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24:猫人族の感謝


「ふぅ……」

 

 程よく伐採という運動をして体が温まっていたが、早朝の肌寒い空気に相殺されて丁度良い体温になっていた。


 ……よし、これだけあれば大丈夫か?

 

 仮屋の裏に生えていた木の伐採を終え、クラフトウィンドウを開きインベントリの中身を確認した。

 

 インベントリの中には木材が1821個、木枠ブロックが500個、石が423個、草が20個、水入りの粘土バケツが2個、ウッドスピアが2本、鉄鉱石47個が収納されていた。

 

 時刻は2日目 5:20。一時間近く伐採していたようだ。

 

 体力面での疲労はないが、精神面での疲労が少し気になる。昨日寝てしまったのにも関係があるかもしれない。

 

 左下のスタミナゲージは攻撃したり走ったりすると減るが、歩いたり静止しているだけで自動回復するので、完全にゼロにならない限りバテることはなかった。

 

 完全にゼロになるとバテて、一定までスタミナゲージが回復するまでの間、移動速度ダウンのペナルティがある。スタミナ管理を意識して切らさないように行動していきたい。

 

 スキルの取得によってスタミナと体力の上限を上げることができるので、こちらも余裕ができたら上げていこう。

 

 伐採を切り上げた俺は一度仮屋へ戻り、木の椅子に座りテーブルに置かれている残りの串焼肉に手を伸ばした。

 

 肉は冷めてしまっているが柔らかく食べやすかった。電子レンジもクラフトできるので、早くそっちも作れるようにしたい。

 

 とりあえず今はこの肉を全て食べてしまおう。

 

 ……よし、ごちそうさまでした。

 

 水分ゲージが60を切ってきた。喉が渇いてきた気が――

 

 しまった、バケツを火にかけたままだ!

 

 俺は慌ててキャンプファイヤーの場所まで走った。

 

 ――キャンプファイヤーの火は消え、粘土バケツもそのまま残っていた。

 

 良かった、中に入っていた水の量も変わっていないようだ……。

 

 そっと指を水に触れ温度を確かめると、生ぬるい。ちゃんと沸騰していたのかすら確認できていないので、これを飲むのはまだ怖いな……。もう一度燃料となる木材を入れて火を起こした。

 

 集落の方を向きながら沸騰するのを待っていると、一つの住居から小さな住人が出てきた。薄暗くて誰なのかは分からないが、なんとなく予想はできた。

 

 その小さな住人はこっちを向いた。俺を確認したのか、手を振ってこっちへ向かってくる。

 

 その小さな住人の姿がハッキリと見えてきた。やはりリコだったようだ。

 

「ソウセイ、おはようにゃ」


「おはようございます、リコさん」


 リコの髪は寝癖がついており、横髪が跳ねていた。髪をとかすクシがあればいいのだが……。


「お肉は食べてくれたかにゃ?」


「ああ、ありがたく頂きました。ありがとうございます」


「あ、お風呂、みんな喜んで使ってたにゃ!」


 俺が寝ている間にみんな使ってくれたようだ。良かった。

 

「あ、お湯で顔洗ってきてはどうですか?」


「そうだったにゃ! 行ってくるにゃ!」


 そう言ってリコは風呂場へ駆けていった。朝から元気な子だ。

 

 集落の方を見ると住人が起きてきたのか、次々に外に出てきた。

 

 起きた人が他の家に入って……どうやら他の人を起こしにいったようだ。二人で出てきた。

 

 そうして結構な人数が現れ――こっちへ向かってきた。朝風呂だろうか?

 

 先頭の人物が手を振っている。目を凝らしてみると先頭にいたのはミリアムだった。

 

 こっちへやってくる男女、風呂……あ、男女別で分ける必要があるか。もしくは時間で分けるか……。配慮が足りてなかったな。などと考えていると、ミリアム達がやってきた。

 

「おはようソウセイ、よく眠れたか?」


「おはようございます。椅子だったのであまりよくは眠れませんでしたね」


 素直に苦笑して返した。

 

「でもその内寝れるような場所を用意するので大丈夫ですよ」


「そうか。何かあれば集落の皆で手伝うから、遠慮なく言ってくれ」


「ありがとうございます。ところで皆さんでどうしました?」


 ミリアムの後ろにいる猫人族達の顔を見るが、どこか笑顔で穏やかな雰囲気だ。


「あぁ、昨日浴場施設を使わせてもらってな、皆大喜びだったからその礼をしたいということだ」


「そんな、気にしなくていいですよ」


 こう言ってしまうのは日本人の悲しい性か。

 

「いえ、私達はソウセイ様のおかげで大変良く助けてもらえました」


 ミリアムの後ろに居た背の高い猫人族の女性から感謝の言葉を貰えた。しかし様付けはやめてもらおう……。


「そうです、餓死するかもしれなかった俺達を助けてくれたのはソウセイ様なんですから!」


 女性の隣に居た猫人族の男性も様付けで感謝してくれている。いや、俺は食料に関しては何もしていないはずだが……。

 

「こんな立派な施設も用意してくださって、本当に感謝しています」


 幸の薄そうな猫人族の女性が頭を下げている。ここまで感謝されるなんてな……俺は風呂場の方を見た。

 

「……喜んで貰えたなら嬉しいです」


 人にここまで喜んでもらえたのは生まれて初めてのことだった。人の役に立てたという実感が湧き、俺の胸の中は満足感で満たされつつあったが、同時に物言えぬ胸のつっかえもあった。


 今まで人間に悲惨な目に遭わされ、人間の善意が実は悪意だった、そういう話を聞いた身としては、たったこれだけで人間である俺を信用できるのだろうかという疑問が残る。ゲイルが良い例だ。


 ミリアムが信用している人間だから信用しているのであって、ミリアムの補正無しだったら今俺はどうなっているか分からない。それにミリアム自身、まだ俺を完璧には信用していないように思える。言葉では感謝しているが、それでも魔族領をこんな風にした人間という種族をそう簡単に許せるとは思えない。憎しみは簡単には消えないからだ。

 

「あれ、みんな何してるにゃ?」


 リコが脱衣所から出てきて、小走りでミリアムのところまで走っていった。

 

「ソウセイに感謝の言葉を贈らせてもらっていたんだ」


 ミリアムがリコに説明しながら頭を撫でていた。

 

「リコも伝えたにゃ!」


「はい、リコさんからも聞きました」


 俺は立ち上がり、今の気持ちをみんなに伝えようと思う。まだはっきりと信頼関係を結べた気はしないのだが、この空気でそれを表に出してしまうほど俺も子供ではない。


「……皆さんの感謝の気持ちはしっかりと受け取りました。これからも皆さんの生活の助けになるよう頑張っていきますので、よろしくお願いします」


「ああ、私達もソウセイの力になれるよう尽力する。共に歩めることを嬉しく思う」


 そう言ってミリアムが右手を差し出してきた。俺は意図を汲み握手する。

 

「はい、頑張っていきましょう。あ、あと様付けはやめてもらえると嬉しいです」


 こうして俺は、心の中ではギクシャクしながらも、集落の人達との距離を少し縮められたような気がした。


 今はまだ完璧ではないが、これから小さなことをコツコツと積み重ねていき、完璧な信頼関係を築けるようにしていこう。


 今回一部数字表記をアラビア数字にしてみました。漢数字より読みやすいでしょうか?

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