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45:ふいご

 

 ドワーフ十五人分の足枷を外し終わった。

 

 足首をさする者、俺の出した椅子を観察している者、遠巻きに俺を見ている者、ドワーフ達の反応は様々だ。

 

「改めてお前さんには感謝するぞ。ソウセイ」


 禿げたドワーフがやってきた。その手には俺が渡したウッドスピアが握られている。

 

「……私の勝手で貴方達を助け、私の仲間になってもらうつもりですが、貴方達ドワーフは私についてきてくれますか?」


 攻撃されるかもしれないという恐怖を悟られないよう冷静を装い、真顔で問う。内心心臓バクバクだが、決して悟られてはいけない。

 

 ドワーフを捕えた人間が、ドワーフを仲間にするために、ドワーフを助ける。ふざけた話だな。


 この世界における人間の立ち位置は非常に危ういものだと思う。それ故、そう簡単に仲間になってくれるとも考えづらい。

 

「あぁ、ワシらはお前さんについて行こう。ワシはドグだ」


 しかし禿げたドワーフことドグは、笑顔で友好的に接してくれている。

 

「オレもお前の作る物が気になるからついて行くぞ。オレはバラトだ」


 ボサボサの黒髭をしたドワーフ、バラトがドグの隣にやってきた。

 

 俺に話しかけていたドワーフ達は好意的な反応だが……。

 

「……助けてもらったことには感謝する。だがワシらは別行動させてもらう」


 一部のドワーフ達がまとまっていた。……六人くらいか。

 

「……そうですね。無理強いはしません。付いてくるも別行動するも自由です。他の人達も私に遠慮なく決めてもらっていいですから、よく考えてください」


「ソウセイ、いいのかにゃ?」


 俺に掴まっていたリコが心配そうな顔で見上げている。

 

「無理矢理従わせたのでは今までの人間と同じですからね、ドワーフ達の意思を尊重します」


「そん、ちょう?」


 首を傾げている。リコには難しい言葉だったか。

 

「ソウセイについていくやつぁこっちにこい!」


 ドグが声を張り、ドワーフ達に呼びかけた。

 

 立ち位置の決まっていないドワーフ達はそれぞれ顔を見合わせ、どうするか話している。

 

「おいらはソウセイについていくべ」


 ボサボサの黒髪で顔が見えないドワーフが俺のところにやってきた。

 

「おいらはボッツ。石の加工が得意だべよ。ソウセイに付いて行けば肉が食えるみたいだし、行かない理由はないべ」


 物腰の柔らかそうな言葉に、このドワーフから良い人であるという雰囲気が感じられた。

 

「それに姫さんと一緒に行けるなら迷う理由はないべ」


 訂正。ティーナを語るときの言葉からいやらしい雰囲気が感じたので、実はただのスケベオヤジなのかもしれない。

 

 それからドワーフ達は思い思いに別れ、俺達の方には八人、別行動組の方には七人ドワーフが集まった。

 

「それじゃあワシらは行かせてもらうぞ」


「あ、肉は食べていかれないんですか?」


「……怪しい人間の出す物を食える程、ワシらはお人よしではない」


 それだけ言い残し、七人のドワーフ達は採掘場の出口へ向かう。

 

「すまんな、悪く思わないでやってくれ」


 ドグが申し訳なさそうに謝罪する。

 

「いえ、彼らの言うことも最もですからね……」


 ドワーフの誇りの高さを感じられた気がした。これからもこういうことは起こるだろう。今回は誰も傷つかず事が済んだが、刃傷沙汰になることも考えられる。

 

 次はもっと慎重にいこう。

 

「さて……」


 俺の所に残ったドワーフ達を見渡した。

 

 八人か。食料問題が完全に解決した訳ではない現状、丁度いい人数調整ができたのかもしれないな。

 

 いい加減肉も食わせてやりたいのだが、気がかりなことがあった。

 

「皇女様、補給とかそういうのが来るのは、いつごろになりそうですか?」


 補給。見て分かる通り、畑も水源もないので、ここで自給自足されていた訳ではない。つまり定期的に補給する人間がきているはずだ。

 

 ティーナは顎に手を当てて考えていた。

 

「……あぁ、確か二日後には補給がくるはずだ」


 これが嘘の申告で今日来るという可能性もあるが、疑い出したらキリがないな。

 

 どちらにせよ、このままこの採掘場に長居するのは良くない。

 

 とりあえず崖上の仮拠点まで移動しよう。あの場所も破壊して、居た痕跡を消しておきたい。

 

「分かりました。とりあえず崖上に移動しましょう。ゲイルさん、ドワーフさん達を案内してもらっていいですか?」


「……チッ、お前はどうすんだよ」


「私は少しここを調べて、使えそうな物がないか探してみます」


 俺の視線は乱雑に置かれた野ざらしの鉱石に定まっている。

 

「……あの風呂は使わせてやんのか?」


「はい、壊す前に使ってもらいましょう」


「分かった。オイ、ドワーフども、こっちだ」


 ゲイルは振り返ることなくそう言って、ドワーフ達を案内してくれた。

 

 そしてこの場には俺とリコ、ティーナ、そしてドグが残った。

 

「あれ、ドグさんは残ったんですね」


「お前さん一人じゃ分からないこともあるだろう」


 それもそうか。分からないことはティーナに聞けばいいと思っていたが、現場の人間に聞くのが一番良いか。

 

「さて、それでなんですが、鉄のパイプみたいなのってありませんか?」


 フォージの材料になる鉄のショートパイプ。ここにきた目的の一つだ。

 

「鉄のパイプか……」


 ティーナは顎に手を当てて考えている。

 

「そんなモン何に使うんだ?」


 ドグは怪訝そうな顔をしていた。

 

「フォージ……炉を作るために必要な資材なんです」


「……お前さん、炉が作れるのか?」


 ドグの顔がはっとした表情に変わる。

 

「まぁ私だけしか使えない、特別な炉なんですけどね」


 ドグに変な期待をさせてしまったかもしれない。少し申し訳ない気持ちになった。

 

「そうか……」


 ドグは肩を落として落胆している。ドワーフなら簡単に炉を作れそうだが……。

 

「ドグさん達なら鍛冶用の炉とか簡単に作れそうなイメージですが……」


「そりゃあ資材や道具があれば造作もないが、そんな物どこにある?」


 ドグはお手上げと言わんばかりに肩をすくめている。


 確か動画で見たことがあったが、粘土を加工して、そこから炉を作り出していたりしたが、そういう感じでできないのだろうか?

 

「粘土とかあったと思いますが、駄目ですか……?」


「……粘土はあるのか」


 ドグは腕を組んで考え始めた。

 

「粘土ならいっぱいあるにゃ!」


 リコが援護射撃のように言葉を続けてくれた。

 

「……それなら、できるかもしれないな。時間はかかりそうだが」


 ドグの眉間にはかなり皺が寄っていた。難しい道のりなのかもしれない。

 

「フォージが作れれば、アイアンインゴットがクラフトできて、鉄の道具も用意できるようになると思うので……」


「なんと、お前さん一人でそんなことまでできるのか!?」


 それまで難しい顔をして俯いていたドグの顔が、グリンと勢いよくこっちへ向いた。

 

 それほど衝撃的だったのか、かなり目を見開いている。

 

「え、えぇ、鉄のパイプがあれば、の話ですが……」


 あとはスキルポイントを獲得して、アイアンツールが作れるスキルを取得する必要があるが、これを話しても理解するのは難しいだろう。

 

「……もしかしたら倉庫にあるかもしれないな」


 ティーナが思い出したように口を開いた。

 

 厩舎の隣にある倉庫に視線が集まる。

 

「ではさっそく見に行きましょう」


 俺達は厩舎の隣にある倉庫まで移動し、ティーナが扉を開けた。

 

 松明で照らして中に入ると、埃っぽくむせ返しそうになる。


「ごほっごほっ」


 リコが咳き込んでいた。

 

「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫にゃ……」

 

 倉庫の中には大小様々な木箱や、薄汚れた道具、欠けてボロボロになった道具が置かれていた。

 

 全部持って行きたいところだが、一気に倉庫の中身が無くなってしまったら怪しまれてしまうだろう。

 

「ん……?」


 木箱に入った棒のような物が目に入った。

 

 ドクンッ。

 

 心臓が高鳴る。

 

 近づいて松明で照らすと鉄の棒だった。穴は――開いている。

 

「あ、ありました……!」


 鉄パイプは見つけたが、回収する文字が表示されない。

 

 長いのが原因か? 木箱の中に手を入れ、短いのがないか探す。

 

「使えそうな物はあったか?」


 ティーナが覗き込んでくる。

 

 距離が近く、なんだか良い匂いがする。

 

 今度は別の意味で胸がドキドキした。ティーナは皇女だけあってか、かなりの美人だ。そんな人間がすぐ隣にいたら、男なら誰だってドキドキするだろう。

 

「い、今探しています」


「確かこれは採掘時の排水に使われるパイプだったか、その予備だろう」


「なるほど」


 耳元でティーナの声が聞こえ、必死に平常心を保つ努力をした。

 

「……おっ、これとかどうかな?」


 程よく短い鉄パイプを手に取った。リレーのバトンくらいの長さだろうか。短すぎる気もするが、手に持った鉄パイプを注視すると、回収する。という文字が現れ、俺は大きく息を吸い――吐いた。

 

「……ハーーーー」


「ど、どうした?」


「何かあったにゃ?」


 ティーナとリコが戸惑っている。誤解させてしまったか。

 

「いえ、やっと目当ての物が手に入って、肩の荷が下りた気分なんです」


 ここまで長かった。いや、まだこれからだ。これを使ってふいごをクラフトし、フォージをクラフトする。それが今のゴールだ。

 

 ふいごとは炉に風を送る道具で、ワールドクラフトでは動物の皮と鉄のショートパイプでクラフトすることができた。

 

 動物の皮はラプターで集まっているので、今すぐにクラフトすることが可能だ。

 

 さっそくクラフトウィンドウを開き、ふいごのクラフトを開始した。

 

「……お前さん、それは何をしているんだ?」


 ドグが不思議そうに操作を見ていた。

 

 クラフトウィンドウなど、システム的な物は俺にしか見えていない。他者からしたら何をしているのか謎だろう。

 

「私の持つクラフト能力の操作ですね。今炉に使うふいごをクラフト……作成を開始したところです」


「…………」


 ドグは理解できないという顔で俺を見ていた。その表情にはクエスチョンマークが浮かんでいるように見えた。

 

「まぁ、そういうものだと思ってください」


 今は深く説明している余裕も無い。また今度話す機会もあるだろう。

 

「では目的も果たしたので、私達も崖上に向かいましょう」


 こうして目的を果たした俺達は採掘場を出て崖上の仮拠点へ向かい始めた。

 

 カコン。

 

 移動中にふいごのクラフトが終わり、俺はふいごを入手した!


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