48:チュートリアル完了
時刻は13日目 09:32。
俺達はようやく猫人族の集落に帰ってきた。
「ただいまにゃー!」
リコが駆けだして集落に入って行く。
集落の様子は出発前と変わりなく、仮屋も健在だ。
ただ一つ違ったのは、仮屋の中に何人かの猫人族が寝泊りしていたようだった。
気に入ってくれてるなら良かったが、これからはドワーフの作る家に引っ越してもらう予定なので、またみんなには気苦労をかけてしまうかもしれないな。
「ここが猫人族の集落か」
そして今は新たな住人になる、ドワーフ族のドグ達も一緒だ。
「ヒデェ臭いだな……」
ボサボサな黒髭のドワーフ、バラトが鼻を抑えている。
「なんでもグレイヴウルフやモンスターを避けるのに必要な臭いだそうです。今は木材の壁とウッドスパイクで防壁を作っていますが、その内に石に変えたいと思っています。そうすればこの臭いも必要なくなると思いますしね」
実際俺の中では、この防壁とスパイクがあれば臭いは必要ないと思っているが、万が一ということもある。まだ完全に安全を確保できるまでは常に慎重に行動していく。
「それなら石工のおいらが石壁作ってやっぺ」
ボサボサの黒髪で顔が隠れているドワーフ、ボッツが胸を叩きながら提案してくれた。
「それは助かります」
恐らく俺の作るコンクリートブロックのほうが耐久値は高いだろうが、それでもこの世界の技術で作られる物を用意できるなら、断然そっちのほうがいいだろう。
全てを俺の作った物で賄った場合、俺がもしこの世界から消え、それと同時に俺の作った物もこの世界から同時に消えてしまったら。俺はそれが怖い。
「こんな危険な場所にこんな集落があったとはな……」
俺以外の唯一人間であるティーナが集落を見て驚く。
猫人族の人間に対する感情は、俺が来たときのことを考えればあまりよろしくないだろう。
そのためまだ俺達は集落の中には入っていない。仮屋の近くで待機している状態だ。
「ソーセー!」
リコが一人で手を振って戻ってきた。ミリアムの姿はない。
「ミリアムさんはいませんでしたか?」
「ミリアムは今狩りに行ってるみたいにゃ」
「そうでしたか」
ミリアムがいないならティーナの紹介は後回しにしたほうがいいだろう。
「リコさん、ドワーフさん達を先にみんなに紹介してもらっていいですか?」
「わかったにゃ!」
「ということでドグさん、リコさんに付いて行って顔見せお願いします」
「そうだな、行くぞお前ら!」
「「「おおーーーー!」」」
気合の入ったドワーフ達がリコに続いて集落へ入っていった。
ゲイルも……いつの間にかいなくなっていた。神出鬼没だな。
「私は行かなくて良かったのか?」
「ティーナさんに今行かれると猫人族の人達がビックリしてしまうと思うので、ここのトップが戻ってくるまで仮屋で待機しててください」
「そうか……」
猫人族の集落を見るティーナの顔は、どこか物悲し表情をしていた。
「あ、そうだ、こっちに温泉があるので、先に入ってはどうでしょうか?」
あれから早く戻ってくるために急いで帰ってきたのだが、川で水洗いはしても温泉ユニットの用意はしていなかった。
ティーナは温泉に興味があったようだったので、これを機に入ってもらうのもいいだろう。
「あ、あるのか?!」
「はい、じゃあ案内しますからついてきてください」
流石に何も知らないティーナを一人でほっぽり出すのも悪いので、風呂場まで案内しよう。
脱衣所の扉を開けて中に入った。
「ここが脱衣所で、ここで服を脱いでもらいます」
「う、うむ……」
「で、服を脱いだらこっちの――」
風呂場の扉を開けて中を確認する。……よし、異常は無さそうだな。
「はい、ここが浴場になります」
異常がないことを確認し、ティーナに浴場を見せる。
「おぉ……! こんな立派な浴場施設があるとは……素晴らしい!」
心なしか予想以上にティーナのテンションが高くなっている気がする。
「それじゃあ私は外で作業をしているので、ゆっくりくつろいでください」
「あ、あぁ!」
ティーナを脱衣所に残し、俺は外に出た。
「ふぅ……」
久しぶりに一人になった気がするな。
俺ももう暫く一人を満喫したかったが、その前にまだやることが残っていた。
クラフトウィンドウを開き、フォージをツールベルトにセットした。
帰還中、粘土の土壌を発見したので採取して、フォージのクラフトしていた。
置く場所は……仮屋の入口横でいいか。仮屋の出入り口の横にフォージを設置した。
フォージの見た目は、石を組んで下部前方とてっぺんに穴が開いた見た目になっていた。
本当にこれで精錬やクラフトができるのか、とても不安になる見た目だ。
キャンプファイヤーと同じく、設置したフォージのクラフトウィンドウを開く。
クラフト一覧にはゲームと同じ様々なアイテムが表示されていたので、この辺りもゲームと同じように使って大丈夫そうだな。
さっそく鉄鉱石と粘土を、ウィンドウ右にある投入スロットにセットし、燃料スロットに木材を入れて着火した。
すると五秒ごとに鉄鉱石と粘土が消費され、投入スロット下にある素材一覧の数字が増えていった。
よしよし、問題なく稼働しているな。
ある程度素材が集まったところで、ウィンドウ左のクラフト一覧に、缶の文字が白く表示された。
さっそく缶のクラフト開始し、僅か五秒で完成した。
完成スロットから缶を取り出して手に持ってみた。
缶は開封された空き缶で、中には何も入っていない。
ゲームでは中に食料が保存された缶詰があり、それを使用して食べると、後にはこの空き缶が残る訳だ。
粘土バケツの水を適当にぶちまけ、今クラフトした缶で水を回収する。
明らかに量や体積が違うのだが、全て空き缶で回収され、場には水の一滴も残っていなかった。
勿論この水をこのまま飲めば腹を壊す危険があるので、この汚水缶をキャンプファイヤーで飲める水にする必要がある。
近くにあったキャンプファイヤーに燃料を入れ、汚水缶をお湯へクラフト開始だ。
十秒ほどで汚水缶はお湯になり、取り出しすとチュートリアルをクリアした。
これで全てのチュートリアルをクリアしたことになった。
長かったな……。まさかチュートリアルをクリアするのに十日もかかるとは思わなかった。
ともあれこれでチュートリアルを完遂し、スキルポイントを五ポイント入手した。
やっと本格的に動けるようになるだろう。
俺は一息ついてから、手に持った缶のお湯を飲んだ。
丁度いい暖かさのお湯が体を温める。
ここからが本番だ。
※※※※ 重要なお知らせ ※※※※
2020/07/07
改稿作業の一部が終わり、新規投稿しましたので、以後続きはこちらになります。
https://book1.adouzi.eu.org/n7655gi/




