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46:ひとときの宴

 

 俺、リコ、そして帝国の皇女であるティーナ、ドワーフ族のドグは崖上にある木造の仮拠点まで戻ってきた。

 

「おぉ、ドグ! こいつぁスゲェぞ!」


 黒髭をボサボサに生やしたドワーフ族の男、バラトが興奮しながらドグに話しかけている。バラトの髭や髪は濡れており、この様子から、温泉に入った後だろう。

 

「な、なんだどうした」


「いいからこっちにこい!」


 バラトはドグを引っ張り小屋の中へ入って行った。

 

「こんな所に小屋を作ったのか……?」


 ティーナは仮拠点の小屋を見て愕然としていた。

 

「ドワーフのボロ小屋で作った木のブロックを重ねたり繋げたりして作った、簡単な拠点です――」


「なんじゃこりゃあああああああああああああ!!??」


 説明していた小屋の中からドグの叫び声が聞こえる。

 

「ソソソソッ、ソウセイ!!」


 ドグが慌ただしく小屋から出てきて、俺の体を掴み激しく揺らしてきた。

 

「お、お前さんっ、魔道具を作れるのか!?」


 魔道具……。確かにあの無限にお湯が湧き出る温泉ユニットは、魔道具と思われても仕方ないか。

 

「い、いえ、魔道具は作れません」


 変な期待をさせてしまっているようだが、ここでその期待を裏切る。こういうのは早めに真実を知ってもらったほうがショックは弱いのだ。

 

「じゃ、じゃああの中にあるお湯が湧き出る道具はなんだ?!」


「私にも詳しく説明することができませんが、この世界の理とは違う力で動いています」


「この世の物じゃないだと……?」


 ドグは困惑した顔で見上げてきた。

 

「分かりやすく簡単に言うと、異世界の仕組みで作られた物なので、この世界で私以外が同じ物を再現することはできないでしょう」


 用意できるのは俺一人。つまり安定した量産には向かない。ゲームが違えば完全自動生産ができたりするのだが、ワールドクラフトにはそんなシステムは存在しない。

 

「……お湯が湧き出る道具というのはなんだ?」


 ティーナが興味を示したようだ。なんだかそわそわしているように見える。

 

「おんせんが湧き出てあったかいお湯に入れる道具にゃ!」


 俺の代わりにリコが説明してくれた。胸を張ってどこか誇らしげな態度と表情に、思わず頬が緩む。

 

「その、私も見させてもらっていいだろうか?」


 温泉ユニットにはティーナも興味があるようだ。

 

「どうぞ、あの中にありますので見てきてください」


「あ、あぁ……」


 ティーナは足早に小屋の中へ入っていった。

 

「さて……」


 時刻は11日目 0:02。大襲撃が終わり日を跨いでいた。

 

 冷えた風が肌を突き刺す。ドワーフ達は湯冷めしないのだろうか?

 

「さ、寒いにゃ……」


 リコが体を震わせていた。下と比べて崖上は風も強く寒い。

 

 監視時の暖として使っていたキャンプファイヤーのクラフトウィンドウを開き、燃料を入れて着火した。

 

「これで少しはマシになるでしょうか」


「……あったかいにゃ」


 リコがキャンプファイヤーに近づき、手をかざして暖を取っている。

 

「そうだ……」


 キャンプファイヤーが稼働してるなら、ついでに肉も焼いていこう。水も用意しないとだな。

 

 今この場には、俺とリコ、ゲイル、ティーナ、ドワーフが八人。合計十二人居る。

 

 肉は五十個以上あるな。四十個くらい焼いても問題ないだろう。

 

 仮に残ってしまってもインベントリに収納しておけば腐ることもなく保存できるので、いくら作っても損にはならない。

 

 各キャンプファイヤーに十個ずつ生肉を入れ、水の入った粘土バケツ二個をキャンプファイヤーの上に置き、調理を開始した。

 

「これ、どうなってるんだべ?」


 ボサボサの黒髪で顔が見えないドワーフ……ええと、ボッツだったか。

 

「分かりやすく説明すると……そうですね、私の能力で、燃料を入れ続ける限り、例え水の中でも燃え続ける道具です」


 ボッツは地面に頬をこすり付けるような姿勢で、キャンプファイヤーを観察していた。

 

「……ただ石を組んで炭が燃えてるようにしか見えないべ」


 キャンプファイヤーのほうは明るくなったが、小屋のほうは暗いままだな……。

 

 ゲームでは手に持った松明を壁や地面に設置することができたのだが、果たして今も可能だろうか?

 

 手に持った松明を小屋の上に設置しようと移動すると、小屋の中からティーナが出てきた。

 

「おっと」


 俺は入口から下がり、ティーナに道を譲る。


「あ、あぁ、すまない……」


 ティーナは呆けたような表情だったが、何かあったのだろうか。

 

 俺は再び小屋の入口の前まで行き、入口の上に松明を近づけてみた。

 

 すると松明は手から離れ、磁石のように壁にくっつき、松明を壁に設置することができた。

 

 松明にはそれまで存在していなかった金具が壁に設置されており、松明を支えていた。

 

 ゲームと同じ見た目、同じ仕様なのだが、こうして現実で見ると無茶苦茶な現象だな……。

 

「で、これからどうすんだ」


 松明を観察していた俺の後ろにゲイルがやってきた。

 

「流石に夜に移動するのは危険でしょうし、まずは食事と十分な休息をとりましょう」


「そんな悠長にしてていいのかよ」


 ゲイルの指摘ももっともだ。こんな明かりを照らし、騒ぎ、いくら道から隠れている場所にあるとはいえ、採掘所の様子を見てきた者が異変に気がつけば、すぐにこの場所も見つかるだろう。

 

 流石にもうこないとは思うが、明日の朝にくる可能性もある。早めに移動しておきたいところだな。

 

「早朝にはここを出発します。今度は歩いて戻ることになりますからね、体力は回復させておきたいです」


「……そうかよ」


 ゲイルはそれだけ言って暗闇へ消えて行った。見回りに行ってくれたのだろうか?


 俺は二個目の松明を手に持ち、肉を調理しているキャンプファイヤーまで移動した。

 

 インベントリを開いて中を確認すると、既にいくつか肉が焼きあがっていた。完成した焼けた肉を自分のインベントリに移動する。


「よし、リコさん達、ちょっとそっちに移動してください」


「わかったにゃ」

 

 キャンプファイヤーで囲まれた場所の真ん中に木枠ブロックを置き、強化して木材ブロックにした。

 

 木材ブロックの上に焼けた肉を無造作に置いていく。

 

「はい! ドワーフの皆さん、肉が焼けたので、焼けた肉からこの上に置いていきます! とりあえず一人二個まででお願いします!」


 それまでキャンプファイヤーや小屋、風呂を見ていたドワーフ達が一斉に集まった。

 

「肉だ……」


「しかもデケェぞ……」


「食っていいのか……?」


 集まったものの、ドワーフ達は手を出さない。

 

「ソウセイ、本当に食っていいんだな?」


 ドグが俺に確認をとる。

 

「はい、数はそこまでないので、今は一人二個まででお願いしますね」


「……分かった」


 ドグが手を伸ばし、木材ブロックの上に置かれた焼けた肉を手に取った。

 

 ガッツリ手に持っているが、熱くないのだろうか?

 

「…………ハムッ!」


 ドグが豪快に齧り付く。

 

「ど、どうだ? 美味いか?」


 他のドワーフ達全員がドグに注目している。ドグは肉の咀嚼を続け、暫しの沈黙が流れた。

 

「………………美味い! お前らも食ってみろ!」


 ドグのその声を聞いたドワーフ達は次々に肉を手に取って齧り付いていった。

 

「おおおぉ、久しぶりの肉だ!」


「うめっうめっ!」


「こんな美味い肉初めて食ったかもしれねぇ!」


 肉の感想は概ね好評のようだが、空腹や飢餓状態の者が一気にこういう物を食べると、最悪死んでしまうという話を漫画とかで見たことがあるが、果たして大丈夫なのだろうか?

 

 キャンプファイヤーから焼けた肉を取り出しつつドワーフ達を観察するが、特に異常のある者はいなさそうだ。


「ん……?」

 

 ドワーフ達の隙間から猫の尻尾がぴょこっと出ていた。

 

 どうやらリコも一緒に中で食べているようだ。

 

 その騒ぎから一歩離れた場所でティーナはその光景を眺めていた。

 

 ティーナの前にも木材ブロックを用意し、肉を置いた。

 

「……どうぞ。味も素っ気もないかもしれませんが、毒は入っていないので食べられますよ」


 ウィットに飛んだジョークを言ったつもりだが、ウケただろうか。

 

「食器が無いのでこんな状態ですが、問題なく食べられますので……」 

 

「フッ、ありがたく頂こう」


 器も何も無い木材ブロックの上に直置きだったが、ティーナは嫌がる顔をするどころか、微笑んで手に取り、齧りついた。

 

 皇女にこんなことしてるとか、不敬罪で処刑されても文句一つ言えないな。

 

「これは、凄いな。焦げている表面を見て焼き過ぎているように見えたが、決して焼き過ぎてはおらず、それでいてしっかり火が通っていて、とても柔らかく食べやすい」


 皇女殿下のお墨付きを貰ったようだが……一番最低ランクの食べ物でこの評価とはな。まぁ今の状況や使用している道具や肉、それらを加味してこの評価なんだろう。

 

「皇女様のお口に合ったようで安心しました」


 俺は頭を下げた。目上の者には弱い日本人の悲しい性か。

 

「……その、皇女様というのはやめてくれ」


 顔を上げるとティーナは悲しそうな目をしていた。

 

「私はもはや皇女とは言えない……」


 ティーナの視線は斜め下を向き、自嘲気味な言葉を吐き捨てる。

 

「……ではなんとお呼びすればよろしいですか?」


「ティーナで構わん」


 仮にも皇女である女性のファーストネームを呼ぶのは気が引けるが、本人がそれを望むのなら致し方ない。

 

「分かりました、ティーナさん」


 新たに仲間に加わった人間の皇女、ティーナの名前は覚えた。

 

 だがドワーフ三人組は顔と名前が一致しきれていない。覚えるのは少しかかりそうだな……。前で騒いでるドワーフ達を見て軽く溜息を吐いた。

 

「お前は何も聞かないのだな……」


 ティーナのその言葉で振り向くと、目が合った。儚げで、今にも壊れてしまいそうなその瞳に、俺は一抹の不安を感じた。

 

「……話したくないこともあるでしょうし、ティーナさんが話したくなったら話してください」


 色々聞きたいことはあるが、今は食事中でそういうことを聞くタイミングでもないだろう。

 

 そう言えばこんなやりとり、ミリアムのときにもあったっけな。

 

「……感謝する」


 基本的にゲーム脳である俺は、まだ時期ではないと判断し、ティーナの好感度を上げてから色々聞いた方が良いと判断した。今色々聞いても逆に好感度が下がってしまう恐れもあるし、やはり本人も慣れてない人間には話しにくいだろう。


 それに、仮にも皇女である自分が、人間を裏切るような形で敵対組織について行っていることに対して、葛藤している節も見受けられる。そんなティーナの心境は、決して穏やかなものではないはずだ。


 だから、待とう。


 その後は、沸騰したお湯をガブ飲みするドワーフに驚かされたり、寝床の拡張を全員に見学されて落ち着かなかったりしたが、なんとか寝床の拡張作業を終わらせて眠りにつき――



 そして夜が明け、俺達は猫人族達がいる集落へと足を進めた。



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