40:簡易迎撃拠点再び
「GUA!A!A!A!A!」
ウッドスパイクを破壊したラプターが俺の目の前で止まって首を振り上げる。
避けようにも体が固まって動けない。まるで金縛りにあったかのように動くことができなかった。
これは、死んだな。
丁度いい、死んで本当に復活できるのか確認できる。もし本当に死んでしまったら、それまでだな。
そうなったら残してきたミリアムやリコ、ゲイルや猫人族達の皆が心残りだが、仕方ない。ごめんと思いながら、瞼を閉じた。
「はああああああああああああああああ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その声とともに、俺の顔に生暖かい液体のような物がかかった。
恐る恐る瞼を開くと、木の槍と鉄の剣に首を突き刺されたラプターの姿があった。
後ろを振り向くと、女兵士と禿げたドワーフの一人が武器を突きだしていた。
「貴様には聞かなくてはいけないことが山ほどある! こんなところで死なせてたまるか!!」
「お前さんが異世界からきたっていう話を信じる訳じゃねぇが、興味が湧いた!」
二人は批判的なものと好意的なもの、相反するものだったが、俺を助けてくれたのは間違いない。
「ありがとう! 助かった!! でもまだくるぞ!!」
喉に武器を突き刺され絶命したラプターが崩れ落ちると、後ろにいた三匹目のラプターが二匹目を土台にして中に入ろうとする。
大丈夫だ、今度は体が動く。それに三人ならすぐに倒せるはずだ。
「二人は胴を狙え!!」
「くっ、命令するな!」
「分かった!!」
女兵士とドワーフがラプターの胴部分を武器で突き刺し動きを止める。
「ナイス!」
攻撃を受けて動きが鈍くなったラプターの頭部に狙いを定め、ウッドスピアを突きだした。
「GUEEEEEEEEE……」
ウッドスピアはラプターの頭部に命中し、そのまま絶命して力なく崩れ落ちていった。
なんとか危機は去ったがまだ大襲撃は終わっていない。外では兵士達が果敢に戦っているが、ラプターの群れを相手に散ってしまった兵士達は、無残に食い殺されていく。
そしてここも入口にラプターの死骸が残っており、ウッドスパイクを置く場所が無かった。
「俺がこの死骸をなんとかする! その間敵が来たら倒してくれ!!」
俺は骨のナイフに持ち替えてラプターの頭めがけて切りつけた。
「馬鹿か貴様は! そんなことしても死骸が消えるわけ――」
一匹目のラプターの解体が終わった。解体と言っても頭を切りつけていただけだが、システムのお蔭であっという間に処理ができる。
「ウソ……今、死骸が、消えた……?」
「おいおいどうなってんだ?」
今消えた場所と拡張予定だった場所に急いでウッドスパイクを設置した。これで一安心だ。
「突然木の棘が現れた!?」
「お前さん、魔法使いか何かか……?」
女兵士とドワーフが驚いているが、今は説明している暇は無い。
「ふぅ……もう一列ウッドスパイクを敷くから下がってください」
二人を下がらせ、ウッドスパイクをもう一列、コの字に被せるように増やしていった。
「……よし、とりあえずこれで少しの間防げるはずです」
外は相変わらず騒がしいが、こちらへラプターがくる気配は今のところない。
「……貴様は何者だ」
女兵士が俺に剣を向けている。その青い瞳は今にも俺に斬りかからんほどに鋭い。
「……さっき話した通り、俺はこことは違う世界から飛ばされてきた、ただの人間ですよ」
「ただの人間がさっきのような真似ができるか!」
女兵士は声を荒げる。
「静かにしてください、やつらがまたきますよ」
声に釣られてラプターがきては面倒なので、女兵士を宥める。
「姫さんの肩を持つわけじゃないが、異世界からやってきたって言われても、そう簡単には信じられんぞ」
やせ細って禿げているドワーフが、白髭を弄りながら俺を品定めするようにじろじろ見てくる。
「その辺のことはこの状況が落ち着いたら説明します。今そんなことを悠長に話してる場合じゃないですからね」
時刻は10日目 22:25。まだ大襲撃は始まったばかりだ。
もしこれがゲーム通りなら、一定数迫る敵を倒すか、四時まで逃げ切ればモンスター達はどこかへ消えていく。
外の状況からほとんどラプターは倒されていないことが分かるので、流石に全てがこっちに集中したら数の暴力に押しつぶされてしまうだろう。
俺は入り口周りを見渡し、邪魔になりそうなベッドを石斧で破壊していった。
「お、おい、何してるんだ?!」
「生き残るために必要なことです」
入口から壁までの直線にあるベッドを全て破壊し、川で作った簡易迎撃拠点と同じように、木枠ブロックで壁を作り一本の道を作って、そこで迎撃する準備を始めた。
ベッドを破壊していると布の素材が手に入ったので、これは嬉しい誤算だ。
「なんであんな石斧でベッドが簡単に壊れるのだ!?」
「いやワシに聞かれても……」
女兵士と禿げたドワーフは、あまりの光景に茫然と立ち尽くすだけだった。
そんな二人を尻目に迅速に迎撃システムを構築していく。
「なんなのだあの大きな木の枠は!?」
「だだだだだかかかかかかららららららワワワワシシシニニニいいいわわわれれれてててももも」
女兵士は禿げたドワーフを力強く揺さぶっていた。
外を確認するがラプターはまだこっちにきていない。これなら間に合いそうだ。
俺は素早く木枠ブロックを右と左に高さ二個分ずつ設置していき、一本道を作り出す。
そして最後はその一本道にウッドスパイクを敷き詰めて完成だ。
長さは六メートルほどで、これで最低でも五匹は手を出さずに処理できるが、確実に五匹以上はくるだろう。
投槍用のウッドスパイクのクラフトを始め、ラプター達の襲撃に備えた。
このままこないでくれるのが一番良いのだが……。
「ふぅ……とりあえずこれで一安心です」
部屋の中を見渡すが真っ暗で何も見えない。何故この小屋には窓が無いのだろうか。
明かり……そうだ、ベッドを壊したことで布が幾つか入手できたことを思いだし、クラフトウィンドウを開いた。
検索ウィンドウに触れ、「松明」と音声入力すると、クラフト一覧に二つの松明が表示された。
片方は木材、布、動物油でクラフトする松明で、もう片方は動物油の代わりに動物油を加工した獣油を使う松明だった。
獣油を使う方は、松明で攻撃した相手を燃やす効果があり、武器としても使える便利な松明だが、今は加工するための鉄の鍋が無いので、こちらは除外。
ということで、動物油で作るほうの松明のクラフトを開始した。
「お前さん、名前は何というんじゃ?」
暗くてよく見えないが、この声は恐らく禿げたドワーフだろう。
「私は倉太創生です。みんなからはソウセイと呼ばれています」
「ソウセイか。ところでさっきと話し方が変わっているようだが……」
「気にしないでください、切羽詰っていたので乱暴な言葉遣いでしたね」
カコン。
一つ目の松明のクラフトが完了した。残り四個残っている。
さっそく松明をツールベルトにセットし、手に持った。
周囲が照らされ、ドワーフ達がざわついた。
「またいきなり現れたのか……」
「アイツが異世界人ってのは本当なのかもしれねぇなぁ……」
「何者なんだアイツは……」
辺りを見渡す。
ドワーフ達の視線が俺に集まっていた。
品定めするような目、変わった物を見るような目、怯えるような目を向ける者、様々だ。
「皆さん聞いてください。私はドワーフの皆さんの力を借りたくここへやってきました。既に他の獣人達と手を組み、集落を作り変えている最中です」
ドワーフ達はこんな状況の中だが、真剣に俺の話を聞いてくれている。俺は言葉をつづけた。
「俺は、獣人と亜人達が仲良く暮らせる街を作りたいと思っています。だから、どうかドワーフの皆さんの力を、俺に貸してくれませんか?」
「……貴様は、自分が何を言っているのか理解しているのか?」
それまで黙っていた女兵士が口を開いた。
「貴様のそれは、私達人間と敵対するということだ、それを分かって言っているのか?」
女兵士の言う通り、間違いなく人間側と敵対することになるだろう。だが最終的に共存まで持っていくのが俺の目的だ。
最初は争いが起こるかもしれないが、それはどうしても避けられないことだ。
「そうですね。最初は敵対するでしょうね。でも最後は人間と共存できる道を見つけたいと思っています」
「そんな夢物語、実現できるはずがない……!」
女兵士は顔を逸らし、吐き捨てるように言った。
「GUEEEEEEEEEEEEEEE!!」
全員の視線が入口へ向いた。
入口の直線状にいる俺はラプターが侵入してきたのを確認した。松明からウッドスピアに持ち替え、投擲の構えをとって狙いをつける。
ウッドスパイクにかかってもがいているラプターの頭部めがけて、タイミングを計ってウッドスピアを投げ、一撃で仕留めることに成功した。
更にもう一匹入ってくるが、同じようにウッドスパイクにかかってもがいているので、また同じようにウッドスピアを投げるが、今度は胴部分に命中した。
ラプターはまだもがいており、更にウッドスピア装備をして再び投擲を試みる。
胴に刺さったことで動きが鈍くなっていたので一匹目よりも狙いは付けやすかった。
落ち着いて槍投げの要領でウッドスピアを放ち、ラプターの頭部に命中させる。
「よし、これで大丈夫です」
クラフトウィンドウを開き、クラフトしておいたウッドスピアをツールベルトに再びセットしていく。
セットが終わって松明に持ち替え、周囲が照らされた。
「ソウセイ、お前さん本当に何者なんだ?」
禿げたドワーフが再び俺に問う。
「クラフトという物を作ることができるの能力を持った、異世界の人間ですよ」
俺は嘘偽りなく事実を述べた。
もし地球で「俺は異世界からきた!」と言われても、信じる人はいないだろう。だがこの異世界で、異世界人が持ちえない能力を持って、それで異世界人を助けたのならば、少し信じてくれる要素になるかもしれない。希望的観測に過ぎないが、今は俺含め、誰もが藁にもすがる思いだろう。
俺は顔を逸らしている女兵士を見た。
「俺はここ数日間ずっとこの場所を見ていました」
俺の発言にドワーフ達が再びざわつく。
「貴女がドワーフ達に対して優しく接しているところも見ています」
「……それがどうした」
言葉を返してくれたが、顔は逸らしたままだ。
「貴女みたいな人間がいれば、人間と亜人、獣人共に共存できるはずです」
「……軽々しく、軽々しくそんなこと言うなっ!!!!」
凄い剣幕で女兵士は怒鳴り散らした。その声でラプターを引き寄せないか心配になるが、それよりも俺は見てしまった。
松明に照らされたその瞳に、涙が浮かんでいるのを。
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