暖かくも慌ただしい一日
出版日がきて、SNSでエゴサーチをしてしまう。チラホラ『買った』というコメント見てドキドキする。
猫好きな人が買っていたこともあり、マイナス要素の感想はない。しかし俺の心は全く安心出来ない。
そんな事をしている間にサイン会の日を迎えることになった。
言われていた写真展。それは売り場の横で絵本のように写真に纏わるエピソードを俺の本の中にある文書と共に紹介しただけのモノだった。その前に俺の本と、猫関連の本が並べられている。そんな大袈裟なものではなくてホッとした
早めに来てそれらを無関係者を装いつつ眺める俺。写真を見ながら横に並ぶ本をみなドキドキしていた。
【俺の部屋はニャンDK】というタイトルのその本は柵にミッシリハマった出会った当時のサバとモノの写真が表紙。
『東京で一人暮らしを始めました!
しかし俺の暮らすアパートにはアレが付いていた!?』という文がタイトルの下についている。
【あの人気猫ブログが書籍化に!! 秘蔵写真追加されトラオワールドも、パワーアップ
猫好き~が皆涙した、ニャンとも素敵なトラオとサバとモノの物語】
帯には恥ずかしくなるほど大袈裟な言葉が書かれている。一部の猫好きさんに読んで貰っているだけのブログなのでそう言われてしまうと恥ずかしい。
少しでも売る為にこういう細かい努力と苦労を感じる。サバに代理をしてもらった著者近影の下には、【〇〇大学理工学部学生。
根来山森商店街振興組合 広報部所属。
人気YouTube番組【ねこやまもり】企画・AD・カメラマンを務めている
さくらねこのTRN活動や告知作業を行うなど幅広い活躍をしている】
なんてことが書かれている。なんか肩書きが微妙に盛られている。
【貧乏大学生トラオの優しい猫語り! クスクスわらってホッコリして、最後に涙!
これを読むと街に暮らす猫さん達がもっと愛しく可愛くなる!】
そんなポップが立てられ、【上納品よこせ~】と喋っているサバの似顔絵までついている。それが絶妙に似ていて可愛くて感動してしまう。
人が近づいて来たのでソッと離れて売り場を見守る。近づいて来た人が本を手にして捲っているのを見てハラハラしてしまう。その人がサイン会のお知らせの看板を読んでいる。そういう光景を見ると緊張が高まりすぎて挙動不審になりそうなので離れることにした。
百~二百人くらいを予定しているというサイン会。そんなに人が来るのかも不安。誰も来なくて本の横のテーブルで座り続けるという可能性もある。
書店の人に昨日の段階で「整理券は七十くらいまで配布終わっているので大丈夫ですよ~!」と言われて少しだけホッとしたが、ドキドキが止まらない! 整理券貰った人が今日来れない可能性もある。
そして案内された先に行列がある事にホッとしつつ別の緊張が高まる。
しかしよく見ればチラホラと見知った顔がある。一番先頭に並んでいるのは柑子さんと柑子さんの友達。
列の途中にいたスアさんがいつもの笑顔で手を振ってくる。
大学の友達やアパートや商店街の人、商店街のイベントで何度かご一緒したカルチャースクールTERAKOYAの講師のお姉様もいた。
三人に一人は知り合い状態。そのため緊張も解れた。別の意味で照れくささもあったけと穏やかな気持ちで一人一人と向き合い短いながら対話は出来たと思う。
柑子さんと友達などは……「ファンなんです! いつもブログ読んでいます」と熱烈ファンを装ってきたので、返しの言葉も悩ましかった。でもお蔭で肩の力は抜けた。
シングは「来てやったぞ!」と偉そうに声をかけてきて。スアさんは職場の仲間キティーさんらとキャピキャピとしたノリでからかってくる。
ブログを読んでくれていて、更に本も、買ってくれた人も結構いてうれしかった。またいつもプログにコメント下さってた人にもこういう形で会えて猫話を出来た事は嬉しかった。
サバとモノは意外と人気者だったようで彼女達へのプレゼントも頂いた。
サイン会をしている間にも列は伸びて結果二百には少し届かず百八十一人の人が並んでくれたという。
最後の方は俺の事全く知らないけどサインくれるみたいだからといってた人もいたが、それはそれで有難かった。
そして夜は商店街で出版祝いパーテイなんてものを開いて貰い皆で大騒ぎする。そこで温かい弄りをうけその熱気と奢られ酒にホンワカと酔っ払う
そんな怒涛の一日を過し、アパートに戻りサバとモノに出迎えられてなんかホッとする。
「ただいま~お土産もいっぱいあるぞ~!」
そういうと二匹はブミッと鳴きながら俺の足に纏わりついてくる。和室に置いた袋に顔を突っ込み中を気にしている。
「そっちは俺へのプレゼントだよ! お前らのはコチラ!」
そう言うと顔を上げてコチラにくる。ナニナニ? という表情が可愛い。
こういうやり取りしていると、猫って結構人間の言葉理解しているよなと思う。
プレゼントと二匹の猫が一緒にいる様子を写真に撮りお礼の言葉をネットに上げてこの日は休むことにした。
俺の帰宅でテンション上げている猫を宥めながら布団にはいる。
これから貰った玩具で一緒に遊ぼうと誘う二匹の鳴き声を子守唄に俺は落ちるように眠りの世界に堕ちていった。




