30:イカダの上の秘密基地
3日目 16:30。
あれからリコに釣りのやり方を教えると、流石は子供なのか呑み込みが早く、リコは自分の持ってきた串焼肉を餌に、どんどん魚を釣り上げていた。
串焼肉が残り一本になると、今度は釣り上げた魚の切り身を使い、次々に魚を釣り続ける。
釣った魚は俺が回収してインベントリに収納しているので、腐ることがなく保存できている。
インベントリにある限りなまものは腐ることがなく保存できるので、こういう長旅では大助かりだ。
魚のストックはレインボーフィッシュが十五匹、ロックフィッシュと言われるのが七匹だ。
ロックフィッシュは岩の陰に生息していることから名づけられた、らしい。色は茶色く、体長は十センチメートルくらいだろうか。レインボーフィッシュよりも細く、体高は三センチメートルほどだ。特にこれといった特徴の無い魚だが、この魚も美味いらしい。
インベントリに入っている魚はどれも内臓を取り出していないのだが、腐らずアイテム変化も起こらないことから、問題ないだろうと判断した。
そしてリコが釣りに夢中になっている間、俺はイカダの上に木枠ブロックを重ね、簡易拠点を建築していた。
イカダの幅は三メートル、長さは四メートルなので、このまま一メートルの木枠ブロックを置くと中央の一メートル分しかスペースが取れなくなってしまう。
このままでは居心地が悪いので、そこでイカダの上に木枠ブロックを置き、足場を拡張してイカダのサイズを拡大した。
これでイカダの上の木枠ブロックを強化して木材ブロックの足場が設置され、幅は五メートル、長さは六メートルに拡張された。
舵部分にはブロックを置けないので穴が開いたようにようになっているが、操作するためこれは仕方ない。
そして拡張したブロックの上に、雨風を凌ぐための壁と天井を設置した。
更にここで今回の秘密兵器、ウッドハッチの出番だ。
ウッドハッチとは、簡単に言えば蓋みたいなものである。潜水艦の出入り口の蓋みたいなものをイメージすると分かりやすい。
大きさは木枠ブロックと同じ一メートル四方の四角形だが、厚さは五センチメートルくらいだろうか。幅三センチメートルくらいの木材フレームがふちになり、その上に四角い木材の扉が閉まるようになっている。
蓋には取っ手がついているから開閉は楽だ。そしてこのウッドハッチは雨風を通さないので、向きを変えて窓として使うことも可能だ。
そのウッドハッチを二段目の壁の、柱以外の場所全面に設置したので、これで視界の確保が可能になった。
流石に二段目の壁を全てをウッドハッチにするのは耐久の面でも怖かったので、前方以外は、四隅の柱と、その柱と柱の間にもう一本、柱として木材ブロックを設置してある。
高さは三メートルほど確保したので、圧迫感はなく快適だ。
後方部分には出入り口用の木のドアを設置し、外側には一メートルの余裕を残してあるので、リコは今そこで釣りをしている。
そしてこの木材ブロックとウッドハッチの窓で囲われた内部だが、中心には舵があり、そこを中心に寝袋とキャンプファイヤーを設置している。
キャンプファイヤーはスペースの問題で後方右隅に移動して、土台として設置した木材ブロックの上に置いた。
寝袋は前方の角に、自分用とリコ用に二つ用意したので、これで寝る場所の確保はできた。流石に寝るときは川岸につけて寝よう。
もっと他にも置きたいのだが、スペースの都合上、これ以上置くなら更なる拡張が必要になるので、今回は断念だ。
ちょっとした秘密基地みたいになってワクワクが止まらない。まぁ帰りは使えないので、そのまま置いていくことになってしまうのだが、持ち運びができないから仕方ないな。
次は武器としてウッドスピアを追加で五本クラフトしておく。投槍としても使える武器なので、消耗品として用意しておいたほうがいいだろう。
弓もクラフトはしたが、矢が素材不足でクラフトできないのが一つの問題だ。
矢をクラフトするには石と木材、そして鳥の羽が必要になるのだが、その鳥の羽を見ていない。鳥自体も――そういえばゲイルがドードーを狩ってきていたな。
ドードーとは遥か古代に存在したと言われる、可愛らしい小さな鳥だったと記憶している。それをモデルにしたモンスターがゲームに存在していた。人懐っこく動きが鈍いのがチャーミングなのだが、動きが鈍いせいで他のモンスターに襲われていることが多い。
ゲイルが持ってきたときは深く気にしていなかったが、ドードーを安定して狩ることができれば、鳥の羽が大量に入手できるので、矢のクラフトも容易になる。
狩らずとも手懐けて仲間にすることができれば、繁殖させて肉や卵も得ることができる。だがそれにはまだ色々な物が足りなさすぎるな……。
ドワーフの確保、家の建築、家畜と餌の確保、衣服の確保、とりあえずこんなところか。
人手の確保は何より必須だ。ドワーフだけではなく、他の亜人や獣人を仲間にしていくことにもなると思う。勿論そこで様々なトラブルが起こると思うが、上手く解決して乗り越えられるよう、最善を尽くしていく。
ふと外を見るともう暗くなっていた。時刻は17:23を表示している。
周囲は薄暗く、灯りもなく見通しも悪い。今日はこれ以上進むのは危険だろう。
イカダを川岸に止めてリコを呼ぶ。
「リコさん、今日はここで一晩過ごしましょう」
「わかったにゃー」
ずっと魚を釣り続けていたようだが、釣果はどれくらいいっただろう。
「どれくらい釣れましたか?」
気になったので様子を見に行く。
「いっぱい釣れたにゃ!」
そう言ったリコの隣には山盛りにされた黒い山があった。
薄暗くてハッキリとは見えないが、釣り上げた魚の山だろう。
「……沢山釣れましたね」
少なくとも二十匹以上はいそうだ。
「いっぱい釣れたし、集落のみんなにも分けてあげたいにゃ……」
俺もその意見に賛成だが、まず最初はドワーフに回すことになりそうだな。
「魚は釣りたても美味しいですし、それにみんなで釣りに行けばもっと沢山釣れると思いますよ。だからそんな気を落とさないでください」
「……うん、わかったにゃ」
「それじゃあこの魚は私がしまっておきますね」
そう言って俺はしゃがみ、魚を回収していく。
レインボーフィッシュが二十一匹、ロックフィッシュが七匹追加で増えた。これで魚はレインボーフィッシュが三十六匹、ロックフィッシュが十四匹になった。
「よし、それじゃあご飯にしましょうか。リコさんが釣った魚を焼いて食べましょう」
「やったにゃー!」
キャンプファイヤーでレインボーフィッシュを八匹、ロックフィッシュを二匹調理して、リコと一緒に食べた。
ロックフィッシュはパサパサした感じで、大根おろしと醤油が欲しくなった。この二つもクラフトで用意することはできるので、早く種や道具が欲しい。
それからはリコの釣りの感想を聞いたり、刺身のことを話してリコが目を輝かせたり、そんな他愛無い話をしてその日を終えた。
上から見たイカダの簡易見取り図
■:木材の壁 ◆ウッドハッチ □:木材の床
■◆◆◆■
◆寝□寝◆
■□舵□■
◆□□火◆
■扉■◆■
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