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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第一章

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第十六話 激闘の末

 三回目──四回目──五回目──六回目と、毒から復帰するたびにヴェノムキングリザードは、毒に侵されること自体に慣れていく。

 それに比例して毒状態のときに、一方的に攻撃することも難しくなっていた。


 それでも何とかブラットは相手の攻撃を潜り抜けてダメージを稼ぎ、ランランも必死に次の毒ポーション作りに勤しんだおかげで、ようやく終わりが見えてきた。



「ブラット! HPの残りがもうすぐ一割切るよ! 次で決められるかも!!」

「よっしゃ! 絶対に決める!」



 ランランが使い捨てモノクルで正確に解析をして、この長い戦いにも終止符を打つ時がやってきた。

 そんな朗報に浮足立つ心を落ち着かせながらも、ブラットは毒が切れる前にもう一回と後ろ足での踏みつけを予測して躱し、【武威増強1】【魔威増強1】【しっぺ返し】【自傷攻撃】に、蹴りと【魔刃】による四連撃をお見舞いしたことで【コンボ1】も乗り、この瞬間にできる最大の攻撃をお見舞いすることに成功した。

 そしてそれと同時にランランが言っていた通り、ヴェノムキングリザードのHPが一割を切った──その瞬間、それは起きた。



「──ヴゲッ」

「──っなんだ!?」「なにっ!?」



 ボンッと突然ヴェノムキングリザードの体が風船のように膨らんだ。

 まさか自爆でもする気かと、ブラットは急いでヴェノムキングリザードから走って距離を取っていく。


 ……だが、それは自爆などではなかった。

 空に向かってガバァ──とゆっくり大きく口を開くと、そこからズルズルと紫色の繭型の肉塊、それもヴェノムキングリザードとほぼ同等の大きさをしたものが吐き出され、風船のように上へと舞い上がっていく。


 何かしたほうがいいのか、何かしたらまずいのか。

 初見ゆえにその判断が付かず無難に何があっても動けるように、遠くから見守るという手しか取れないブラットとランランは、念のために防御系のバフと状態異常耐性のポーションを使って守りを固めておいた。

 ここまでやって失敗など、二人とも到底受け入れられない。


 ヴェノムキングリザードの頭上二メートルほどの場所でプカプカと浮かぶ紫の肉塊。それが不気味に鼓動しはじめ、八本の触手が伸びてきた。



「きもっ」「気持ちわるっ」



 触手はブラットたちには見向きもせず下に、つまりヴェノムキングリザードの方へと向かっていき、その体に突き刺さっていく。

 頭や背中から触手が体内に入っていっているというのに、ヴェノムキングリザードは痛がるどころか、どこか恍惚とした虚ろな目でそれを受け入れた。


 変化はすぐに訪れる。

 目から涙のように紫色の毒がボタボタと流れはじめ、それは半開きの口からもヨダレのように垂れはじめ、鼻血のように鼻の穴からも流れだす。

 前後の足から生えた鋭い爪の根元からも湧き水のようにチョロチョロと毒が流れてきたところで、全ての準備が整った。


 未だ大泣きするように流れる毒越しに、ブラットをロックオン。大きく口を開けて、その喉奥で毒液が渦を巻く。




「ガァアアアアアアアッ──!!!」

「だろうねっ!」



 口から真っすぐ毒が渦巻く竜巻のようなブレスがブラットに向かって放たれる。

 けれど初見の技とはいえ予備動作で予測はできたうえに、しっかりと距離も取っていた。

 のろくさしている余裕はないが、即断即決で動けば十分躱せる状況だ。

 全力で横に駆け抜け、後方にゴォォオオオッ──と毒の嵐が通り抜ける音が響き渡る。



「上! 上からきてるっ!!」

「はぁ!?」



 ここまでは予想できていたのだが、また知らない動きをヴェノムキングリザードは取っていた。

 その短い足でどうやってと言いたくなるほど猫のような大ジャンプ──からの両前足の叩きつけを、避けた方向へ狙いすましたように動いていたのだ。


 竜巻の余波が心配で一瞬意識が取られていたせいで、気が付くのが遅れたブラットがランランの声で気づいたときには、既に真上に巨大な足が迫っていた。

 けれどブラットの頭は逆に冷静になり、この状況を打破するべく思考が回り出す。


 ヴェノムキングリザードの着地時には、前足で逆立ちするような体勢に一瞬だけなる。そこで、あえて敵のお腹の下に潜り込むよう前に飛び込んだ。



(成功──次は横っ)



 背後で爆音とともに、ヴェノムキングリザードの前足が地面に叩きつけられる。爪や口から流れる毒の飛沫もお腹の下なら届かない。

 けれどお腹の下に入ったのなら、このまま後ろ足を地面につける勢いのまま潰してしまえばいいと考えるのは当然のこと。

 重力に引かれるように落ちてくる腹の下敷きにならないよう、ブラットは前に飛んだ時の勢いをできるだけ殺さないように横に向きを変え、四つ足歩行で這うように腹の下から急いで抜け出した。



(これも成功。次は──上だっ)



 地面に腹ばいになったヴェノムキングリザードは、立ち上がるより前に尻尾を動かし蠅でも叩くかのように、その先でブラットに攻撃を放ってきた。

 視野を広く保ちどこから来ても対応できるように動いていたからこそ、すぐに気が付けた。

 反復横跳びするように連続でビシバシと上から落とされる尻尾の攻撃をかわし続け、そうこうしている間にヴェノムキングリザードは体勢を整え焦れたように、呻きながら前足の爪による攻撃に切り替えてくる。



(尻尾のままでよかったのに!)



 これまでなら爪の攻撃も行動が予測しやすいだけに、ブラットにとっては回避はそこまで難しくなかった。

 けれど今はその手足を振り回すだけで毒液が周囲に飛び散り、近距離戦で悠長に避けていたら確実に猛毒状態になる厄介な攻撃に様変わりしていたのだ。


 これを防ぐには飛散する毒液が体につかないよう防水仕様の布で体を覆うか、付着しないよう盾などで防ぐか、もしくは猛毒に対する完全耐性を身に着けるかといったところだろう。

 しかし残念ながらブラットの着ている体操服は毒がかかれば濡れてしまうし、盾なんて持っていない。

 ランランのために相手の注目を集め続けなければならないから、下手に距離を取ることすらできない。

 猛毒の解毒ポーションも限りがあるので、爪を振られるたびに使っていたらすぐに底をつく。

 完全に詰みの状態だ──普通ならば。



(ゲームシステム的にできるはずっ!)



 ブラットは【魔刃】の【扇刃】を右手から作り出す。それを薄く大きく広げて、自分を完全に覆えるほどのサイズまで展開して見せた。

 【魔刃2】の出力でこんなに刃を大きくしてしまえば、攻撃能力は皆無。スライムがぶつかっただけで壊れるような最弱の刃だ。

 けれど〝飛散した液体〟くらいならば、これで十分。


 扇状の【魔刃】を体に這わすように密着させた状態で爪を躱す。毒液が爪の根元からばら撒かれるが、それは【魔刃】に付着してブラットまでは通らない。


 爪の攻撃を何度かした後、毒液のヨダレを巻き散らしながら口を開け、また毒の竜巻を近距離で放ってくる。

 だがこれは放射状に広がる攻撃でもあるので、実は根元の方にいたほうが躱しやすい。

 移動するブラットに当てようと顔を動かす相手の口の前に立たず、常に横面側に張り付くように動き続け、攻撃が止んだその一瞬を見計らって、閉じる前の口の中へ【魔刃】を突き刺す。

 それによるダメージはちっぽけなものではあるが、相手の視線はブラットに釘付けだ。


 続いて毒液を巻き散らしながらの引っ掻き、毒のヨダレを振りまきながらの噛みつき、尻尾の旋回攻撃、毒竜巻、巨体による体当たりにフェイントを混ぜた飛びつき……などなど、この状態になって、さらに多様性と攻撃範囲が増したヴェノムキングリザードの猛攻から、ブラットはランランからもらったポーションを惜しみなく消費しながらも見事(おとり)としての役割を果たして見せた。


 そして──。



「次の毒いくよ!」

「いつでもどうぞっ」



 【魔刃】の【扇刃】で毒のヨダレから身を守りながら、二連続噛みつきをブラットが躱す。

 ランランは先ほどよりも機敏に動き回る敵に確実に当てるべく集中し、耐性貫通毒をスプーン型の杖に乗せて構える。

 相手の動きをしっかりと見極め、攻撃後の隙を狙って毒の入ったビンを投げつけた。


 パリンッという音とともにヴェノムキングリザードは毒状態に陥った。

 しかしここで誤算が発生する。この形態になったからか、毒状態になった途端に攻撃モーションの速度が逆に上昇してしまったのだ。

 動作自体は同じなのでなんとか躱すことはできるが、これでは近づくことができない。



「これじゃあ攻撃できないんだが!?」

「……しょうがない。こっちにヘイトを向けるから、その間に何とかして! ここで決めるよ!」

「そっちで引き付けられるのか!?」

「手持ちの全部を放出すれば少しの間は持たせられるはず!

 だから私が引き付けられるのは、この一回きりって思っといて!」

「この機を逃したら終わりってことか……いいね、やったろーじゃん!」



 ギリギリの状態に追い詰められるほどに燃えるブラットに、『ドMさんかな?』とランランは苦笑しながら錬金道具をカバンにしまい、必要な道具を周囲に仕掛けながら手持ちスロットに手際よくセット。

 数秒で準備を済ませたランランは最初の狼煙とばかりに小さく黒い四角い箱を杖にセットして、それをヴェノムキングリザードに向かって投げつけた。


 ぽーんっと緩やかな放物線を描きヴェノムキングリザードのお尻にコツンと当たった瞬間、バババババッドンッ──という複数の破裂音の後に大きな爆発をおこした。


 小爆発による多段ダメージと爆発による大ダメージを期待した爆弾は、狙い通りランランのほうにヘイトを向かせることに成功した。



「これで決まるかもって思ってたんだけど、そんなに虫のいい話もないかぁ」



 『アイツの爆弾なら決まってたんだろうなぁ』とランランを含めた〝裏三大錬金術師〟としてBMO界隈では有名なプレイヤーの顔を思い浮かべながら、二投目の爆弾を放りながら地面にセットした結界と事前に撒いておいた〝フレイムピラー〟の溶液に水をかけて発動待機状態にする。


 そうしてようやくブラットが攻撃できる隙ができた。

 二投目の爆弾を警戒して躱すことを予測し、地面でさみしく爆発している爆弾を横目に攻撃。

 ヒットすることでブラットに一瞬ヘイトが向いて足を止めたら、三投目に酸性の薬品が投げつけられる。

 ランランをメインの囮にしながら、後ろからチクチクとブラットが攻撃。この図式をくり返すも、なかなか殺しきれない。

 ランランのすぐ近くまで迫り、フレイムピラーが発動。

 炎の柱に焼かれながらもその勢いは収まることなく、その右前足が振り下ろされた。

 しかしその爪はバリバリバリッ──と多重に張った使い捨ての防御結界を全て破壊するも、すんでのところで当たらない。

 その間にも後ろからブラットからの攻撃を貰うが、すぐ目の前にいるのだからと無視してランランに左前脚を振り抜いた。


 頼みの綱の消費アイテムによる結界もなく、それは直撃。

 ランランは一撃貰うと、データの粒子となって消えてしまう。けれどブラットもランランも慌てたりはしなかった。

 なんてことはない。これは使い捨ての囮人形。本人は少し離れた場所で、透明薬を飲んで隠れていたのだ。

 だがこれだけでは終わらない。人形が破壊されたことでトラップが発動。

 植物の太い弦がグルグルとヴェノムキングリザードに巻き付いて、動きを一時的に封じた。



「あとはよろしく、ブラット! 絶対決めちゃって!!」

「はいよっ」



 ランランのトラップで止められるのは精々三秒。けれどブラットは充分だとばかりに不敵に笑い、用意していたスキルを発動。


 種族スキル【武威増強1】【魔威増強1】で物理と魔法攻撃アップ。

 職業スキル【肉質操作2】で腕を限界まで硬く、【種族活性2】で腕の種族──緑人族の割合を増強し、杖としての性能をアップさせたことで魔法攻撃力アップ。

 【自傷攻撃】で攻撃力をあげ、【闘争本能1】でスタミナ消費を軽減。

 できる限り短く圧縮して威力を高めた【魔刃2】を握った両の拳の先から出し、制御不能な狂戦士のようにヴェノムキングリザードを殴って殴って殴りまくる。

 連撃数に応じて【コンボ1】の効果で威力は少しずつ上がっていく。

 【自傷攻撃】で減っていくHPは、【捕食回復2】で回収。このおかげで、捕縛時間内に自分で死ぬことはない。



「くたばれっ!」

「ッ──────」



 植物の弦を全て破り、ようやく脱出してブラットに振り向いた先で、ヴェノムキングリザードの鼻面に【魔刃】の刃が付いた右拳がクリティカルヒット。

 コンマ残っていたHPが全て消え去り、ヴェノムキングリザードはドロップアイテムを残し粒子となって消えていくのであった。



《条件が達成されました。

 シークレットイベント【毒竜王ファフニール1】が解放されました。》



「「…………え?」」

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レベルイーター 【完結済み】
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