35:ドワーフ達の食事情
5日目 08:05。
朝ごはんとして焼き魚を齧っていると、ようやく厩舎から兵士たちが現れ、ドワーフ達が寝ているボロ小屋へ向かった。
「やっと起きたのかにゃ」
隣で同じく焼き魚を齧っていたリコも兵士を確認する。
「そうみたいですね」
時間は既に朝の八時を過ぎていた。こういう世界の住人は早寝早起きをするというイメージだったが、随分遅い起床のようだ。いや、起きてはいたが外に出ていなかっただけかもしれない。
どちらにせよ、朝の八時までは採掘所の作業は止まっているようだ。門番やドワーフのボロ小屋の前で見張っている兵士は合わせて六人。
夜の兵士達は皆だらけていて、決行当日は夜に奇襲をしかければ楽に対処できそうだ。
仮に増援が出てきても問題はないだろうが、ドワーフがその影響を受けてしまわないかが不安要素だな。
できればドワーフは全員無傷で連れて帰りたいが、無理をしてこちらが被害を受けてしまっては本末転倒だ。
なにもドワーフはここにしかいない訳じゃないないだろうし、他を当たると言う手もある。
「起きろ!! 時間だ!!」
ボロ小屋の扉を勢いよく開けた兵士が、怒声をあげてドワーフ達を起こしている。
そして叩き起こされたドワーフ達はそのまま洞窟へ向かっていった。どうやら朝飯は取らないようだ。
ドワーフ達の足取りは重く、足枷がついているせいで余計に重そうだ。
「のろのろするな!! 早く歩け!!」
一番後ろで遅れていたドワーフが鞭で叩かれた。
そこで俺は二つのことに気がついた。
一つ目は、女性や子供らしきドワーフがいないのだ。ドワーフの見た目が大人も子供同じなら分からないが、どれも黒い髪や髭がボサボサだったり、白髪で禿げているドワーフばかりだった。
ドワーフの女子供達がどんな姿なのかは分からないが、もし普通の人間と変わらないようであれば、ロクな目に遭ってないだろう。
二つ目は、劣悪な環境での労働、乱雑に置かれた岩と鉱石。見てる通り作業効率は非常に悪く、採掘した鉱石も適当に野ざらしになっている。
もしかして鉱石や岩が目的ではなく、ドワーフ達を無理矢理酷使して働かせることが目的なのか?
何のために? ドワーフの心を折るため? 何故折る? 逆らう気力を奪ってドワーフを支配するため? こんなやり方では逆効果なのでは?
色々考えてみたが、どうして人間達がこんなことをするのか理解できなかった。
「リコさん、なんで人間はこんな酷いことをするんだと思います?」
「……リコが聞きたいくらいにゃ」
リコは眉をひそめて悲しそうな顔をしている。
「ですよね」
人間と姿が違うから迫害しているとか、人間よりも優れた技術を持っているから恐れて抑えつけているとか、よくあるそんな理由なのかもしれないが、俺にとっては別にそこまで重要なことではない。
そう言えばあの女兵士を見かけないな。まだ厩舎の中にいるのだろうか?
上官であるならば、書類やそういった事務仕事をしているのかもしれない。
それから昨日と同じ焼き増しのような光景が流れ、何も起こらないことに退屈になりながらも監視を続けた。
時間は経過し12:48。
「飯の時間だ!! 全員席に着け!!」
兵士の声とともに、洞窟内から作業していたドワーフ達が出てきた。
どうやら飯の時間だ。ドワーフ達はボロ小屋の隣に設置されていた、丸太のような椅子に座り、薄汚れた木のテーブルに運ばれてきた……パン、か?
そして配膳してきた人物が女兵士だった。何故女兵士が配膳をしているのか分からないので、俺は注意深く観察した。
女兵士が運んできたのは、黒く丸い物体と、透明な液体が入った木の皿だった。
パンと思われる物は、握りこぶし一個分程度の大きさで、とても腹が膨れるような代物ではないだろう。
木の皿に入っているのは水だろうか? それならコップを使ったほうがいいのではと思う。
配膳が終わると女兵士は下がり、食事を始めるドワーフ達を見ていた。
残っているのは皿を下げるためだろうか?
女兵士の行動理由を考えながら、俺達もお昼の焼き魚を齧って監視を続けていた。
「リコさん、焼き魚ばかりで飽きませんか?」
「大丈夫にゃ! 滅多に食べられない魚が食べられて嬉しいにゃ!」
リコが魚の頭を齧りながら、満面の笑みで返してくれた。
人間達はこの笑顔を奪っていた。それだけで獣人族の味方をするのに十分な理由だろう。
「そうですか、それは良かったです」
俺もつられて笑顔で返した。
早く刺身も食べさせてあげられるといいのだが、包丁の素材となる鉄、鉄を作るフォージ、フォージを作るための素材を作るドワーフ。やはりドワーフの確保は絶対に成功させねばなるまい。
「飯の時間は終わりだ!! さっさと作業に戻れ!!」
昼飯が終わり、ドワーフ達は再び洞窟へ入って行った。
それを見送った女兵士は、テーブルの上に置かれていた食器類を回収していた。
何故兵士達の上官と思われる人間が、給仕のような仕事をしているのだろうか。
それが彼女の優しさなのか、あるいは罪滅ぼしという可能性もあるかもしれない。
女兵士一人で後片付けを終わらせ、採掘場には再び昨日と同じ光景が流れていく。
ドワーフの数は十五人程度だが、どう見ても手持ちの食料だけでは足りないだろう。決行前にモンスターを狩って肉を用意する必要があるが、どうやって入手するか……。
「おい」
かけられた声に振り向くと、ゲイルが起きてきたようだ。
「あ、おはようございます」
「おはようにゃ」
「オレはこれから見回りに行ってくる」
ゲイルは弓を携え、矢筒を背負っている。
「わかりました、気を付けてくださいね」
そう言って送り出そうとしたが、ゲイルは動かなかった。まだ何か用があるのだろうか?
「たぶんゲイルは魚が欲しいんだにゃ」
リコが耳打ちしてきた。なるほど、そういうことか。
「あ、失礼しました、どうぞこれをお弁当に持っていってください」
インベントリから焼き魚を三匹取り出し、ゲイルに手渡した。
何か入れ物があればいいのだが、あいにくとそんな物は無いし、クラフトで作ることもできない。便利だが不便な面もあるのが、システムに縛られたクラフトの難点だな。
「……フンッ」
ゲイルは不満そうに焼き魚を受け取りながらも、受け取った焼き魚を齧りながら見回りに出て行った。
見送った時、ゲイルの尻尾が僅かだが左右に振られていたのを、俺は見逃さなかった。
まだゲイルとの仲は良好ではないが、喜んで貰えてるなら良かった。
ゲイルの見送りを終え、俺とリコは再び採掘場の監視を再開した。
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