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42:誰が嘘をついている?

 

「別に何もしませんよ。貴女には人間と獣人、亜人を結ぶ役目をしてもらうだけです。そのために私と一緒に集落へ行ってもらいます」


 俺の予想が正しければ、この女兵士は使えるはずだ。


「……私がいなくなれば帝国の兵士達は死にもの狂いで探しだすだろう。そうなれば小さな集落なんてあっという間に消えてなくなる。貴様はそんなことに彼らドワーフ達も巻き込もうと言うのか?」


 女兵士の言う通り、この女兵士を捜索するための部隊も作られ、その捜索で集落が見つかるのも時間の問題だろう。

 

 だがそれも、結局遅いか早いかの差でしかない。

 

「結局のところ、今回の件がなくとも集落は潰されるし、ドワーフ達も酷使されて殺されるだけです」


「そ、それは……」

 

 見つからずとも過酷な環境で死ぬか、見つかって殺されるか。結局この二つしか今までは存在しなかった訳だが、俺がこの世界にきたことで、三つ目の戦うという選択肢が生まれた。

 

 勿論獣人や亜人達を無駄死にさせるつもりも、無理に矢面に立たせるつもりもない。

 

 そのために俺がこの世界に、クラフトの能力を持って、何者かに飛ばされた。と、俺は考え始めていた。


 俺の勝手な独りよがりな考えにしか過ぎないが、それでも俺は獣人や亜人達を救いたい。


「だから私が彼らの手伝いをして、この世界で安心して暮らせる場所を用意してあげたいと、考えているんですよ」


「……ソウセイ、お前さんは人間みたいだが、何故そこまでワシらの肩を持つ?」


 禿げたドワーフが俺を見つめている。このドワーフだけではなく、周りにいるドワーフ全員が俺を見ていた。

 

「そうですね……単純な理由ですよ」


 そう単純な理由だ。

 

「私は人間が嫌いで、獣人や亜人のような人達の存在が好きだからです」


「なっ、どうして同じ種族である人間を嫌う!?」


 女兵士は俺の言葉を理解できないと言わんばかりの表情をしている。

 

「今ここにいるドワーフや、集落で過酷な生活を強いられている獣人達を見ても、まだ同じようにそんなことが言えますか? 誰のせいでこんなことになっているんですか? 誰が獣人や亜人を殺しているんですか? 誰が、誰を虐げているんですか?」


 俺はじりじりと女兵士に詰め寄って質問した。

 

「だ、だが貴様は自分で異世界から来たと言っただろう! それならこの世界の人間を嫌う理由はないはずだ!」


 女兵士は俺に指を差し言葉を返す。

 

「言いましたよね、私はここ数日採掘場を見ていたと。当然それまでここの人間がドワーフに何をしてきたか、貴女が何をしてきたか、全て見てきています」


 俺はクラフトウィンドウを開いて木の椅子を二個、クラフトを始めた。


「しかし貴様の言っていることは矛盾している! 人間が嫌いなら何故人間と亜人達を共存させようとしている!?」


「貴女みたいな存在がいるからですよ」


「ど、どう言う意味だ……?」


 女兵士は俺の言葉に動揺していた。

 

 カコン。

 

「人間の中には共存を望む人もいるでしょう。私みたいに。そういう人達が幸せに暮らせる街を……国を作りたいと思っています」


「く、国を作るだと!? 正気か?!」


 国を作ると言う言葉に室内がざわつく。

 

「一体何考えてんだあいつは……」


「頭が狂ってやがる……」


 カコン。

 

 クラフトされた木の椅子を、自分の分と女兵士の分の二個、向かい合うように設置した。

 

「どうぞお座りください」


「……!?」


 女兵士は突然現れた木の椅子に絶句していた。

 

「オイ、なんだアレ!?」


「あんな精巧な木の椅子を、あの人間のボウズが作った、のか……?」


「何モンだ……」


 俺は自分で用意した木の椅子に座り、女兵士に座るように促した。


「今はまだこんな物しか用意できませんが、いずれは何者も寄せ付けない城を作ります」


 半分はハッタリだ。

 

「人間が何故獣人や亜人を攻め滅ぼすか分かりますか?」


「…………」


 女兵士は何も答えない。

 

「まぁこれは私は持論ですが、獣人や亜人には抵抗する手段が無く、攻めても兵を大量に失う心配が無いから、遠慮なく攻め込める、と考えています」


 人間が獣人や亜人を嫌う云々という話はとりあえず置いて話す。


「…………」


「そこで私達が対抗できる力を持ったらどうですか? 攻めれば必ず大きな損害出る。それも壊滅的な損害が、です」


 これも半分ハッタリだ。が、まだ木の棘と木の槍しか見せていない状態でこのハッタリが通用するとは思えない。


「…………」


「話に聞くと、生前の魔王様は十分な武装も抵抗しないまま殺されてしまったと聞きます」


「それは嘘だ!!」


 それまで俯いて黙っていた女兵士が立ち上がった。

 

「嘘、とは?」


「魔王が人間の民を攫い、魔石に変えていたのだ! だから私達は民を守るために戦った!!」


 初耳だ。人間を魔石に……事実なら実に魔王らしいと思うが……。ドワーフ達を見た。

 

「そんな話聞いたことないぞ。なぁ?」


「あぁ、オレ達が山から魔石を掘って加工して、それを出荷していたんだからな」


「確かに魔石不足は問題になっていたが、小さく加工して数を増やして、なんとか工面していた」


「魔王様も魔石不足には頭を悩まされたようで、城で使う魔石を減らしてワシら民のために使ってくれたお方だったな……」


 ドワーフは口々に魔石について話してくれた。魔石不足は事実で、その不足を補うために魔王が秘密裏にやっていた可能性もあるかもしれない。

 

「だ、そうですが?」


「し、しかし! 実際に魔族領近くに住んでいた村の、人間達が失踪する謎の事件が多発していた!」

 

「人間が魔石にされたという根拠は?」


「そ、それは大臣や教会がそう話していたから……」

 

 あ、これはほぼ間違いなく人間側がクロなのは確定的に明らかだ。と思うほどに明らかに怪しいワードが出てきたな。

 

 こんな世界でも教会が存在するようだ。大臣という存在も気になる。世紀末な世界観だと思っていたが、人間側の領土や国がどうなっているのか、非常に気になった。

 

「……はぁ、絶対とは言えませんが、ほぼ間違いなくそれ騙されてますね」


 俺は溜息を吐いた。こういう世界だ、上の人間の言葉の力は現代と比べ物にならない程高い、と想像できる。

 

「大臣や教会が嘘をついているというのか!?」


 女騎士は目を見開き狼狽している。


 正直なところほぼ真っ黒だと予想できるが、まだそれでも確実な話ではない。が――


「はい」

 

 俺は即答し、言葉を続けた。

 

「人間側は禁忌魔法という魔法を使って、この荒廃した土地を作り出したようですが、もしかしてそれも知らないんじゃないですか?」


「禁忌……魔法……う、嘘だ!!」


 禁忌魔法のことを話したミリアムの言葉が全て事実とは限らない。ミリアムが嘘をついている可能性もある。だから俺は半分の可能性で考えている。

 

「ではどうして魔族領の土地は緑一つ無い荒れ果てた土地になっているんですか?」


「そ、それは魔王が苦し紛れに最後に自爆したと……!」


「自らの身を削ってまで民のことを考えたと言われる魔王が、民を巻き込んでそんなことをすると思いますか?」


「……っ!!」


 拳を握りしめていた女兵士は脱力し、そのまま力なく椅子に崩れるように座った。

 

「私自身、魔王側が嘘をついてる可能性もあると思っていますし、同じように人間側も嘘をついている可能性があると思っています」


 あまり考えたくない可能性だが、ミリアムと敵対する可能性も存在する。

 

「戦争は勝った方が歴史を作っていきます。それ故、自分達に都合の悪いことは歴史に残らず抹消される訳です」


 詭弁だ。だが今はこの女兵士を言いくるめる必要がある。つぎはぎだらけの説得だが、混乱している今の状態なら効いてくれるはず、だと思いたい。


「…………」


 俯き気味の女兵士の瞳に力は無い。今はこれ以上話しても仕方ないだろう。


 それまでの言葉を纏めるように、最後の説得の言葉を吐く。

 

「だから貴女には、私についてきてもらって、その目で、真実を見てもらいます」


 これで駄目なら強硬手段に出るしかない。勝てるかは分からないが、奥の手はある。


「………………分かった」


 女兵士は力なく、呟くように返答した。

 

 とりあえずこれで説得は成功……したのか?


 完全に心を開いてい仲間になったとは思えないので、用心する必要はある。

 

 俺は立ち上がり、女兵士の前まで歩き、右手を差し出した。

 

「私の名前は倉太創生です。みんなにはソウセイと呼ばれています」


 女兵士は俺の右手を見たあと、瞼と閉じて一呼吸した。

 

 そして立ち上がり、右手で俺の手を取り、握手する。

 

「私はまだ貴様を信じた訳ではない。だが真実を見極めるために貴様についていく」


 ガントレットで握手されて少し痛い。だがとりあえずは成功したようだ。

 

「私の名前はティーナ=マトゥ=マンチェスターだ。ティーナで構わない」


 こうして、女兵士もとい、ティーナを仲間?にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえずフレンド登録して動向を確認できるようにしないとね
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