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20:Room Runner

 森での走り方については、この三か月というもの、勝一郎はハクレンから散々に叩き込まれてきた。訓練用の棒を片手で振り回し、穏やかな笑みとガチの殺気をはらんで勝一郎たち二人を追いかけてくるハクレンの訓練を思い出せば、猿の群れに追われる今の状況にも多少は冷静に対処できる。


「ウ、ォォオオオオオオ!!」


 雄叫びを一度、速力を一気に上げて平らな地面を突っ走り、その先にある窪地に飛び込み、そこから先ののぼりの段差を【瞬気功】を繰り返して一気に跳び上る。

 登りの道には両手も併用。足だけではなく全身を使用して、どんどん複雑になる地形を最短の時間で駆け抜ける。

 ハクレンの訓練で学んだことだが、こうした悪路を走る際は、先の道の地形を把握して、複雑な道順をどう攻略していくか、その思考がかなり重要だ。

 幸い、勝一郎は自身の【開扉の獅子】のこともあって周囲の地形に対する観察力は優先的につけてきた。後は見える地形に対してどう対処するかを頭の中で常に計算し、それに合わせて全身を駆動させて様々な障害物を超えていけばいい。

 背中から右上方へ魔力の感覚。どうやら右手からとびかかってきた猿をロイドが魔術で迎撃したらしい。


「おいガキ、狭いのは我慢してやるから、勝一郎の進む方向はお前が指示しろ。できれば先の目立つ地形もだ!! テメェの能力ならある程度事前に分かんだろ!!」


「――やってみる!! ――兄ちゃん、そこの道を右だ!!」


 同じように訓練を受けてきたロイドの助言を受けて、ソラトが背中から勝一郎の行く先を指さし、指示を出す。

 かろうじて植物の少ない、道のようにも見える場所を右へと進み、再び平坦に戻ってきた道を、速度を稼ぐチャンスと【気功術】全開で駆け抜ける。


「俺が指示していいっていうなら、少し俺の能力にとって都合の良い道を選ばせてもらうぜ」


「どう都合がいいのかは後で聞かせろ」


「時間があるなら今すぐにでも話したいんだけどね……、そこ左!!」


 ソラトに言われるままに左の路へと飛び込み、比較的広くなったその場所を、勝一郎は木の根を飛び越えながら走破する。

 どうやらソラトはソラトでいろいろと考えることを始めたらしい。指示される内容も前二回のような突発的なものばかりではなく、先の地形の注釈まで入れた具体性を帯びたものになってきた。


「この先、ツタが多くなるからロイドは一度部屋の中に。右から二番目の少し狭いツタの隙間から行かないとその先の茂みに突っ込むから。その先に岩があるけどこれは普通に飛び越えていい。後はしばらく道なり、でもここは木の根が多いから気を付けて。ああ、後このあたりから少しの間、俺の能力が使えなくなる……!!」


 『なんで使えなくなるんだ』という疑問を一瞬の逡巡のうちに飲み込み、勝一郎は言われた通りのツタの真下をくぐって、その先にある大きな岩を【瞬気功】も用いて飛び越える。

 直前のツタのあたりで二人が部屋の中に身を潜めているのを確認し、その先の地面へは受け身をとって転がるように着地。すぐさま両足で地面を蹴って、少し暗くなった木々の隙間を駆け抜ける。

 そのあたりで再びロイドが背中の部屋から身を乗り出して背後の猿達への牽制を再開し、木々の影を抜けて若干明るさを取り戻したあたりでソラトも身を乗り出し、勝一郎の肩に手をつくようにして能力によるナビゲーションを再開する。

 と、その時。


「兄ちゃん右だ――!!」


 切迫した声。ソラトのそんな声にとっさに体が反応し、勝一郎は直後に右手の茂みから飛び出してきた猿の爪を紙一重の近距離で回避する。


(――っお、まずッ――!!)


 ただし、それによって一度体勢が大きく崩れていてしまった。

 背後から続々と猿達が追ってくるその中で、ただの一度であっても倒れ伏すのは致命的な隙だ。なんとか地面を蹴って走る体勢へと体を戻そうとするが、倒れる勢いにはどうしても歯止めが駆けられず、さらには倒れかけて進行方向がずれたことにより、目の前には藪が立ちはだかっている。このままではたとえ走り出せたとしても藪に突っ込むだけの結果になりかねない。

 と、忌々しくも藪を睨んだその時、勝一郎は一つの突破口に気が付いた。


(――この藪、真下が――、だったら――!!)


 判断は一瞬。次の瞬間には【瞬気功】にて一瞬のうちに【気】の準備を整え、開扉の力を足から地面へ間髪入れずに叩き込む。


「――開け、【開扉の獅子(ドアノッカー)】――!!」


 勝一郎の眼前、今まさに倒れ込もうとしていた地面に、突如一直線の亀裂が走る。

 次の瞬間に開くのは、やたらと細長く、一直線に前へと延びる両開きの扉。

 そしてそれらが内側に開いて現れるのは、開いた扉とまったく同じ面積の、細長く伸びる部屋だった。

 否、この部屋についてはもっとわかりやすく的確な表現がある。前方におよそ七メートル。藪の下を突っ切り、その向こう側へと続くその部屋は、勝一郎が飛び込み、一直線に走り抜けるための一本の通路だった。


「引っ込め二人とも!!」


 背中の二人へとそう叫び、勝一郎はそのまま転がるようにして部屋へと突入、足から着地して直後にその通路の中を走り出す。

 藪の下をくぐってその向こう側へ。たまたま目の前にあった藪が周囲から枝を伸ばす形で壁を作っていたため、藪の下が空洞になっていたのが幸運だった。この藪の真下にもしも根っこがあったなら、こんな手段はいくらなんでも使えなかっただろう。

 通路の終わりへとたどり着き、両手で壁の淵を掴み、【瞬気功】も用いて一息に地上の大地へと飛び上がる。

 背後で同じように猿達が通路を走って追ってくるのも感じるがそちらは無視。

 猿達の体の大きさで、特に掴む場所もない部屋を素早く出られるかは五分五分と言ったところだったが、猿達の足止めにわざわざ時間を割くくらいならば走って距離を稼いだ方が有意義だ。

 なにしろ追って来ている猿は、背後の通路にいる者達だけではない。


「兄ちゃん正面――!!」


「――うお!?」


 再び正面から、今度は樹上から飛び降りる形で襲い掛かる猿の姿に、勝一郎は思わずそんな声を上げる。

 声を上げて、気づけばその顔面に拳を叩き込んでいた。

 いかに凶暴で侮れない猿達と言っても、一体一体の脅威度はそれほどには高くない。肉弾戦なら手の長さの分、実は人間の方が強いくらいである。


「兄ちゃん……。今のすごいな」


「いや、とっさに手が出ちゃって」


「んなこといいからとっとと走りやがれ!!」


 さすがにそこは言われるまでもなく、すぐさま態勢を立て直し、勝一郎は再び背中から二人を生やした状態で走り始める。

 だが態勢は立て直せても、一度逸れてしまった進路はそうそうもとには戻せない。ましてや道と言えるものがほとんどない森の中で、大量の猿の群れに追われている現状ではなおさらだ。


「まずい、この道、さっきから別方向にしか進んでない!! ソラト、どっかで方向修正できそうな場所はないか!?」


「ちょっと待ってくれ……、もう少し進めば【鳥瞰視点】で周囲の様子が……、――ッ!!」


 と、言いかけていたソラトの表情が、突如として強い焦燥に染まる。

 背中から感じる雰囲気の変化に、勝一郎が即座に周囲を警戒するが、しかし直後にソラトが知らせたのはこれまでとは別種の危機だった。


「まずいぞ兄ちゃん。この先は行き止まりだ――!!」


「なんだって!?」


「大きな崖の方へと追い込まれてる。このままだと袋小路に追い込まれるぞ」


「――ッ!!」


 言われて前の方を見れば、確かに前方の緑の隙間から、行く先に高さ七メートルほどの巨大な崖がそびえ立っているのが見えてきた。

 どうやら地層が露出した崖のようで、その表面に色の変わった島のような模様があるのも見て取れる。


「――クソッ!! おいガキ、進路変更だ。どっか逃げ道探すんだ早く!!」


「駄目だ――!! 完全に取り囲まれてる。あいつら思ってたよりずっと頭がいい。逃げ道なんて、どっちの方向も完全に猿達で塞がれてる」


「――ソラト!! あの崖で、一番大きい面はどこだ!!」


 背中で怒鳴り合う二人に負けない声で、勝一郎は走りながらソラトにそう問いかける。


「なっ、面!? 駄目だ兄ちゃん。あの崖は土の壁だ。扉作って逃げ込んでも、今度は爪で引っかかれただけで簡単に引きずり出される――!!」


「いいから教えろ!! 行ける範囲でできるだけ大きな面にぶつかるには、あの崖のどこに向かえばいい――!?」


「――っ」


 有無を言わせない勝一郎の声に一瞬たじろいだ後、ソラトはすぐさま勝一郎の進行方向の、少し右にずれた方向を指さした。


「あっちの方にある面だったら、たぶん一番広くて凹凸もない。あの茂みを飛び越えれば後は普通に走れる地面だから、そのまままっすぐ進めば行ける」


「オーケー。そこまでわかれば十分だ――!!」


 再びの加速。

 【瞬気功】を用いて一気に茂みを飛び越え、その先の大地を蹴って、一気に森を突き抜ける。

 背後から来る猿達が一際騒ぐ。どうやら狩りの終わりを確信して、ある種の興奮状態に陥っているらしい。

 彼らはすでにこちらを殺して食う算段を整えているのだろうが、勝一郎達とておとなしく彼らの胃袋に収まるつもりはない。


 森を抜ける。周囲が一気に明るくなり、眼前には巨大な絶壁がそびえ立つ。

 地層がくっきりと残る土でできた壁面。ソラトに探させたその場所に、勝一郎は輝きを灯した右手から、一気に己の【気】を注ぎ込む。


「開け――【開扉の獅子(ドアノッカー)】――!!」


 直後に、背後の森から十匹近い猿達が襲い掛かる。

 背中の部屋から放たれるロイドの放水を潜り抜け、壁に手をついた状態の勝一郎めがけて飛び掛かった猿達は、しかし直後に勝一郎の体が消失し、代わりに奇妙な白い部屋が現れたことで、勢い余ってその部屋の中へと転がり込む羽目になった。

 そして、飛び掛かった数匹に遅れてその場で立ち止まった猿達は目の当たりにする。遥か真上で、スライドして開いた巨大な扉につかまって、三メートルは上へと急激な移動を果たした勝一郎の姿を。


「――【開扉滑走(スライドダッシュ)】、いや、壁を登っているわけだから【登上扉(ドアクライマー)】とでも名付けた方が適切なのかね」


 勝一郎が行ったことは単純だ。崖の壁面に横倒しの巨大なスライドドアを作り上げ、それにつかまり、上へとスライドさせて開くことで、己の体を一気に上へと引き上げたのである。

 もちろん、崖を一気に上まで登ることはさすがにできなかったが、しかし三メートルも上へと昇ってしまえば、いかに身軽な猿達とてどうあがいても届かない。

 後の問題は流石に下りることもできないため、なんとか崖の上まで上り詰めなければいけないということだったが、幸い勝一郎には村での崖登りの経験もあった。


「――【開扉の獅子(ドアノッカー)】」


 扉からさらに上へと手を伸ばし、触れた崖面に小さな扉を作って、開いたその扉の戸枠を掴んで体を一気に上へと引き上げる。

 崖を登る上で必要になる手がかり足がかりは、勝一郎は幸い【開扉の獅子(ドアノッカー)】のおかげで自由に作れる。

 一際広い面に行きあうことができたなら、その場所でふたたび【登上扉(ドアクライマー)】を使用してもいい。崖を登る筋力は【気功術】である程度賄えるため、実は勝一郎はこうした壁面をよじ登るのは苦手ではなかった。


「……は、はは、すごいな兄ちゃん。こんな脆い崖、上るなんて論外だと思ってたのに……。兄ちゃんの能力ってこんなこともできるのか……!!」


「おいクソガキ、油断してねぇで崖の上もしっかり見張れ。これで登ってみたら猿の団体さんがお待ちかねなんて事態になったら、いくらなんでも報われな――、ッ!!」


 ――と、ロイドが言いかけたその瞬間、森のひときわ高い木から何かが飛び出し、まるで矢のような勢いで崖を登る勝一郎の背へと飛んでくる。


「あぶねぇっ、クソガキ!!」


 ロイドがとっさにソラトを部屋の中へと突きとばし、向かってくるそれを正面から受け止めると、それは先ほどまで追って来ていた猿達の、中でも一際体格のいい一匹だった。


「――っおお!! こいつ――!!」


 勝一郎の背中へと掴み掛ろうとした猿の腕を右手で掴み、さらに喰いつこうと牙をむいた猿の額を左手で無理やり押さえつけ、その左手を猿に掴み取られたつかみ合いの状態で、ロイドが呻くようにそんな悪態をつく。

 見れば、猿の鼻の周りには血がこびりついていて、顔面に攻撃を受けたような跡があった。

 体格から見ても間違いない。勝一郎の部屋を石の一撃で打ち破り、直後に勝一郎に顔面を蹴り飛ばされた一匹だ。恐らく木の枝のしなりを利用して飛び出してきたのだろう。下手をすれば崖面にぶつかって命を落としかねない危険な行為だが、猿の浮かべる怒りの表情がそれらの理性的な判断を拒絶しているのをこちらに伝えてくる。


「ギィィィイッ、ギャァッ、ギャァアアッ!!」


「うわッ――、クソ!! 放せ、放しやがれ――!!」


「――クッ、ロイド、背中で暴れさせるな。このままだと崖から落っこちる!!」


「無茶言うな!! こちとら喰いつかれないようにするので精いっぱい――、うおおっ!?」


「おっさん――!!」


 扉から外へと落ちかけるロイドの体を、とっさに後ろからしがみついたソラトがギリギリで引き止める。

 だが対する猿の方は落ちることへの危惧など微塵も感じさせず、ひたすら体を揺さぶり、顔面を掴むロイドの手から逃れて牙を突き立てようともがいていた。ロイドとしては勝一郎の助けを期待したいところだったが、しかし勝一郎は勝一郎で崖登りに両手両足を使ってしまっており、背中で暴れる猿への迎撃などとてもできそうにない。


「おっさん、とにかくそいつごと部屋に入るんだ。このままだとあんたか勝一郎の兄ちゃんが崖から落ちる!!」


「アホぬかせ!! 部屋の中にはランレイやお前の姉ちゃんもいんだぞ!! こいつ引き入れたら中の二人まで危険に――!!」


「――言ってる場合か!! このままだと兄ちゃんごと落っこちて全滅だ!! 早く!!」


「――ク、だったらぁっ!!」


 ソラトに引っ張られながら部屋の中へと入りながら、ロイドはならばと掴んだ猿を逆さまにして振りかぶり、頭から床に激突するように全力でその体を投げ放つ。


「脳天カチ割れェェエエッ!!」


 だが相手の猿とておとなしくたたきつけられる気など毛頭ない。ロイドが投げるフォームに入って掴む手のゆるんだその瞬間、ロイドの胸を蹴り飛ばしてその手から脱すると、恐ろしいバランス感覚で空中で体を反転させ部屋の床上へと鮮やかな着地を決めた。


「ギェェェエエエエ!! ゲェッ!! ギェエエ!!」


 全身の毛を逆立て、牙をむいた威嚇の姿勢。猿のような体でありながら爬虫類の顔をした異形の生き物を前にして、ロイドは絶体絶命の心境で身構え、その前へと立ちはだかる。


(どうする、どうする、どうすりゃいい……!!)


 槍を出している時間はない。素手の勝負は危険が大きい。魔術にしても、ロイドが使える戦闘向けのものではどうしても発動までに時間がかかる。もっと簡素で、使い慣れた魔術でなければ、この距離では発動がまず間に合わない。


「鍋だ、ロイドォッ!!」


 と、ロイドが動揺に立ち尽くしていたちょうどそのとき、開きっぱなしの扉の向うから、聞きなれた勝一郎の声がする。


「鍋にぶち込め、ロイドォッ――!!」


「――ッ!!」


 外から響く、意味不明の発言。

 その意味にロイドが気付くのと、目の前の猿がロイドめがけて飛び掛かるのはほとんど同時だった。


(――無茶を言いやがるぜあの野郎――!!)


 心の中で悪態をつきながら、ロイドは右掌に瞬時に魔術を準備する。

 魔方陣が生み出すのは、人の頭より少し大きいくらいの小さな水球。だが実際のところこれはただの水ではない。湯気をあげ、あぶくを立てるそれは、実際には摂氏百度の煮えたぎった熱湯だ。

 それは戦闘用の魔術ですらない。ロイドの世界の常識。あまりにも使い慣れた生活魔術。

 【掌中鍋(ハンドボイラー)】。調理や煮沸消毒。今回の遭難では飲み水の確保にも使っていたそんな魔術を、ロイドは勢いよく振りかぶり、こちらへ喰いつかんと牙をむく、猿の顔面目がけて叩き込む。


「ギェェェェェエエエエアアアアアアアアアッッッ!!」


 絶叫。

 摂氏百度の熱湯を顔面に浴び、たまらず床の上へと転げ落ちた竜顔の猿が、その顔面を両手で押さえながら耐え難い痛みに声を上げて転げまわる。

 状況が状況ならば憐れみすら感じる状態だが、しかし今のロイドにはそんな感慨を抱く余裕もない。


「オラァッ、出ていきやがれ、この猿!!」


 転がる猿の元へと駆け寄り、そのどてっぱらに全力の蹴りを叩き込む。

 足に返る骨を蹴り折る感覚と共に、まるでボールのように猿の体がふっ飛び、開きっぱなしの扉を通ってそのまま外へと蹴り出される。

 ただし、猿が飛び出した先にあるのは崖下ではない。

 外ではすでに崖を登り切り、マントを外して地面に広げた勝一郎が、槍を全力で振りかぶって猿が追い出されるのを待っている。


「【骨貫き】――!!」


 必殺の突き。

 先にも一度猿を仕留めたその突きが、再び猿の胸を貫き命を屠る。

 貫かれ、勢いよく崖から押し出された猿の体が槍から抜けて、支えを失った猿の死骸が崖下目がけて落ちていく。

 当然、追ってくることなどもうできるはずもない。

 崖に背を向けて、走り出した勝一郎の背中には、もう先ほどまでのけたたましい声は聞こえてこなかった。


おまけの用語解説

凶猿竜(きょうえんりゅう)

 爬虫類のような顔つきのサルのような竜。体長一メートル弱と比較的小型で人間の子供ほどの背丈だが、非常に凶暴で弱い相手とみると自分より大きい生き物にも集団で襲い掛かる習性を持つ。こちらも村の戦士たちは未発見の生き物で、名付け親はロイドと勝一郎。名前の由来はそのまんま『凶暴な猿』。

 小柄だが握力は人間のそれを上回り、木から木へ飛び回って高速で移動する。肉も植物も食べる雑食生物だが、生物的な本能なのか弱い者いじめを好む傾向があり、防衛本能も相まってそれほど肉を好むわけでもないのに縄張りに踏み入った他の生き物を積極的に襲う。

 全体的に大型の生物が多い傾向のあるこの世界にありながら比較的小型で、単純な生物としての強さはそれほど優れているわけではない。

 にもかかわらずこの生物がやたらと強気に他の生物を襲えるのは、一つは彼らの生息する場所がひときわ森の深い地域で、大型の生物が中に踏み入れないことが大きな要因となっている。要するに森という環境の中ではこの生物もまた頂点生物なのである。

 逆に言えばこの生き物、森がなければ普通に捕食対象になりかねない生き物なわけで、森に入り込む生き物(特に一定以上の大きさの草食動物)を排除することで、自身の砦たる森の環境を守るというある種の共生関係を成立させている。結果的に。ええ。こいつらにそんな自覚はありません。本人、いや、本猿たちはただ凶暴なだけです。


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