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39:大襲撃


「今のは何だ!?」


 俺を案内していた女兵士が辺りを見渡し、雄叫びの原因を探していた。

 

「うわああああああああああああ!!!」


「な、なんだあれは!?」


 後方にいた門番達が騒がしく叫ぶ。

 

 振り向くとラプターの群れがこちらへ向かってきていた。全ては見えていないが、その数十匹以上いるだろう。


 とうとう大襲撃が始まったようだ。そうなるとやってくるのはラプターだけでは済まない。余程練度の高い兵士じゃなければ、間違いなくここの兵士は全滅する。


 それが俺の狙いだ。

 

「おい、どうした!?」


 厩舎とボロ小屋の前にいた兵士達は、何が起きたのか確認しに門まで走っていた。

 

「くっ、一体何が起きているんだ!? 君、こっちだ! 急いで厩舎に行くぞ!」


 女兵士は厩舎まで走りだすが、俺は反対側にあるドワーフ達がいるボロ小屋へ走り出した。

 

「どこへ行く!? そっちではないぞ!!」


 女兵士の声は無視してボロ小屋の前までやってきた。

 

 外側からかんぬきがかけられており、内側から開けられないようになっている。

 

 俺は急いでかんぬきを外し中に入った。

 

 中は暗く臭く、ドワーフ達は寝床についているようだ。

 

「全員起きろ!!」


 大声でドワーフ達を起こす。

 

「……な、なんだぁ?」


「もう今日の仕事は終わっただろ……」


 寝ぼけたドワーフ達が起き始める。

 

「モンスターの襲撃だ!! 死にたくなかったら俺の言うことに従え!!」


 言葉は乱暴になってしまったが、今は一刻を争うときだ。この際仕方ない。

 

「は? モンスターだぁ――」


「うわああああああああああああああああああ!!!!」


「なんだこいつら……ああああああああ、たすけ、助けてくれええええええ!!」


 外から悲鳴が聞こえる。どうやらもう中に入ってきたようだ。

 

 振り向くと兵士達がラプターの群れと戦っていた。

 

 女兵士がこちらへ向かってきているが、この状態になれば関係ない。

 

「分かったか!? もう中に入ってきてる!!」


「一体何が起きてやがんだ……」


「ワシ達はここで死ぬのか……」


「君……いや、貴様、何をしてる!?」


 女兵士が俺に剣を向けている。

 

「何って、ドワーフ達を助けにきたんですよ」


 俺は笑顔で返答した。大襲撃のおかげでテンションが高くなり、切迫した状態もあり、笑うしかない状況だった。

 

「貴様、最初からそのつもりで――」


 一匹のラプターがこっちに気付いて走ってくるのが見えた。


 女兵士が剣を向けているが、斬られないことを祈り、腕を掴んでボロ小屋の奥へ引っ張り入れた。


「な、何を!?」

 

 そして入口の内と外側にウッドスパイクを設置し、間一髪ラプターがウッドスパイクにかかった。

 

「GUEEEEEEEEEEEEEEE!!?」

 

 ギリギリのタイミングだったがなんとか間に合った。

 

 ラプターがウッドスパイクにかかっている間に、右手に持っていたウッドスピアで追撃していく。

 

 ゲームでは頭部に倍のダメージを与えられるダメージボーナスが存在したので、意識して頭部を狙い、一発の追撃で倒すことができた。

 

 やはりウッドスパイクの効果は絶大だ。

 

 テンションがハイになったことで、自分でも顔がニヤけているのが分かる。きっと酷い顔をしているだろうな。


 俺は振り返り、クラフトしておいたウッドスピアを次々に床へ置いていく。

 

「こういうことだ!! 死ぬたくなかったら武器を持って俺と一緒に戦え!!」


「貴様は一体……!?」


 床に倒れている女兵士が俺を睨んでいる。

 

「俺は獣人亜人の味方だ!! ドワーフ達を助けに来た!!」


「…………」


「……」


「くそおおおおおおおおおおおおおお!!」


「腕を食われた!? い、医者を呼んでくれえええええ!!」


 外の悲鳴と比べ、ボロ小屋の中は静寂に包まれていた。

 

「どうした!! ここで死ぬつもりなのか!?」


 発破をかけるがドワーフ達が無気力に立ちつくし、動く気配がない。生きることを諦めているのか?!


「……でもよぉ、ここで生き残って逃げても、人間の兵士達に追われてまた捕まるのがオチだろうよ」


「……そうだな、どうせまた捕まって死ぬまで働かされるだけだな」


 ドワーフ達は俯き、口々に否定的な言葉を吐いていく。

 

「その点は問題ない!! 何故なら人間の兵士達はここでモンスターに襲われて全員死ぬからだ!!」


「なん……だと……!?」


 その言葉を聞いた女兵士は目を見開いていた。

 

 入口から差し込む赤い月の光に照らされたその顔には、絶望の表情が浮かんでいた。


 俺の言葉に根拠は無い。もしかしたら何人か生き残る可能性もあるが、この襲撃に紛れて逃げれば捜索どころではないだろう。


 仮に全滅しても、ドワーフが反旗を翻したと思われるより、モンスターの襲撃で壊滅してしまったと判断されるだろう。ドワーフの被害が一人もいないとなると怪しまれそうだが、逃げた奴隷を追うよりも、採掘所を襲撃した正体不明のモンスターを調べることを優先するはずだ。

 

「GUEGUEGUEEEEEEEEEEEEEE!!」


 後ろからラプターの声が聞こえた。

 

 振り返ると数匹のラプターが中へ入ってこようとするが、仕掛けてあったウッドスパイクにかかり足止めされていた。

 

「クソッ!! 早くしろ、このままじゃ死ぬだけだぞ!!」


 俺は咄嗟にウッドスピアを構え、ラプターの頭を狙っていくが、今度のラプターは後ろにいる数匹がワラワラと激しく押し合い、狙いを定められず攻撃を当てられない。

 

 バキンッッ!!

 

 外側に仕掛けたウッドスパイクが破壊され、内側のウッドスパイクにラプターが突っ込んできた。

 

 冷静に、落ち着いて、ラプターの頭の動きを予測しろ。落ち着け、落ち着け――

 

 俺は攻撃の手を止めてラプターの動きを見た。

 

「――ここだ!!」


「GUEEEEEEEEEEEE……」


 集中した一撃を突き出して二匹目のラプターを倒した。


 ファンファーレが頭の中に流れレベルが上がったが、今はそれどころではない。

 

 なんとか倒したが、まだ後ろにいる二匹のラプターが無理矢理入ってこようとする。

 

 二匹目のラプターの死骸が邪魔になって入ってこれていないが、このままだと突破されるのも時間の問題だった。

 

 俺は一歩下がり、ウッドスピアからウッドスパイクに持ち替え、出口周りに追加でウッドスパイクを、死骸を囲むようにコの字型で設置していく。


 ――が、ここで冷静さをかいてしまい、ウッドスパイクの設置する順番を間違えていたが、この時の俺はそれに気づくことはなかった。

 

 後ろを見るがドワーフ達は俯いたままだ。このままだとマズイ……。

 

「俺は異世界からきた人間だ!! だからこの世界の人間とは違う!! 俺を信じろ!!!!」


 俺が異世界の人間であると信じてくれれば、という望みに託し、必死に声を出した。


 自分でも声に焦りが混じっているのが分かった。この気持が通じてくれればいいが……。

 

 最後に真ん中に設置――

 

 バキンッッ!!

 

 内側に設置したウッドスパイクが破壊された。

 

 2019/08/02 一部追記しました。


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