間だけ素の髪色と同じ黒にしている。

 顔立ちは充分可愛らしいほう──なのだが、ここに色葉と葵という誰が見ても美少女と呼称する存在が近くにいるため霞んでしまっているのが残念なところだ。

 とはいえ本人はまるで気にしていないので問題はないのだが。



「やっぱり、あんたら付き合ってんでしょ」

「これくらい付き合ってなくてもやるでしょ? ねぇ、葵」

「そうだそうだー」

「はぁ……、まぁどっちでもいーけど」



 未だに色葉を後ろから抱きしめたまま離れようとしない葵に白い目を向けながら、さっきまで紗千香は嫌なことがあったせいで荒ぶっていた気持ちが急激に冷めていくのを感じた。



「さっちゃん、なんか元気なさげ?

 今日彼氏と会ってくるって言ってたじゃん」

「そのバカとはさっき終わった、今はフリーだよ」

「わお。けっこう続いてたのになんでまた」

「それがさぁ……」



 紗千香には二年ほど付き合っていた彼氏が──つい先ほどまでいた。

 紗千香としても仲良くやれていたと思っていたのだが、つい三ヵ月ほど前から状況が変わり、彼氏の方がだんだんと彼女との時間を作ろうとしなくなってしまう。

 理由は、その彼氏がとあるゲームにはまったからだ。



「えーと、まさかそのゲームって」

「あんたらが大好きなBMOっていうゲームだよ」

「「OH……」」



 最初は我慢できた。ゲームは最初の頃が一番楽しいだろうし、すぐに自分との時間も作ってくれるだろうと高をくくっていた。

 だがしかし、時間が経つにつれて恋人との時間は減っていき、最近では連絡も無視され、こっちから会いに行っても面倒そうな顔で対応される。



「なにそいつ、さいってー」

「でしょ。でもまぁ、ここまで付き合ってきた仲だし?

 最後にもう一回歩み寄ろうとしたわけよ」

「どう歩み寄ろうとしたの? サチ」

「そんなにゲームが好きなら私もやって見ようかな。そのゲームのこと教えてよ。ってね。

 そうしたらアイツなんて言ったと思う?」

「……分かんないけど、ろくでもない答えだったんだろうね」

「うん。『BMOは遊びじゃねーんだよ! こっちは忙しいんだ! 素人に構ってる暇なんかねぇ!』って言われた」

「「うわぁ……」」



 色葉も葵もドン引きである。二人ともBMOが大好きで暇さえあればプレイしているが、親しい人にそんなことを言うほど落ちぶれてはいない。



「えーと、さっちゃん。もしかして、その彼氏さんはプロゲーマーだとかそんなことは……?」

「全然。BMOのプレイ配信とかもしてるみたいだけど、視聴者数一〇人いけばいいほうらしいし」

「それはなかなか世知辛いね」

「だねぇ。けど、そう考えると治兄ってやっぱ凄いんだなぁ」



 兄──治樹は動画投稿以外に配信をすることもあり、それを色葉も見たことはあるが、そのときは軽く数万人の視聴者を集めていたことを思い出す。



「そりゃ治樹さんは日本のBMO界隈じゃ有名人だもん。

 それに喋りも面白いし、普通の人はやらないような変な事ばっか検証してるし。

 あれ? 変な事ばっかっていうと色葉もある意味そうなのかも? やっぱ、兄妹なんだねぇ」

「人様を変人兄妹の片割れみたいに言わないでほしいんだけど……。

 あ、そうだ! だったら、さっちゃんもBMOやったら?」



 話の流れをぶった切り、色葉が急に思いついたように目を輝かせて紗千香にそんなことを言う。

 言われた本人は「はぁ?」と口を開けていた。



「なにが、だったらになるわけ?

 あんまそのゲームに今いい印象ないんだけど?」

「だからね。その自称遊びじゃない野郎は今BMOが全てみたいになってるんでしょ?

 なら後からはじめたさっちゃんが追い抜いてさ、『あんたまだその程度なん? ぷぷっ』みたいな?」

「それは確かに、できたら気持ちよさそうではある……けど色葉、あんたの本音はただそのゲームの人口を増やしたいだけでしょ」

「ばれたかぁ。さっちゃん、あんまゲームとかやんないし、たまにはそういう遊びもしたいなって思ったんだけど。

 それにさっちゃんなら動機は何であれ、つまんなかったら直ぐ止めるでしょ?

 そういう言い訳があれば、誘えばやってくれるかなぁって」

「はぁ~~~。あー……うん、そうだな。ちょうど彼氏もいなくなったし、ここいらで女同士の友情を深めるのも有りっちゃ有りか」



 あけすけに遊びに誘われたことで毒気を抜かれ、紗千香の中でモヤモヤと燻っていた嫌な感情も一緒に薄れていく。

 こういうところが友達でいて楽な部分だと紗千香は改めて納得していると、未だに色葉に抱き着いたままの葵に『色葉は私の!』とばかりに子犬のような威嚇をされる。



(色葉は家族みたいに思ってるみたいだけど、こいつの場合は絶対ガチだよなぁ……)



 紗千香は『女に興味ねぇよ』と表情と合わせて、手をひらひらさせ意思表示しておいた。

 それが伝わったのか葵の小さな嫉妬もすぐに消え去った。


 それに苦笑しつつ紗千香は今、自分の持っているデバイスで遊べるかどうかをネットを開いて確かめてみることに。



「ちょっと古いからできるかどうか不安だったけど、アップデートで十分対応できるっぽいね。これならすぐ遊べそうだ。

 ふっふっふ、あのバカのためにこれ以上私の時間を使う気はないけど、たまたま会ったときに悔しがらせるくらいはしてみたいもんだね」

「でもさぁ、サチ。もしその男にざまぁしたい場合は数か月のアドバンテージを覆さないといけないから、結構大変かもよ」

「まぁ、別にどうしてもってわけじゃないし、無理なら無理でいいよ。

 けどよくよく思い返してみると勝算はあると思う」



 ゲームをやらない紗千香が自信ありげに笑うものだから、色葉は興味津々に「その心は?」と問うてみれば、なんとその元カレは本当につい最近キャラを作り直していたというのだ。



「えぇ? 遊びじゃないくらいやりこんでいたキャラを消して作り直したの? なんでまた」

「なんかアイツ『今はモドキの時代がきてて、キャラを作り直したばっかで忙しいからもう帰ってくれ』とか今日会うなり言われたんだよ」



 紗千香の言葉に思わず色葉と葵は互いの顔を見合わせる。

 葵が後ろから抱き着いたままなので、角度によってはキスをしているように見えていたことだろう。

 こういうところが付き合ってるとか言われるんだよなと、紗千香は第三者目線で彼女らに呆れた視線を送った。



「えっと、じゃあ、もしかしてその元カレくんはモドキではじめ直したと?」

「そうなんじゃない? なんかそのモドキってやつが流行ってて強いんでしょ。だったら私もそのモドキってやつでやってみ──」

「「──それはやめておこう」」

「──あ、はい」



 ゲーム玄人でも苦労する棘の道を、どうして友人に勧められようか。

 中途半端な知識を元カレ経由で知ってしまっている今の状況はかなり危うい。

 下手をすると苦労しなくていいところで苦労することだってあるかもしれない。

 これは私たちでしっかりと導かねば──。そう決心した色葉と葵は新たなゲーム仲間のためにと、BMOの初心者講座をはじめだすのだった。






 それから数日間、色葉は精力的に動いてきた。

 炎獅子以外の周囲のエリアボスに喧嘩を売りまくり、惜しいところで負けたりすることも何度かあったが、それでも最後は何とか倒してきた。

 もちろん炎獅子討伐もあきらめてはいない。毎日ログアウト前に喧嘩を売りに行き、数秒単位だが確実に戦闘時間を伸ばしながら、相手の動きを徹底的に頭に叩き込んでいる最中だ。

 そしてそれらボスたちのおかげで種族レベル、職業レベルも上がり、それぞれのスキルも増えた。

 新しい職業は零世界を見て方針を決めてからにするためRPを温存中なので、まだ覚えていない。


 そして今日。色葉こと『ブラット』は、サクラから体操服ではない新しいちゃんとした衣装を受け取った。

 前に見せてもらったデザイン画とほぼ変わらず、そのままの姿で出来上がっていた姿を見たときは思わず声をあげたほどだ。

 勇んで着込んだことでサクラにも笑われてしまった。だが嬉しかったのだから仕方がないことだろう。


 防御性能はブラットがいる町付近で手に入れられる防具などより優秀で、高耐久、汚れ防止、自動補修などなどサクラができる最大限までスキルの付与をしてくれてもいた。

 これを実際にゲーム内で購入しようと思ったら最前線プレイヤーでも躊躇する代金を請求されるほど。サクラが渾身の出来と謳う気合の入った逸品だ。

 それらはモドキの進化や詳しい情報を他人より多く知れるというのがサクラも余程うれしかったというのもあるが、この衣装は出来るだけ良い物をとはるるんが裏で素材を必死に集めたという兄馬鹿が炸裂した結果でもあったりする。


 ──こうして自身が決めていた期日がやってきた。

 サクラの衣装ができたら零世界に行ってみるという期日がだ。

 この日のために戦いだけでなく、必要になりそうなアイテムもちゃんと手持ちのスロットに詰め込んでいる。

 あとは最後の扉を開くだけ。一の町にポータルで戻ってきたブラットは、異世界へと続く扉の前に立ち手をかけた──ところで気が付いた。



「あ、そういえば着てる服とかも反映されないんだった……。

 せっかくカッコイイ服に着替えたのに……」



 また体操服姿に戻ったブラットは、衣装の方を手持ちのスロットに入れて向こうですぐに着られるようにしておくことに。

 まだしばらくは体操服生活は終われなさそうだ──と、ブラットは少しだけ切ない気分にもなるが、すぐに気持ちを切り替える。

 一度大きく息を吸って、長く息を吐いて深呼吸。パンッと胸の前で右こぶしを左の手のひらに当てて気合を注入。



「よしっ、これで準備万端。待ってろ、零世界!」



 今度こそ異世界への扉をその手で開き、ブラットはまだ見ぬ新たな世界へと飛び立つのであった。

これにて第一章は終了です。ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

次話、第二章より本格的に異世界での探索も話に関わってくるようになってきます。

BMOというゲームとはまた違う要素で、さらにお話が盛り上がっていく……はずです!


またお話のストックが少し不味い状態なので、次章は一週間後の10月19日(火)を予定しています。

私が思っていたより時間が取れた、もしくは書き進められるようだったなら、もう少し早く再開できるかもしれません。それではまた。

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