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勇者を裏切って魔王になった俺は、英雄になった。  作者: 月影 朔
第5章:旅立ち

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第39話:新たな真実

 雪獣との死闘を終えたレオたちは、全身の痛みと疲労に耐えながらも、互いに支え合い、広間の奥へと足を踏み入れた。


 洞窟のさらに奥には、ぼんやりとした光が漏れ出し、それが彼らを誘うかのように輝いていた。


 「まだ、何かあるのか……?」

 エリックが、剣を杖代わりにして、かすれた声で呟いた。彼の顔には、疲労困憊の色が濃く浮かんでいた。


 「念のため、警戒を怠るな」

 レオは、自身の傷も癒えきらぬまま、再び先頭に立った。彼の心には、村人を救うという使命感が燃え盛っていた。


 光の源へと近づくと、そこにはこれまでとは異なる、人工的な空間が広がっていた。


 岩肌を削って作られたと思しき通路の先に、またもや広間が現れる。しかし、その広間は、先ほどの雪獣がいた場所とは全く雰囲気が違っていた。


 中央には、簡素な焚き火が燃え、その周囲に数人の人間が身を寄せ合って座っている。彼らの姿は、間違いなく失踪した村人たちだった。


 「村人たちだ!」

 レオが叫び、安堵と喜びの表情を浮かべた。しかし、その喜びは、次の瞬間に凍りつくことになる。


 村人たちのそばには、数体の魔族がいたのだ。彼らは、人間とは似ても似つかない異形の姿をしていた。


 毛むくじゃらの体、鋭い爪、そして夜に光る瞳。


 村人たちは、彼らの姿を見るや否や、怯えきった表情で勇者パーティーの方へと視線を向けた。


 「ゆう……

勇者様! 助けてください!

化け物が、化け物が私たちを捕らえているんです!」


 一人の村人が、震える声で叫んだ。その言葉に、レオたちの表情は一変する。


 「やはり……魔族か!」


 エリックが剣を抜き放ち、臨戦態勢を取る。セレーネも杖を構え、アルスも呪文の詠唱を始める準備をした。彼らの心には、勇者学校で叩き込まれた「魔族=悪」という固定観念が、強く根付いていた。


 しかし、その魔族たちは、村人を「食べていた」わけではないようだった。彼らの間には、捕食の痕跡も、虐待の跡も見られない。


 むしろ、魔族たちは、村人たちに温かいスープのようなものを与え、焚き火で暖を取らせているようにも見えた。


 魔族の一体が、レオたちを見て、両手を広げ、何かを訴えかけるような仕草を見せた。


 彼らの言葉は、レオたちには理解できない、唸るような異国の言語だった。


 「グルゥ……オオ、グルル……!」


 魔族は、自分たちの縄張りに入ってきた侵入者に対して、敵意を剥き出しにしているようにも、また、何かを伝えようとしているようにも見えた。


 彼らの表情には、困惑と、そして警戒の色が浮かんでいた。


 アルスは、彼らの様子を見て、違和感を覚えた。

 (まるで……

村人を守っている、ようにも見えるが……

まさか、そんなはずは……)


 だが、彼の思考は、村人の悲鳴と、レオたちの焦りによって遮られた。


 「助けてください、勇者様!

早く、この化け物たちを!」


 村人の切羽詰まった声が、レオたちの心に響く。彼らにとって、目の前の魔族は、単なる捕食者であり、排除すべき「悪」でしかなかった。


 「下がってろ!

こいつらは、俺たちが仕留める!」


 レオが、剣を振りかぶり、魔族へと突進した。エリックもそれに続く。


 魔族たちは、レオたちの攻撃的な行動に、驚きと混乱の表情を見せた。彼らは、村人を背後に庇うようにして、抵抗の構えを取る。


 「グオオオッ!」


 一体の魔族が、レオの剣を受け止めるため、前足の爪を突き出した。

その動きには、村人を守ろうとする明確な意思が見て取れた。


 レオたちは、学校で教えられた「魔族は残忍で、人間を餌としか見ていない」という教えに固執し、彼らの行動の真意を読み取ろうとはしなかった。


 「フレイム……

ランス!」


 セレーネが、魔力切れ寸前にもかかわらず、火炎の槍を放った。

その槍は、魔族の一体の胸を貫き、彼を炎に包み込んだ。


 「グルアアアアアアアアァァッ!」


 断末魔の叫びと共に、魔族は倒れ伏した。その瞳からは、まだ生きていたはずの光が急速に失われていく。


 その光景を目の当たりにした残りの魔族たちは、激しい怒りに震えた。彼らは、親しい仲間を目の前で殺されたことへの、純粋な、そして激しい憎悪を剥き出しにした。


 「グオオオオオッ!

グルァァァァァァッ!」


 彼らは、もはや訴えかけることを諦め、攻撃を仕掛けてきた勇者たちへと、全身の怒りを込めて反撃に出た。その目は、悲しみと憎悪に燃え上がっていた。


 「来たか! 数は少ない!

一気に仕留めるぞ!」

レオが叫び、エリックと共に魔族へと斬りかかる。


 セレーネも、残された魔力をかき集め、魔法を放つ。


 アルスは、回復魔法で彼らを支援しながらも、その心には、得体の知れない重苦しさが募っていた。


 魔族たちの動きは、雪獣ほどではないが、俊敏で力強かった。しかし、疲弊しながらも、互いを信じ、連携を取り合う勇者パーティーの敵ではなかった。


 激しい戦闘の末、魔族たちは次々と倒れていった。広間には、再び静寂が戻ったが、先ほどとは異なる、不穏な空気が漂っていた。


 「やった……!

これで、村人たちを救えたな!」


 レオが、剣の血を振り払い、満足げな笑みを浮かべた。エリックも、安堵の息を吐き出す。村人たちも、勇者パーティーの勝利に歓声を上げ、安堵の涙を流していた。


 しかし、アルスだけは、その勝利に満足することはできなかった。


 彼は、倒れた魔族たちの遺体をじっと見つめていた。その瞳には、彼らが村人を守ろうとしていた、必死の抵抗の跡が焼き付いていた。彼らの言葉が理解できなかったことが、これほどの悲劇を生んだのか。


 (本当に……

これで、良かったのか……?)

アルスの心に、深い疑問が刻まれた。


 学校で教えられてきた「魔族は悪」という単純な図式が、目の前の光景とはどうしても結びつかない。魔族にも、守りたいものがあった。彼らなりの「正義」があった。


 それが、言語の壁によって、一方的に踏みにじられてしまったのではないか。


 アルスは、モルグ・アイン山脈に入って以来、いくつかの「違和感」を覚えていた。


 ウッドランドでの奇妙な魔族の痕跡、そして、この洞窟の雪獣の異常な巨大化とエーテル結晶の特性。そして、今目の前で繰り広げられた、この悲劇的な誤解。


 これらの出来事は、アルスの中で、これまで信じてきた「空白の10年間」の真実、そして勇者学校で教えられた世界の成り立ちそのものに対する、深い疑問をより明確にするきっかけとなった。


 彼の心に、静かだが確かな波紋が広がり始めていた。

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