表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/48

29:魚釣り


 色々あってリコと一緒に鉄鉱山まで行くことになったが――

 

「すごいにゃー……浮いてるし流されてるにゃー……」


 リコはイカダを満喫して和んでいた。

 

 最初は何度も水面を覗いたり、水をちゃぷちゃぷしたり、イカダの上で跳ねたりしていたが、今は落ち着いて座っていた。

 

 時刻は07:03。川の流れに任せて移動しているが、手持無沙汰で暇だ。

 

 周囲を見渡す。やってきたほうの岸を見ると、離れたところに枯れた雑木林が見えるのだが、反対側の岸向こうは枯れた木がポツポツ生えているくらいだった。

 

 遠くに何か見えているような気がするが、遠すぎてよく分からない。

 

 視線を川へ戻し、魚が泳いでいるの発見した。どんな魚かは分からないが、変な形はしておらず、現代世界にいる魚と変わらないように見えた。

 

 魚……釣り……釣りか。良い機会だ、ここで釣りをしてみよう。

 

 クラフトウィンドウ開き、まず鉄鉱石一個を鉄くず五個にクラフトする。

 

 そしてできた鉄くず三個を使って釣り針をクラフト。

 

 クラフト検索ウィンドウに『釣り』と音声入力して、クラフト一覧に釣り竿を表示させ、木材三個、草六個、釣り針一個を消費して釣り竿をクラフトした。

 

 空いているツールベルトに釣り竿をセットして構えた。

 

「それなんにゃ?」


 リコが興味深そうに俺の釣り竿を見ている。

 

「これは釣り竿です。これを使って魚を釣り上げるんですよ」


「へぇ~、こんなので釣れるのにゃ?」


「……どうでしょうね」


 本当に釣れるのかどうか怪しいので、苦笑いで返した。

 

 この釣り竿はインベントリにある餌を消費して使うのだが、その餌が無いのだ。

 

 今手に持っている串焼肉だが、これはインベントリに入れることができなかった。クラフトされた物ではないからか、たまたま入れられないアイテムだったのか。

 

 何が理由で収納できなかったのかは分からないが、入れられないことだけは確かだった。

 

 ではどうするか。俺はイカダの上に串焼肉を包んだ布を置き、それから布を開いた。

 

「もうご飯にするにゃ? リコも持ってきたにゃ!」


 リコは得意そうな顔をして、腰に携えた革の小袋から串焼肉を取り出した。


「いえ、これを餌にして魚を釣ります」


 串焼肉を一つ串から抜き、小さく千切っていく。

 

 そして千切った肉を釣り針に刺してみる。

 

 ……特に問題なく肉は針に刺さった。

 

 正直針が肉を通さないのではないかと不安だった。何故ならゲームでは、ボタンを長押しして、表示された餌をマウスで選択するので、その方法以外でできるのか不安だったからだ。しかし問題は無かったようで良かった。

 

「よし、これで針を川の中に落としてみましょう」


 イカダの後方に移動し、肉を付けた釣り針を川へ垂らした。


「ほんとにこれだけで魚が獲れるのにゃ?」


 リコは気になるのか、針を落とした場所を覗いている。尻尾がゆらゆらしていて可愛い。

 

「すぐには釣れませんからね、竿の先が引っ張られるまで待ちましょう」


 そして俺は竿の先に集中した。

 

 貴重な食料を餌として使っているんだ。失敗は許されない。

 

 息を整え、精神を集中する。

 

 川の流れる音、流されている音と、リコのにゃーにゃー言っている声がよく聞こえる。

 

 …………。

 

 ……。

 

 !!

 

 竿の先端がちょん、ちょんと下に引っ張られるように小さく反応していた。

 

 心臓が跳ね上がる感覚に襲われる。

 

 すぐに引っ張り上げてはダメだ、しっかり魚が針にかかって――

 

 竿の先端が大きく下に引っ張られた!

 

 俺はその隙を逃さず釣り竿を引き上げた。

 

 何かがいる重い手応えを感じる。

 

 ――そして水中から魚が釣り上げられた。

 

「すごいにゃーー!! 魚がかかってるにゃーーーー!!」


 リコは釣り上げられた魚を見て大興奮していた。俺も釣り上げた興奮が収まらない。

 

 釣り上げた魚に逃げられないように、イカダの中央へと移動する。

 

 イカダの上に魚を降ろすと、置かれた魚はビチビチと跳ねた。

 

 魚の大きさは……十五センチメートルくらいだろうか? 体は細く、腹部が白く、上半分は緑ががっており、エラから尻尾にかけてうっすらと赤いラインある。ニジマスに似ているが、味の方はどうだろう?

 

 などと考えていると、『魚を回収する』という選択肢がでてきたが、後回しだ。

 

「リコさん、この魚の名前知っていますか?」


 リコは四つん這いになって魚を見ていた。尻尾がピンっと立っている。

 

「これはレインボーフィッシュにゃ! すっっっごい美味しいお魚にゃ!!」


 美味しいということは食べられるようだ。一安心だ。

 

「よし、じゃあ食べられるようにしてみましょうか」


「できるにゃ!?」


 『魚を回収する』に触れて、一旦釣った魚をインベントリに収納した。

 

「多分できると思うので、ちょっと待っててください」


 クラフトウィンドウを開き、キャンプファイヤーをクラフトする。

 

 そして完成したキャンプファイヤーをイカダ中央に設置。

 

「えっ……ソウセイ、そのまま火をつけるにゃ?」


 リコは理解できないというような顔で俺を見ている。

 

「大丈夫ですよ。人や動物は燃えても、イカダや木材は燃えないので」


「ちょっとなに言っているかわからないにゃ……」


 ゲームシステムでは火事というシステムは無かった。だからイカダが燃えることも、家が燃えることもなかったのだ。

 

 仮にこの現実で燃えるようになっていたとしても、ここは水のある川の上なので、消火はすぐできるし、イカダが壊れてもすぐ作り直せばいい。

 

 準備ができたのでキャンプファイヤーのウィンドウを開いた。右の燃料スロットに木材を幾つかセットすると、クラフト一覧に焼き魚が白文字で表示された。

 

 表示された焼き魚を選択して調理を開始。キャンプファイヤーに火がつき、十秒ほどで調理が完了するようだ。

 

「もう少しで焼き魚ができるので、待っていてください」


「ほんとうに大丈夫にゃ……?」


 四つん這いになっているリコの尻尾の先端がピクピク動いていた。

 

「……よし」


 キャンプファイヤーのウィンドウを開くと、完成スロットに焼き魚が入っていた。

 

 焼き魚をツールベルトにセットして手に持つ。

 

「熱ッ!!」


 予想はしていたが思っていたより熱かった。落とさないように尻尾のほうを掴む。


 熱かったので尻尾を掴みながら冷ますように少し振った。


 ……よし、このくらいでいいだろう。

 

「おおぉぉ……しっかり焼けてるにゃ……」


 全く下処理をしていない魚なのだが、腹の部分には穴が開いていて、中の内臓は取り除かれていた。食べやすいように、システムで自動的に処理されているようだ。

 

 とりあえず一口、背の部分を齧ってみる。

 

 その瞬間、俺の目が見開いた。

 

 口に広がる焼いた風味に、この魚独自なのかやや塩味が利いており、プリプリとした身だ。 

 

「……美味しい!」


 何も味付けはできなかったが、それでも旨味が口に広がり、思わず顔が笑顔になるほど美味しかった。

 

 

「リコさんもどうぞ」


「リコも食べていいにゃ……?」


 リコの目がキラキラしている。

 

「ええ、また釣ればいいので、どうぞ」


「嬉しいにゃーー!!」


 そう言ってリコは魚の腹の部分に齧りつき、俺は手を放した。

 

 リコは勢いよく齧り続け、あっという間に魚は頭と尻尾、それを繋ぐ骨だけが残った。

 

「美味しかったにゃあ……」


 リコはペタンと座り込み、恍惚な表情浮かべている。かなり満足したようだ。

 

 猫人族という種族ということもあってなのか、魚が好きなのかもしれない。

 

 こうして俺は新たな食料調達方法を獲得し、食料問題解決に一歩前進した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ