29:魚釣り
色々あってリコと一緒に鉄鉱山まで行くことになったが――
「すごいにゃー……浮いてるし流されてるにゃー……」
リコはイカダを満喫して和んでいた。
最初は何度も水面を覗いたり、水をちゃぷちゃぷしたり、イカダの上で跳ねたりしていたが、今は落ち着いて座っていた。
時刻は07:03。川の流れに任せて移動しているが、手持無沙汰で暇だ。
周囲を見渡す。やってきたほうの岸を見ると、離れたところに枯れた雑木林が見えるのだが、反対側の岸向こうは枯れた木がポツポツ生えているくらいだった。
遠くに何か見えているような気がするが、遠すぎてよく分からない。
視線を川へ戻し、魚が泳いでいるの発見した。どんな魚かは分からないが、変な形はしておらず、現代世界にいる魚と変わらないように見えた。
魚……釣り……釣りか。良い機会だ、ここで釣りをしてみよう。
クラフトウィンドウ開き、まず鉄鉱石一個を鉄くず五個にクラフトする。
そしてできた鉄くず三個を使って釣り針をクラフト。
クラフト検索ウィンドウに『釣り』と音声入力して、クラフト一覧に釣り竿を表示させ、木材三個、草六個、釣り針一個を消費して釣り竿をクラフトした。
空いているツールベルトに釣り竿をセットして構えた。
「それなんにゃ?」
リコが興味深そうに俺の釣り竿を見ている。
「これは釣り竿です。これを使って魚を釣り上げるんですよ」
「へぇ~、こんなので釣れるのにゃ?」
「……どうでしょうね」
本当に釣れるのかどうか怪しいので、苦笑いで返した。
この釣り竿はインベントリにある餌を消費して使うのだが、その餌が無いのだ。
今手に持っている串焼肉だが、これはインベントリに入れることができなかった。クラフトされた物ではないからか、たまたま入れられないアイテムだったのか。
何が理由で収納できなかったのかは分からないが、入れられないことだけは確かだった。
ではどうするか。俺はイカダの上に串焼肉を包んだ布を置き、それから布を開いた。
「もうご飯にするにゃ? リコも持ってきたにゃ!」
リコは得意そうな顔をして、腰に携えた革の小袋から串焼肉を取り出した。
「いえ、これを餌にして魚を釣ります」
串焼肉を一つ串から抜き、小さく千切っていく。
そして千切った肉を釣り針に刺してみる。
……特に問題なく肉は針に刺さった。
正直針が肉を通さないのではないかと不安だった。何故ならゲームでは、ボタンを長押しして、表示された餌をマウスで選択するので、その方法以外でできるのか不安だったからだ。しかし問題は無かったようで良かった。
「よし、これで針を川の中に落としてみましょう」
イカダの後方に移動し、肉を付けた釣り針を川へ垂らした。
「ほんとにこれだけで魚が獲れるのにゃ?」
リコは気になるのか、針を落とした場所を覗いている。尻尾がゆらゆらしていて可愛い。
「すぐには釣れませんからね、竿の先が引っ張られるまで待ちましょう」
そして俺は竿の先に集中した。
貴重な食料を餌として使っているんだ。失敗は許されない。
息を整え、精神を集中する。
川の流れる音、流されている音と、リコのにゃーにゃー言っている声がよく聞こえる。
…………。
……。
!!
竿の先端がちょん、ちょんと下に引っ張られるように小さく反応していた。
心臓が跳ね上がる感覚に襲われる。
すぐに引っ張り上げてはダメだ、しっかり魚が針にかかって――
竿の先端が大きく下に引っ張られた!
俺はその隙を逃さず釣り竿を引き上げた。
何かがいる重い手応えを感じる。
――そして水中から魚が釣り上げられた。
「すごいにゃーー!! 魚がかかってるにゃーーーー!!」
リコは釣り上げられた魚を見て大興奮していた。俺も釣り上げた興奮が収まらない。
釣り上げた魚に逃げられないように、イカダの中央へと移動する。
イカダの上に魚を降ろすと、置かれた魚はビチビチと跳ねた。
魚の大きさは……十五センチメートルくらいだろうか? 体は細く、腹部が白く、上半分は緑ががっており、エラから尻尾にかけてうっすらと赤いラインある。ニジマスに似ているが、味の方はどうだろう?
などと考えていると、『魚を回収する』という選択肢がでてきたが、後回しだ。
「リコさん、この魚の名前知っていますか?」
リコは四つん這いになって魚を見ていた。尻尾がピンっと立っている。
「これはレインボーフィッシュにゃ! すっっっごい美味しいお魚にゃ!!」
美味しいということは食べられるようだ。一安心だ。
「よし、じゃあ食べられるようにしてみましょうか」
「できるにゃ!?」
『魚を回収する』に触れて、一旦釣った魚をインベントリに収納した。
「多分できると思うので、ちょっと待っててください」
クラフトウィンドウを開き、キャンプファイヤーをクラフトする。
そして完成したキャンプファイヤーをイカダ中央に設置。
「えっ……ソウセイ、そのまま火をつけるにゃ?」
リコは理解できないというような顔で俺を見ている。
「大丈夫ですよ。人や動物は燃えても、イカダや木材は燃えないので」
「ちょっとなに言っているかわからないにゃ……」
ゲームシステムでは火事というシステムは無かった。だからイカダが燃えることも、家が燃えることもなかったのだ。
仮にこの現実で燃えるようになっていたとしても、ここは水のある川の上なので、消火はすぐできるし、イカダが壊れてもすぐ作り直せばいい。
準備ができたのでキャンプファイヤーのウィンドウを開いた。右の燃料スロットに木材を幾つかセットすると、クラフト一覧に焼き魚が白文字で表示された。
表示された焼き魚を選択して調理を開始。キャンプファイヤーに火がつき、十秒ほどで調理が完了するようだ。
「もう少しで焼き魚ができるので、待っていてください」
「ほんとうに大丈夫にゃ……?」
四つん這いになっているリコの尻尾の先端がピクピク動いていた。
「……よし」
キャンプファイヤーのウィンドウを開くと、完成スロットに焼き魚が入っていた。
焼き魚をツールベルトにセットして手に持つ。
「熱ッ!!」
予想はしていたが思っていたより熱かった。落とさないように尻尾のほうを掴む。
熱かったので尻尾を掴みながら冷ますように少し振った。
……よし、このくらいでいいだろう。
「おおぉぉ……しっかり焼けてるにゃ……」
全く下処理をしていない魚なのだが、腹の部分には穴が開いていて、中の内臓は取り除かれていた。食べやすいように、システムで自動的に処理されているようだ。
とりあえず一口、背の部分を齧ってみる。
その瞬間、俺の目が見開いた。
口に広がる焼いた風味に、この魚独自なのかやや塩味が利いており、プリプリとした身だ。
「……美味しい!」
何も味付けはできなかったが、それでも旨味が口に広がり、思わず顔が笑顔になるほど美味しかった。
「リコさんもどうぞ」
「リコも食べていいにゃ……?」
リコの目がキラキラしている。
「ええ、また釣ればいいので、どうぞ」
「嬉しいにゃーー!!」
そう言ってリコは魚の腹の部分に齧りつき、俺は手を放した。
リコは勢いよく齧り続け、あっという間に魚は頭と尻尾、それを繋ぐ骨だけが残った。
「美味しかったにゃあ……」
リコはペタンと座り込み、恍惚な表情浮かべている。かなり満足したようだ。
猫人族という種族ということもあってなのか、魚が好きなのかもしれない。
こうして俺は新たな食料調達方法を獲得し、食料問題解決に一歩前進した。




