32:定まらない覚悟
発見した橋は木製の平たい橋だった。
屋上にいたリコが降りてくる。
「このまま進んだら橋にぶつかるにゃ!」
橋を壊して進むという手段もとれるが、橋があるということは人の通りがあるということだ。
つまりあの橋の先、山のある方向にドワーフ達がいる鉄鉱山があるとみていいだろう。
「ここで止めましょう」
橋までまだ少し距離はあるが、もし誰かが通って見つかってしまったら面倒だな。
マップウィンドウを開いてこの地点を記憶していおく。何かあったときにまた戻ってきて態勢を整えられるよう、セーフティーハウスは欲しいからな。
時間は――09:18を表示していた。
早朝と比べるとだいぶ明るくなって、見渡しもよくなっている。
川岸にイカダ拠点を泊め、ウッドハッチを全て閉じた。
外に出る前にツールベルトの確認する。
八個あるツールベルトのスロットに左から、ウッドスピア、ウッドスピア、ウッドスピア、石斧、二個空きスロットの次に、ウッドスパイク、木枠ブロックをセットしてある。
これでウッドスピアが破損、投げて消失しても、二番目三番目にすぐに切り替えられるので、戦闘面ではなんとかできる……と思いたい。
最後にキャンプファイヤーから移動中に焼いていた焼き魚をニ十匹回収する。焼いたのは全てレインボーフィッシュだ。
インベントリやキャンプファイヤーの完成スロットに置きっぱなしにしても腐ることがないので、保存食として持ち運べるのが非常に便利だ。
「リコさんも準備はいいですか?」
「大丈夫にゃ!」
こうして準備を済ませ、外へ出た――
「よう」
出た瞬間、声をかけられた。
俺は即座にウッドスピアを構える。
「ゲイル! なんでここにいるにゃ!?」
目の前にはゲイルがいた。
「待ちくたびれたぜ」
どうやらゲイルは俺達を待ち構えていたらしい。ずっと後をつけていたのか、先回りしていたのか……。
だがそんなことよりも、もっと重要な問題が今起きている。
「――ゲイルさん、どうして私に弓を構えているんですか……?」
ゲイルが俺に向けて矢を引き絞っていた。
「なにしてるにゃ!?」
リコが俺とゲイルの間に割って入る。
「こいつがドワーフを助けたら、その後はどうなる?」
「え……?」
ゲイルの問いにリコは戸惑っている。
「人間どもはドワーフを取り返そうと、大軍で集落に押し寄せてくるだろうな。そうなったら俺達は終いだ」
「そ、そんな……」
「ドワーフの救出に失敗しても、反乱分子を抹殺するために、人間達はしらみつぶしに探し出して殺し尽すだろうよ」
ゲイルの言葉を聞いて怯えたリコがこちらへ振り向く。
「……確かにその危険は、このまま行けばあったかもしれません」
ゲイルの言う通り、そのまま救助しただけでは人間の報復が待っているだろう。しかし俺にはそうさせない策があった。
「ですがそうさせない策が、私にはあります」
「どうするつもりだ」
俺はゲイルに策を説明した。
………………。
…………。
……。
「……それは本当なのか? いや、お前は正気なのか?」
話を聞いたゲイルは弓を下げたが、鋭い眼光は変わらず俺に向けられている。
「ええ、これで丸く収まるはずです。何も問題ありません」
「ソウセイは……それで、それで本当にいいにゃ?」
リコが心配そうな顔で、見つめている。
「もとよりそのつもりでしたから。私は最後までみなさんの味方ですよ」
俺は何があっても獣人達の味方であり続けるだろう。
「さて、それじゃあ時間までまだまだありますし、とりあえず鉄鉱山の様子を見るだけ見てきますが、ゲイルさんはどうしますか?」
「お前の言葉が真実なのか、見極めさせてもらうぞ」
「わかりました」
こうして俺とリコ、そしてゲイルの三人で鉄鉱山の様子を見に行くことになった。
「もし人間に見つかったらどうすんだ?」
「その時は、二人は私の奴隷ということでやりすごしましょう。いいですか?」
「にゃ!? リコはソウセイの奴隷になっちゃったのにゃ!?」
リコは猫の目をして驚愕していた。
「いえ、本当に奴隷になった訳ではなく、人間達を誤魔化すためですよ」
「なんだ、そうだったのかにゃ……」
胸をなでおろしほっと一息つくリコ。
「それで誤魔化せないときはどうすんだ?」
ゲイルの詰問が続く。
「そのときはそのときです」
やることは決まっている。しかし実際にやれるかは分からない。だがやるしかない。
俺は覚悟も定まらないままに、鉄鉱山へと足を進めた。
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