37:動物の解体
さてと……。
ウッドスパイクで倒したラプターの頭を石斧で叩き始めた。
切るのではなく、文字通り叩くのだ。木を叩くときと同じように、ラプターを叩く。
本当はナイフなどの武器があればそっちの方が回収効率は良いのだが、序盤は石斧で叩くことが多かった。
ラプターから骨を回収できれば骨のナイフがクラフトできるので、そっちのほうが石斧よりも回収効率が良い。
だが、俺が回収するよりも、この世界の住人が回収したほうが、入手できる素材の数は多いのではないだろうか。
モーファーの件でも思ったのだが、明らかに俺が回収するよりも多く回収できていたように感じた。
ただ数が欲しいだけなら、俺以外に回収させたほうがいいのかもいれない。
そんなことを思いつつラプターを叩くと耐久値が190/200と表示され、更に視界右下に生肉を獲得したログが流れた。
更に叩き続けると皮、骨、動物油を入手し、最終的に生肉十五個、皮八枚、骨七個、動物油五個獲得した。
ラプターの耐久値がゼロになると、ラプターの体は粒子状になって消滅した。
猫人族がモーファーを解体していたときは起きていなかった現象だが、俺が処理するとゲームと同じ挙動で消えるようだ。
骨を回収できたので、さっそくクラフトウィンドウを開いて骨のナイフをクラフトした。
さっそく装備してみる。見た目は骨を削って鋭くした物だ。
もう一匹のラプターも石斧と同じようにナイフで叩いてみる。いや、切りつけるというのが正しいか。だがラプターの死体に切り傷は無い。これもゲームシステムだ。
一撃で耐久値は二十減り、十回切りつけたところでラプターの死体は粒子状になって消えた。
肉に対してプラス補正を持つ骨のナイフでラプターを叩いた結果、生肉は二十二個、皮は十個、骨は十一個、動物油は六個入手できた。
生肉五個で焼いた肉がクラフト可能で、満腹値が十回復する。鉄の網があれば満腹値が十五回復する網焼き肉がクラフトできるので、悪くない成果だろう。
この調子でウッドスピアで倒したラプターの回収もしておこう。
最終的に、生肉五十七個、皮二十九個、骨二十八個、動物油十八個の収穫だ。
モーファーの死体からは皮と骨、腐った肉と硝石が入手できた。死体判定だと生肉ではなく腐った肉と硝石が手に入るようだ。この点もゲームと同じだ。
硝石を入手した訳だが、これで石炭があれば火薬をクラフトすることができる。
火薬は爆弾や弾丸の素材になるので、数が欲しいところだが、鉱脈を見つけないことには量産も難しいだろう。
鉄鉱山で採掘されていれば楽なんだが、石炭が運ばれているところは見ていない。
丸石が突然発生した例を見ても、恐らく石炭や硝石の鉱脈がどこかに存在するはずだ。なんとしても見つけて確保しておきたい。
さて、回収も済ませたので、伐採の作業に戻ろう。
安全地帯の近くまで戻り、近くの木の伐採を再開した。
それからただただ無心に伐採を続け、気がつけば太陽が天に上っていた。
時刻は12:10。もうお昼時だ。作業を切り上げ、崖上にある拠点へ戻った。
「戻りました。様子はどうでしたか?」
「あ、おかえりにゃ! 特に変わったことはないにゃ」
リコが笑顔で迎えてくれた。昨日と変わらず同じ光景が流れていたのだろう。
ゲイルの姿は無い。見回りに行ってるのだろうか。
「分かりました。あ、今回はお土産がありますよ」
「おみやげ?」
クラフトウィンドウを開き、生肉をツールベルトにセットして手に持った。
「肉にゃ!」
リコはあらゆる方向から肉を覗き興奮していた。
肉の大きさは手のひらよりも大きく正方形のブロック型で、厚さは五センチメートルくらいあった。
綺麗な赤身肉で、持つ手にはズッシリと重量を感じる。
ごくり。見ていたら急にお腹が空いてきたような気がした。
「さっそくこれを焼いて食べましょうか」
「やったにゃー!」
暖として外に設置してあるキャンプファイヤーの一つを開き、燃料となる木材をセットして、さっそく焼いた肉のクラフトを開始する。
キャンプファイヤーでクラフトできる肉料理は他にもあり、鉄の鍋や鉄の網があれば、バフ効果を持つ料理もクラフトできる。
バフ効果も様々で、攻撃力アップや防御力アップ、寒さや暑さ耐性、移動速度アップなど、他にも色々なバフ効果があるので、状況に合わせて食べていけば物事を有利に運べることもある。
そのバフ効果が俺以外にも効果が発揮されるのかは不明だが、効果があれば戦闘や作業も効率よく有利にいけそうだ。
「今お肉を焼いてるので、暫く待っててください」
「ソウセイソウセイ」
リコがジャージの裾を引っ張る。
「どうしましたか?」
「何も無いように見えるにゃ。本当に焼いてるにゃ?」
リコが調理中のキャンプファイヤーを不思議そうに眺めている。
キャンプファイヤーは火がメラメラと燃えているだけで、肉を焼いている様子は無い。
「はい、焼いているので大丈夫ですよ」
「焼いてるのに煙も匂いもしないにゃ……」
料理の煙と匂い。ゲームには無いシステムだな……。少し残念な気もするが、仕方ない。
「まぁ、お蔭で私達の存在がバレないので――」
もし煙と匂いが出ていたらバレていたかもしれないと気がつき、心臓が一気に跳ね上がった。
今までゲームシステムを基準に考えていたが、いつかこれが原因で大きな失敗を犯しそうな気がした。
気を付けないとな……。
「あ、そろそろ焼けたと思うので、今取り出しますね」
キャンプファイヤーのクラフトウィンドウを開き、完成スロットにある焼いた肉を二個、自分のインベントリに移した。
ここで石斧が手渡しできなかったことを思い出す。流石に肉を地面に置くことはできないので、木枠ブロック置いて木材ブロックに強化し、その上に焼いた肉を置いた。
「あちち、すみません、私は手渡しができないので、ここに置いておきますね。まだ少し熱いので気をつけてください」
「ありがとうにゃ!」
こうして俺とリコは焼いた肉を食べて昼を過ごした。




