36:ウッドスパイク先生
時刻は5日目 22:01。
特に変わったことはなく、一日が終了した。
ずっと採掘場を見ていたが、変わり映えのしない光景が延々と続き、精神的に苦痛だった。
決行日までまだ時間があり、それまでずっとこの状況が続くのは流石に辛いな。
一度採掘場から目を離し、反対側の風景を見る。
そこに文明の光はなく、月と星々の光だけが目に映った。
山の麓には枯れた木々が生えていたので、伐採して資材を集めて、ウッドスパイクや木枠ブロックのストックを貯めてもいいかもしれないな。
採掘場のほうはリコとゲイルに任せて、俺は俺にしかできないことをするべきかもしれない。
「ゲイルさん、明日から決行日に向けて資材集めをしてこようと思うので、ここの見張り、リコと二人でお願いできますか?」
隣で一緒に監視していたゲイルに提案した。
「お前一人でモンスターに出会ったら、お前は倒せるのか?」
ゲイルは採掘場に視線を向けたまま返答する。
「大丈夫です。仮に死んだとしても、またここから復活できると思いますので」
まだ復活できるとは確定した訳じゃない。そのまま死んで消える可能性もある。だがシステム寄りになっているこの体のことを考えると、復活する確率のほうが高いと判断している。
「もしお前がその復活をしなかったら、どうすんだ?」
復活しなかったときの保険を用意できればいいが、残念ながらそんな物は無い。
「もし俺が死んで復活しなかったら、お二人はそのまま集落に戻ってください」
無責任な発言かもしれないが、俺にはそれしか言えなかった。
「オレ達はとんだ無駄足を踏まされたことになるのか」
「そうならないように頑張ります」
そうなってしまったら本当に申し訳ないという気持ちになりながら、苦笑いで返した。
「それじゃあお先に寝させてもらいますね」
「フン……」
採掘場の監視をゲイルに任せ、俺は小屋の寝袋で眠りについた。
………………。
…………。
……。
◆ ◆ ◆
6日目 06:00。
目を覚まし、温泉ユニットで用意した風呂に入る。
タオルはリコが持ってきた布があるので、それを使わせてもらった。
布となる物をクラフトでスクラップすれば、布素材が手に入るので、そこから新しい布アイテムを用意することができる。
一個スクラップしたところで数は足りないので、幾つも用意する必要があるのだが、当然今そんな物は無い。
着ている服をスクラップすれば足りるかもしれないが、代えの服が無い今そんなことをするのは自殺行為に等しい。
布の素材となるコットンを入手か栽培できればいいのだが、まだ見つけられていない。人間領に行けば入手できるかもしれないが、それもいつになるか分からない。
今一番早く入手する方法は、採掘場を襲撃することだろう。
採掘場なら布だけではなく、石や鉄、他にも色々素材や資材となる物が入手できるかもしれない。
決行日までまだ時間はある。それまでに万全を期するためにも、武器や道具、罠の数は揃えておこう。
それから風呂を出た俺は、監視をしているリコと朝の挨拶を交わし、ゲイルに昨日話したことをリコに説明して、山の麓まで降りきた。
リコもついていくと言っていたが、なんとか宥めて監視してもらうことに成功した。
山上にある小屋はマップで記録してあるので、これで戻るときに迷子になる心配はない。
道がある方角を見るが、枯れた木々に塞がれて見通しが悪く、確認することはできなかった。
これなら道のほうからこっちを見たときも同じなので、俺の存在がバレることはないだろう。
倒木の音で気づかれる心配は……多分大丈夫だろう。
伐採を始める前に、予備の石斧を五本、ウッドスパイクを二百個、木枠ブロックを三百個クラフトしておく。
これで伐採中にもクラフトでアイテムを作れるので、無駄がなく効率が良い。
ウッドスパイク。モンスターに対しては絶大な効果を発揮するのはこの目で見たが、果たして人間に同じように効くのだろうか?
もし効くのであれば、この世界でもウッドスパイク先生の名を冠することができるかもしれないな。
多数のプレイヤーに先生と呼ばれるほどウッドスパイクは優秀で、序盤から終盤までお世話になる超優秀なトラップアイテム。
更にこれをアイアンインゴットで強化してアイアンスパイクにできるので、更に破壊力は増す。
他にも似たような罠は存在するのだが、ウッドスパイクが一番使いやすく強力で、武器がなくてもこれだけあれば戦えるというくらい、ウッドスパイク先生は素晴らしい存在だ。
ウッドスパイクで無双することを考えたら顔がニヤけてしまった。
そこで思い出す。伐採中は無防備になりやすいので、危険が伴うと。
咄嗟に伐採を中止して周囲を見渡す。
特に何もいないことにホッとなりつつも、安全地帯の確保に動いた。
ジャンプして足元に木枠ブロックを設置して、それを繰り返して五段まで積み上げた。
高さは五メートル。下を見ると高さに少しビビるが、ここから落ちても死にはしないだろう。いや、頭から落ちたらどうなるんだ?
……俺は考えることをやめ、今度は五段目から横に四個木枠ブロックを設置した。
ブロックにはそれぞれ積載量などがあり、それを超えると崩落してしまうので、途中で支えを用意する必要がある。
だが木枠ブロック四個程度なら崩れる心配も無いので、柱を設置する必要が無い。
それがこの安全地帯の大きな利点だ。
何故ならば、ただの獣型モンスターなら、柱の無い足元をぐるぐる回るだけで、何も危害を加えられないからだ。
その足元にウッドスパイクを設置しておけば、勝手にかかって自滅してくれるので、倒すのも非常に楽になる。
だが知能のある人型タイプなどのモンスターだと、柱部分を攻撃して崩そうとしてくる。
勿論それにも対策がある。
まず知能のあるモンスターは対象までのルートを探し、無ければ無差別に壁や柱を壊そうとするが、道があればその道を使おうとする。
その習性を利用して、一本の道を作り、その道にウッドスパイクを並べて迎撃するという力技だ。
当然そうなると俺自身もこの安全地帯に登ることができなくなるので、別の足場を用意する。
二メートルほど離したところに設置すれば、俺はジャンプで届いても、モンスターは届かないので、ウッドスパイクの敷いてある道を通らざるを得ないのだ。
などと考えてみるが、当然これはゲームでの話であり、これが現実のこの世界のモンスターにも利くかは分からない。
やってみなくちゃ分からない。ダメだったらたかが死ぬくらい。
俺はさっそく安全地帯の構築を始め、あっという間に完成させた。
高さ五メートルで木枠ブロックの道を追加で二十メートル用意し、その二十メートル全てにウッドスパイクトラップを敷いた。
一直線上に設置したので、敵がルートに入ればウッドスピアを投げて投擲攻撃をすることも可能だ。
モンスターの挙動を確認するために、階段は安全地帯から見えるよう、横向きに設置してある。
安全地帯の隣には、俺が飛び移る用の足場を用意したので、これでとりあえずの安全は確保された。
高さ五メートルから周囲を見渡すと、三匹のラプターが離れた場所にいるのを発見した。
何かを食べているように見えるが、ハッキリとは見えない。
とりあえずこの安全地帯もとい、簡易迎撃拠点の成果を見るべく、さっそくラプターにちょっかいを出しに行く。
簡易迎撃拠点から降りてラプターのいる場所まで走り、ウッドスピアを装備した。
ある程度まで近づき木の陰に隠れた。まだこちらに気付く様子はない。
どうやら食べていたのはモーファーの子供だったようだ。
高鳴る鼓動を必死に抑え、俺はウッドスピアを投擲する構えをとった。
すると視界にはゲームで見慣れた照準が現れる。
ゲームでやっていたときを思い出す。
照準をラプターよりも上に調整し、息を整え、ウッドスピアを投げた。
放たれたウッドスピアはラプターの頭部に命中し、一匹仕留めることができた。
残りの二匹が俺の存在に気がつく。
俺はすぐさま簡易迎撃拠点まで逃げた。
「「グエエエェェェ!!」」
ラプター二体が俺を追いかけてくる。ラプターのほうが足は速いが、拠点までなら十分逃げきれる計算なので、問題は無い。
追いつかれれば死ぬ。
そこには恐怖と興奮が入り混じり、俺は笑っていた。
そして用意していた木枠ブロックの階段を登り、安全地帯へと戻ってきた。
ラプター達は辺りを見渡し、用意していた別の階段へ走り出した。
ラプターが木枠ブロックの階段をジャンプで登ると、ワンテンポ動きが止まる。ゲームでもあった挙動だ。
このジャンプした後に止まった隙を狙って迎撃すれば、ウッドスパイクを消費することなくモンスターを楽々倒すことができるのだが、あいにく今は遠距離武器がウッドスピアしかない。
距離もさっきより離れているので、狙うのも難しい。
そして登り切ったラプターは、ウッドスパイクがあるにも関わらず、愚かにも俺めがけて進もうとする。
「グエエェェェ……」
結果ラプターはウッドスパイクにかかって絶命。俺が何も手を下すことなく、ラプターを対処することができた。
ゲームのモンスター相手で分かっていたこととはいえ、現実でも同じようにできたことが嬉しかった俺は、小さくガッツポーズした。
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