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47:七人の小人


 時刻は11日目 08:21。

 

 俺達は今、川上に向かって川沿いを進んでいた。

 

 空は晴れ気候も丁度よく、川のせせらぎで心地も良い。


 崖上にあった小屋やキャンプファイヤー、痕跡の全てを破壊してきた。ティーナやドワーフ達のお蔭で足跡やそういった痕跡も消せたので、注意深く調べられない限りは大丈夫だろう。

 

 温泉ユニットは回収したので再利用が可能だ。

 

 ドワーフ達には全員にウッドスピアを渡したが、防具が無いのが不安要素だ。

 

 採掘所では布を拝借したので、布素材にして包帯を幾つかクラフトさせてもらった。この包帯は出血を瞬時に止める性能を持っているが、この世界でも同様の効果を発揮してくれるかは分からない。

 

 上位アイテムとして救急包帯というのがあるが、そっちは出血を止めて且つ体力も回復してくれる優れ物だ。残念ながらそれを作るための素材、アロエが無いので、今は用意することができない。

 

「しかしお前さんがいてくれれば、夜は野宿しなくて済むからいいな!」


 ドグがバンバンと背中を叩いてきた。

 

「集落についたらドグさん達に家を作ってもらう予定ですからね、お願いしますよ」


 そのために仲間にしたと言っても過言ではない。これでできないと言われたらそれまでだが、その時は別の方法を探すだけだ。

 

「なんだ、お前さんが作ったほうが早いだろ?」


 ドグの言う通り、俺が作ったほうが早く用意できる。だがそれじゃダメだ。

 

「私が異世界から来たというのは話しましたよね」


「あぁ」


「私の意思でこの世界に来た訳ではないんですよ。だからいつこの世界から私が消えるかも分かりません」


「……そうか。原因不明で飛ばされたのなら、またいつ転移させられるかも分からないか」


 ドグが納得いったように頷く。

 

「ですので、私が作った物も消えてしまう可能性があるので、皆さんの本格的な家を作るのはこの世界の人達じゃないとダメなんです」


「……そういうことならわかった。あそこから助けてもらって飯も食わせてもらって、一晩の寝床まで用意してもらった恩がある。そんな恩に比べれば安いもんだよなぁ?!」


 ドグが振り返り、後ろを歩いていたドワーフ達に呼びかけた。

 

「「「おおーー!!」」」


 ドワーフ達は雄叫びをあげて返した。その迫力のある重低音の雄叫びはがに響く。

 

「だけどよ、道具がねぇだろ」


 黒髭をボサボサに生やしたドワーフ、バラトが声をあげた。

 

「道具くらいソウセイが簡単に作れるんじゃないか?」


 ドグがバラトに話し、俺を見た。

 

「すみません、私が作れるのは私が作れるだけの道具なので、そういう建築作業に向くような道具はほとんど用意できないと思います」


「そうか……そうなるとちと厳しいかもしれないなぁ」


 ドグが難しい顔で髭を弄り、空を見る。

 

「アイアンインゴットは用意できると思うので、それをドワーフさん達で溶かしてもらって、自力で作ってもらうということは……できませんかね?」


 鉄を溶かすにはかなりの熱量が必要だったと記憶している。だがそんな熱を生み出せる道具をドワーフ達は持っていないし、俺自身もフォージのシステムを利用しているだけだ。


 俺の作れるフォージは、鉄鉱石を鉄に変換して、そこから様々な素材に更に変換できる仕様なので、自分で加工する手間が必要ないのが最大のメリットだ。しかし逆に言えば、自分で加工できないので、システムで決まっている物以外は作ることができないデメリットでもある。


 ドワーフの用意する炉なら、様々なことに対応できるはずだ。例えば俺がクラフトできない木を加工する道具、カンナの刃を作ったり。


 最悪、アイアンインゴットを強引に削ったり加工して道具を作るという手段も無くはなさそうだが……。

 

「……見てみないと分からないが、できるかもしれないな」


 ドグが考えるように俯いている。可能であるなら助かるが、どうやるのだろう。

 

「まぁできなくてもワシらで炉を用意すればいいからな、大丈夫だろ」


 仮にできなかったとしても、できるまで俺の用意した仮屋で住んでもらえばいいし、時間が経てばドワーフ達も自力で道具を集められそうだし、そこまで大きな問題ではなさそうだ。


 最終的に、いつ消えるかも分からない俺に頼らない生産を目指すのが、今の俺の目標だ。


 そのためにはドワーフ達には是非とも頑張って貰わねばなるまい。

 

 ▼

 

 時刻は11日目 12:04。天に太陽が昇り、清々しいほどに晴れ模様だ。

 

 ぐううううぅぅぅぅ……。

 

 この音は……。

 

 振り返るとお腹を押さえたリコがいた。

 

「にゃにゃ! こ、これは……」


 俺と目が合ったリコは驚いてあたふたしている。そろそろ昼ごはんの時間だし、ここら辺で休憩するか。

 

 小石の地面を踏み、周囲を確認するが、枯れた草木があるくらいで特に異常は見当たらない。

 

「それじゃあここでお昼ご飯食べましょうか」


「こんな場所で大丈夫なのか?」


 ティーナが辺りを見渡して確認する。

 

 大丈夫かと聞かれると大丈夫ではない。いつ敵が襲ってくるかも分からない場所だ、このままここで食べるのは危険過ぎる。

 

「だいじょばないので、木枠を組み立てて安全地帯を用意します。で――」


「だ、だいじょば……?」


 クラフトウィンドウ開き、『釣竿』と音声入力する。

 

 クラフト一覧に表示された釣竿のクラフトを開始して、ツールベルトに既にクラフトしてあった釣竿をセットする。

 

「その間、皆さんにはこれで魚を釣ってもらいます」


 釣竿を手に持って全員に見せた。

 

 ミリアム達は知らなかったようだが、ドワーフやティーナ達はどうだ?

 

「釣りか。餌はどうするんだ?」


 ドグは釣りを知っているようだ。ということは、ミリアム達は単に知らなかっただけなのかもしれないな。

 

「既に釣ってある魚や生肉の残りがあるので、それを餌にしてもらいます」


「魚? お前さんが釣りしてるところなんて見てないぞ?」


 インベントリにあるレインボーフィッシュを取り出した。

 

 臭いをかぐが異臭はしない。腐ってはいないようだ。

 

「はい、大丈夫ですね、これを切り身にして餌にしましょう」


 ドワーフ達が手に持ったレインボーフィッシュに群がってきた。

 

「目もしっかり黒いし、鮮度も悪くなさそうだぞ……」


「一体どこから取り出したんだ……?」


「いや、それよりもこれ食おうぜ」


「お、お前さん、食い物を腐らせず持ち運びできるのか?」


 ドグが目を見開いてレインボーフィッシュを見つめている。


「そうですね、この世界の物全てができるかは分かりませんが、多分できると思います」


「……どれくらいの数を運べる?」


 ドグの顔が真剣な表情に変わった。まぁそうなるよな。

 

「そんな大量には運べませんよ」


 食料を腐らせず大量に持ち運びできるとなれば、それは非常に大きな意味を持つ。

 

 視界の端でティーナがこちらを見ているが、気づかない振りをしておく。

 

「食料に限らず、資材とかも運べるので、色々と便利ですね」


「ソレは、ワシらには使えないのか?」


「残念ながら」


 苦笑いで申し訳なさそうに返しておく。

 

 クラフトウィンドに視線を向けると、全員分の釣竿が完成していたので、取り出して地面に置いていった。

 

「ではここに釣竿と餌になる生肉や魚を置いておきますので、皆さん頑張って釣ってください。釣った分だけ食べられますよ!」


 そう言うとドワーフ達はやる気に満ち溢れた顔に変わ、いや、豹変した。

 

「……!!」

 

 全員無言で釣竿を握りしめて、さっそく釣りを開始した。

 

「負けないにゃー!」


「オウちびっ子、ちゃんと釣れるのか?!」


「逆に魚に釣られるなよ!」


 ドワーフ達の楽しそうな笑い声が響く。


「にゃーー!! 負けないにゃ! 見てるにゃ!!」


 リコもドワーフ達に続いて釣りを開始する。まるで親戚のおじさん達に可愛がられている子供みたいだな。

 

 そして、今この場には俺とティーナだけが残っていた。ゲイルは……見当たらない。ゲイルのことだ、多分大丈夫だろう。

 

「ティーナさんは釣りしないんですか?」


「恥ずかしながら、話では聞いたことはあるのだが、実際にやったことがなくてな……やり方が分からないのだ」


 恥ずかしそうに告白するティーナだが、釣りの存在は知っていたようだ。

 

「簡単ですよ、魚が食べやすいように餌を千切って、この針にくっ付けて魚のいそうな場所に投げ込み、先端がググッと下がったら竿を引き上げて釣り上げるだけです」


 やや早口になってしまったが、理解できただろうか……。

 

「ふ、ふむ……」


 ティーナは難しそうな顔をしていた。誰かに付いていてもらったほうがいいな。

 

「リコさーーん! ティーナさんに釣り教えてあげてくださーーい!!」


 少し離れた場所で釣りをしていたリコを呼び戻す。同性の方が気楽だと思い気を使ったつもりだが、余計なお世話だったかもしれない。

 

「わかったにゃー! ……にゃ!」


 さっそくリコが一匹魚を釣り上げた。かなり上達したな。


「釣ったにゃー! 一番乗りにゃーーーー!」


「ガハハ! やるじゃねぇかちびっこ!」


「ちびっこ言うにゃーー!!!!」

 

「……とまぁあんな感じで魚が釣れるので、リコのところに行ってやり方を教えてもらってください」


 仮にも皇女に対してこんな扱いをして大丈夫なのかと不安になるが、本人はそれで問題ないようなので気にしないようにしたいが、なかなか難しい。

 

「わ、わかった。行ってくる」


「いってらっしゃいませ」


 よし、全員行ったところでさっそく安全地帯を用意しよう。

 

 床に壁二段、日差し除けの天井を用意すればいいか。

 

 壁込みで幅五メートルもあれば十分だろう。

 

 作業開始だ。

 

 

 ▼

 

 

 時刻は11日目 12:35。

 

 全員釣りを終えて、安全地帯で魚が焼けるのを待っていた。

 

 安全地帯の中は、中央に五メートル分の土台を用意し、その上にキャンプファイヤーを五個セット、両側には人数分の椅子を用意した。


 結局魚のほとんどはリコが釣り上げた物で、ドワーフ達の釣果はほとんど無かった。


 ティーナは二匹のレインボーフィッシュを釣り上げ、ご満悦の様子だ。

 

 魚は木の棒に刺してキャンプファイヤーで直に焼いている。

 

 今回はキャンプファイヤーのシステムを使わないで食べる方式だ。

 

 皆思い思いに話し賑やかだ。

 

 この安全地帯を作ってるときに思っていたのだが、釣りしてる最中も危ないなと思ったが、俺が作業していながら見渡していたので、まぁいいかと流していた。

 

 念の為安全地帯の壁の高さを三メートルにして、ドアを設置し、四隅の柱だけ五メートルの高さにして、天井との間に隙間を作り風通しを良くしてみた。

 

 席順はティーナが誕生日席で、そこから両サイドにドワーフ達が座り、俺とリコはティーナと反対側に座っていた。


「フフン、リコの釣った魚をドワーフ達にも分けてあげるにゃ! 感謝して食べるにゃ!」


「ありがとな! ちびっこ!!」


「ちびっこって言うにゃ!!」


「レインボーフィッシュなんて滅多に食えるもんじゃねぇんだけどなぁ」


「こまけぇこたぁいいんだよ!」


「ロックフィッシュも身がプリプリしてて美味いぞ!」


「酒が欲しくなるなぁ」


 魚に齧り付いて騒がしいリコとドワーフ達に、それを微笑みながら見ているティーナ。

 

 リコは元々人懐っこい性格のおかげか、もうドワーフと打ち解けているようで良かった。


 それにしても、こうしてみると七人の小人を思い出すな。ドワーフは八人いるが。

 

 ティーナが姫だとするなら、それを狙う悪い魔女は一体誰だろうか、などと思いながら、焼けた魚を手に取って齧った。

 

「それまだ焼けてないにゃ」


 ……生焼けだった。


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