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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第一章

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第十五話 洞窟のヌシ

「さてさて~、この先はボス戦か、はたまたここまでと同じモンスターラッシュか、どっちかな?」

「オレ的にはボス戦でさくっと終わらせたいところではある」

「それは私も同感。私の毒が火を噴くぜ!」

「毒は火を噴かんだろうに」

「やろうと思えばできるよ? このゲーム」

「まじで!?」



 無駄口を叩きながら数メートルほど洞窟を行くと、セーフティエリアよりもさらに開けた空間にやって来た。

 そこはこれまでの洞窟と違い、地面はごつごつした岩肌ではなく土が剥き出し状態。その剥き出しの地面からは、いくつかの背の低い草がそこかしこに生えていた。

 ブラットが見上げれば天井には大きな穴が開いており、空から差し込む太陽の光のおかげとでもいうように生えている植物たちも元気そうだ。


 そしてこの場所の中央には──、苔むした石の台座から成人男性のものほどある黒曜石でできた右腕が伸び、その手には何か古ぼけた羊皮紙のようなものが握られていた。



「あれだ! 私の目的は絶対にあの紙だよ!」

「だけど絶対に、このまま取りに行ってはいお終いってわけじゃないだろうな……」

「じゃなきゃセーフティエリアを用意したりなんて、しないだろうからね~」

「でもこのまま見ていても何も起きないっぽいし、もう少し先に進んでみようよ」

「分かった。そっちも注意してくれ」

「もちろんだよ」



 何が起きるのかは全くの未知。気を付けすぎるくらいが、ちょうどいい。じりじりと見ていてじれったくなるほど、ゆっくりと進んでいく。

 そのまま黒曜石の右腕まで残り五、六メートルといったところで、不意に地面が微かに揺れだすのをブラットの足裏が敏感に感じ取る。



「下がるぞ!」

「──えっ!? うん!!」



 揺れを感じ取れていなかったランランが一瞬驚きはしたものの、すぐに言う通りに後ろへとダッシュで下がりだす。

 その後ろを追うように下がりながらもブラットが視線を周囲に張り巡らせている間に、揺れはもっと大きくなっていく。

 そして──。



「ジィィイイイィイイィィィ────」



 黒曜石の右腕を守るように、地面からそれは現れた。



「ボス戦ってことで、あってそうだな」

「ヴェノムキングリザードの【亜種】。イベント専用の特別個体みたいだね。原種と比べてHPと防御がめっちゃ高い。

 んで当然のように完全な【毒耐性】持ち。耐性貫通ができる毒じゃなきゃ、私の持ってる毒は使えそうにないね。

 ソイツ自身けっこうやばそうな毒もってるから、解毒は自分でもすぐ使えるように意識しておいて」



 使い捨ての鑑定用モノクルを使ったランランの情報を耳にしながら、その毒毒しい赤と紫のまだら模様をした五メートルサイズの、胴と尻尾が他種よりも長い巨大トカゲとの間合いを取る。


 ヴェノムキングリザードが首を左右にコキコキと鳴らすような動作をし、その後勢いよく長い尻尾を横に振り抜いた。



「わっ──と、ぶなぁあああ!?」



 距離を取っていたためブラットはバックステップで危なげなく躱すが、それに合わせたかのようにカメレオンのように舌が伸びてきた。

 【飛行】も使って全力で横に飛ぶが、舌先が体をかすめ猛毒状態になりゴリゴリとHPが削れていくのが分かる。



「回復する!」

「助かる!」



 背中に解毒剤+回復効果のあるポーションがランランから投げつけられ、なんとか体勢を立て直す。



(ソロだったら今ので終わってたね……)



 仲間がいる素晴らしさを噛み締めながら、余裕綽綽(しゃくしゃく)と長い紫色の舌を巻き尺のように戻して口元を舐めるヴェノムキングリザードを睨んだ。


 ヴェノムキングリザードは大きく欠伸をするように口を開け、勢いよくバクンッと閉じると同時に体からすれば短めの手足をバタバタ動かし突撃してきた。

 大型トラックが突っ込んでくるかのような迫力に目を丸くしながらも、ランランにターゲットが向かわないように弧を描くように移動して回避を試みる。

 狙い通り今はブラットしか見ていないようで、ヴェノムキングリザードは軌道を細かく修正しながら正確に彼の方へと突進した。


 だが闘牛士のようにひらりと躱し、ヴェノムキングリザードは壁に激突。その一瞬生まれた隙に右足で蹴りを二回入れた後、流れるように右手に生やした【魔刃】の直剣を首の付け根辺りに突き立てた──が。



「えぇ…………」

「ジギィィィ」



 狼の足の蹴りも、魔法の刃も一切ダメージが通らない。何かしたかとでも言うように、表情一つ変えずに首を動かし、壁からブラットに視線が移った。

 そしてそのままバンッと大きな足を鳴らしながら、ブラットを噛み殺そうと紫色の唾液が滴る牙で襲い掛かってくる。


 慌てて下がりながらも、ランランにヴェノムキングリザードが向かわないようにだけは気を付けつつ声を挙げた。



「ランラン! こいつ硬すぎ! 全然ダメージはいんないんだけど!」

「みたいだねぇ。けど、さっき解析した感じだと今のブラットでも、まったくのノーダメージってのは考えにくいんだけどなぁ。

 デバフかけてみるから、ヘイト管理お願い!」

「攻撃が通らないんじゃどこまでできるか分からないが、やってみる!」



 ピュン──とランランがいる方角から、あのスプーンのような杖を使った投擲によって飛んできたビンがヴェノムキングリザードに当たって割れ、中の溶液が降りかかる。

 ゲームならではの青い下向きの矢印という効果エフェクトが発生し、ヴェノムキングリザードのDF(防御力)MDF(魔法防御力)の両方が下がったことをブラットに知らせてくれる。

 だが、ビンを投げつけられたことでランランへとヘイトが移ってしまう。


 ブラットに体当たりするように強引に体の向きを変え、彼女に向けて視線をロックオンした状態で首をわずかにすくめる動作に入った。



「──まずっ」



 それがなんの予備動作なのか察したブラットは、雑な体当たりを躱した場所から全速力でヴェノムキングリザードの頭に向かって駆けだした。

 すくめた首を前に突き出しながら、口をパカッと開き長い毒の唾液がついた舌が伸びようとする。



「させるかっ!」

「ジギッ!?」



 本人としてもできるかどうか半々だと思っていたが、射出された舌先を完璧なタイミングで右手から伸ばした【魔刃】で切りつけることに成功。

 舌にまでは強力な防御性能は備わっていないのか、きっちりと雀の涙程度ながらもダメージが入り、その痛みに反応したように伸ばした舌をすぐに口内に巻き戻した。

 そしてランランに向けていたよりも、遥かに怒りの籠った視線をブラットに向けてくる。



「口の中はダメージが通った!」

「でもデバフが効いた状態で、それっぽっちのダメージってのは厳しいなぁ。

 そろそろ私の毒も使ってみたいんだけど、いいっ?」

「ああ、毒が効くならそっちのほうがダメージソースになりそうだし──なっ!」



 後ろ足で立ち上がり前足を叩きつけてくるような連続のひっかき攻撃を、舞うように躱して注意を引き付ける。

 当たれば即死級ではあるが、単純な攻撃だけにブラットにとっては避けるのは容易い。


 ランランはその間に体の特徴や動きから推察しながら、いくつかの毒や薬液を混ぜ合わせて即興で作った、ヴェノムキングリザード特効毒液(仮)を杖を使って投げつけた。



「ギィィィィィイイイイ!?」



 ちょうど左目の辺りでビンが割れて、緑色のドロドロとした毒液が降りかかる。

 反応はこれまでのどの攻撃よりも顕著で、毒液がかかった辺りを地面に必死にこすりつけはじめる。


 この隙に自分も攻撃できないかと顔の方へと向かおうとすると、ジタバタと藻掻いているヴェノムキングリザードの尻尾の先が偶然迫ってくるのが視界に入った。

 もはや癖になっていたのか、回避とカウンターをほぼ同時に行ってしまう。



(どうせダメージ入んないのに、無駄なMP使っちゃっ──え?)



 手からパッと伸びた【魔刃】が尻尾の先を撫でるように切りつけただけだったのだが、ハッキリとダメージエフェクトが表示されるのが目に入る。

 ヴェノムキングリザードにはそのダメージに構っている余裕はないのか大した反応はされなかったが、確かにダメージが入ったのだ。それも舌先を切りつけたときよりも大きなダメージが。



(もしかして……?)



 半ば確信をもってジタバタに巻き込まれないようにヴェノムキングリザードに近づき、後ろ右足に二連蹴りを入れ、拳でも殴りつけた。

 最初に体を蹴ったときはびくともしなかったはずなのに、それだけでちゃんとダメージが入る。


 攻撃が通るならば迷う必要はない。この機を逃すかとできうる限りの攻撃をヴェノムキングリザードに叩き込んでいく。

 しかし──ガンッという、あの鋼鉄にでも攻撃しているかのとうな感触が戻ってきて、また一切のダメージが入らなくなった。


 それと同時に尻尾の薙ぎ払いが襲い掛かってくるが、ジャンプで躱し【飛行】ですぐさま横に移動すれば、あの舌の攻撃が脇腹をかすめブラットが猛毒状態に陥ってしまう。

 けれどそれも前と同様に、ランランによるポーションビンの投擲によって事なきを得た。

 さて、ここまでのことである仮説が成り立った。

 一つ、毒状態になったとたんに通るようになった攻撃。二つ、毒状態から復帰した途端に通らなくなった攻撃。

 以上のことから、ヴェノムキングリザードは──。



「ランラン! 毒状態のときだけコイツに外からダメージが与えられるみたいだ!

 じゃんじゃん、こいつに毒を使ってくれ!」

「みたいだね。まさに私向きのモンスターってわけだ」



 使い捨ての解析モノクルもまた使用して毒の経過を観察していたランランも、ブラットの考察に間違いはないと判断し、すぐに先ほどの改良版の毒を開発していく。

 先ほどの毒では効果量も効果時間も大したことがなかったのに加えて、解析結果によって既に先の毒専用の耐性が生まれて、さらに効果が落ちてしまうことが分かっていたからだ。



「同じ毒は二度と使えないって思ったほうが良いね。楽しくなってきた♪

 ブラット! ここからはちょっと本格的な道具を使いたいから、前以上にソイツを引き付けておいて!」

「善処する!」



 正直ダメージも入れられないのにターゲットを上手く取り続けられるか分からないため、ブラットはそんな不安になるような返事をしておいた。

 ランランは苦笑し「そこは、任せろって言ってほしかったなぁ」と口に出しながらも、〝カバン〟から錬金術に使う道具をガチャガチャと取り出していく。

 手持ちスロットと違いカバン使用中は一切他の行動ができないので、ここで攻撃されたらなすすべもないが、手持ちの簡易的な道具だけでは作れないのだからブラットを信じるしかない。


 完全なる毒耐性持ちに効く耐性貫通毒を、ちゃんと効果がある上で毎回違う物として完成させるという、現在のBMOトップ層の錬金術師たちですら不可能ともいえる超難易度。

 それを嬉々としてやってのけようというのだから彼女も大概、変人である。


 効きもしない攻撃をすることに虚しさを覚えながらも、ブラットは全力でヴェノムキングリザードの注意を引き続ける。

 けれどそのかいあってか相手の攻撃パターン、その予備動作も蓄積されていき、攻撃を掠らせることすらなく全て躱せるようになっていた。


 それを横目にランランは「なんのスキル補助もなしにあれって、やっぱり中身は忍者……?」と呟いていたが、それはブラットの耳に入ることはなかった。


 特効毒液ポーション・改を完成させ投擲。この投擲技術だけは何度も練習しプレイヤースキルだけで当てられるよう磨いてきたものなので、ブラットのように全体的に高いプレイヤースキルがなくとも狙いたがわずヒットする。



「ジィギィィイイ!?」



 また毒に侵され藻掻きはじめる。しかし最初の頃は完全なパニック状態だったというのに、二回目はそれより落ち着いて見えた。



(焦ってはいるみたいなんだけど……。近づくと、ちゃんと狙って攻撃してくるようになってる)



 攻撃と言っても精彩を欠いた尻尾の振り回しだったり、手足をじたばたさせる程度のものだが、明らかに動きが変わっている。



(回数を重ねるごとに、毒に侵される痛みにも慣れていくのかも。早めに決めなきゃ!)



 性能のいいMPポーションも貰っているので出し惜しみする必要はない。

 ブラットはできるだけ短期で決めるべく、【魔刃】もフル活用した上でヴェノムキングリザードに猛攻撃を仕掛けていくのであった。

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