33:鉄鉱山
「こっちだ、早くしろ」
「滑りやすくなってるにゃ」
俺は今、ゲイルとリコに先導してもらい、山を登っていた。
あのまま道なりに進んでしまえば、誰かに見つかる確率は非常に高かったので、迂回して人目につかなさそうな山道を選び、鉄鉱山の偵察へ向かっているところだ。
地面は勾配が強く、乾燥していて小石や砂利で滑りやすくなっていた。
リコはボロボロな革の靴、ゲイルは素足なのだが、二人とも難なく登っていき、獣人族の身体能力の高さを改めて思い知らされる。
「もう少しでてっぺんにゃ!」
スタミナゲージは常に満タンを意識しているので体の疲れはないが、草の靴では登り辛く、文字通り二人の足を引っ張っていた。
「早く来い」
天辺でゲイルが中腰になりながら山向こうを覗いている。
足を滑らせて落ちないように慎重に進み、ようやく二人に追いついた。
やはりせめて、運動靴かブーツが欲しいところだが、まだクラフトできないのが口惜しい。
「見ろ」
体を伏せてゲイルの指さす方向を見る。そこには人間が鞭を持ちドワーフ達を酷使している様子が、遠巻きながら見えた。
ドワーフの身長は人間の半分ほどで、ボロ布をまといやせ細っているように見える。顔には手入れのされていない髭が生え、両足にはお約束の鉄球が繋がれていた。
人間のほうは全身に鎧をまとい、腰には剣を携えているように見える。
俺達は現場からそれなりに近くにいるが、激しい動きさえしなければ見つかることはないだろう。
鉄鉱山にある採掘場を見渡してみるが、規模はあまり広くはないように思う。
俺達の真下には兵士が出入りしている厩舎があり、その隣には倉庫らしき建物がある。左側には門があって門番が四人並んでいた。
兵士の人数は見えてるだけで……十人はいるか。ドワーフは七人確認したが……。
正面にはドワーフ達の寝床になっていると思われる小屋が何軒か並んでいた。
そして右奥に大きな山があり、ふもとが削られたのか大きな穴が開いていて、そこからドワーフ達が岩や何かを抱えて出入りしている。
あの洞窟の中がどうなっているのか分からないため、もしかしたら中にまだまだ兵士もドワーフもいる可能性がある。
洞窟からは鉄のつるはしで採掘しているような音と、罵声や怒声が聞こえてくる。
それにしても、道具を使わず運んでいるということは、車輪やそういった技術がないのだろうか?
どうもそれは考えにくい。もしかしたらただ単にドワーフに苦痛を与えるためだけにやらせているのかもしれないな。
注目していたドワーフがよろけて倒れ、岩石を地面に落とした。
「何をしとるかキサマァ!!」
走ってドワーフに接近した兵士は鞭をしならせドワーフを叩く。
兵士は何回も何回も叩き、ドワーフを執拗に痛めつけていた。
「酷いにゃ……」
「ケッ」
まさかこんな漫画染みた状況を目にするとは思わなかった。
しかしどうする。兵士は皆全身を鎧で被い、腰には剣を携え、門番は槍を持っている。
馬鹿正直に正面から行っても返り討ちに遭うだろうな。
ん? 赤い軽装の鎧を着た兵士がドワーフを庇い出した。
「馬鹿者! やり過ぎだ!!」
「はっ! 申し訳ありません!」
赤い兵士の高い声と金髪のポニーテールから察するに、女の兵士だろうか。
そして銀色鎧の兵士の態度から、女の兵士は上官か何かか。
女の兵士がドワーフに何か言ってるが聞き取れない。だが雰囲気から見るに、心配しているように見えた。
「ドワーフを助けたあの人は良い人にゃ?」
リコが戸惑うような顔で俺を見てきた。
「分かりません、ただ悪い人ではなさそうに見えますが……」
情報が少なすぎる。もし獣人や亜人に対して良い感情を持っているのならば、こちら側に引き込むことができるかもしれないが……。
「…………」
ゲイルは女の兵士を見つめていた。一体何を考えているのだろうか。俺には他人の心を読む能力がないので、ゲイルが何を考えているのか分からないが、ゲイルの表情は複雑そうなものだった。
ドワーフは立ち上がり、岩石を拾い上げて移動を開始した。
女の兵士は振り返り、厩舎へと戻っていくようだ。
「これからどうするにゃ?」
隣で伏せていたリコが腰の骨ナイフに手をかけていた。
「もう少しここの状況が知りたいので、暫くここで見張っていようと思います」
ぐぅぅぅぅぅ……。
今の音は何だ?
辺りを見渡すと、リコがゲイルを見ていた。
ゲイルはリコから顔を逸らしているように見える。
なるほど……。時刻は11:28を表示している。そろそろお昼の時間だな。
「……そうだ、持ってきた焼き魚があるので、みんなで食べながら見張っていましょうか」
「ごはんにゃー!」
リコが小声で喜んでいる。ここで大声を出さないあたり、よく訓練されているのだろうか。
リコに焼き魚を二匹渡し、ゲイルにも渡そうとした。
「ゲイルさん、これをどうぞ」
「…………ッッ!」
ゲイルは苦虫を噛みつぶしたよう表情で魚を受け取り、頭から齧りついた。
なんだか面白かったが黙っておこう。
水も欲しくなるということで、ここで俺は一つ試してみたいことがあった。
この勾配に木枠ブロックを置いたらどうなるのか。木枠ブロックを構える。
勾配に合わせて木枠ブロックが設置されるのか、それとも――
「にゃにゃにゃ!?」
木枠ブロックは勾配になっている地面を押し潰し、九十度の角度で設置された。
どうやら地面が整地されたようだ。
ゲームでは斜めや微妙に段差のある地面に木枠ブロックを設置すると、地面がならされて平らな地形になる仕様があった。つまりそれがここでも起きたということになる。
「これでキャンプファイヤーが安定して置けそうですね」
俺は設置した木枠ブロックを木材ブロックに強化した。
木材ブロックの上にキャンプファイヤーを置き、水の入った粘土バケツを置いて火をつける。
夜なら火の明かりでバレそうだが、今は昼なので気づかれることはないだろう。
「これで暫くすれば水が飲めますよ」
「……フン、相変わらずデタラメな力だな」
ゲイルは綺麗に食べ終わった魚を投げ捨てた。
「それじゃあ暫くここで採掘所の様子を見ていきましょう」
元いた位置に戻り、伏せて採掘所に視線を向けた。
※小説家になろう 勝手にランキングに登録してみました。面白いと思ってもらえればクリックで投票してもらえると、モチベーションアップに繋がるかもしれません。




