第27話:最後の試練
国王歴1009年8月。
灼熱の太陽が照りつける中、勇者育成学校に、再び卒業試験の機会が訪れた。
今回は、これまでとは異なる緊張感が、レオたちの胸に去来していた。彼らはもはや、単独の生徒でも、一時的なグループでもない。アルスをリーダーとする、真に結束した「勇者パーティー」として、この最後の試練に挑むのだ。
試験の舞台は、学園からほど近い「咆哮の森」。通常の魔獣よりも凶暴な個体が多く生息するとされる、危険度の高い区域だ。
他のパーティーが、緊張した面持ちで森の入口に立つ中、レオ、エリック、セレーネ、そしてアルスの四人は、互いに視線を交わし、静かに頷き合った。そこには、言葉以上の信頼と、確固たる連携が感じられた。
「今回の試験目標は、フォレスト・トロールの討伐だ。各個体の戦闘能力は高いが、連携は得意ではない。連携で各個撃破を狙うぞ」
アルスが、冷静に指示を出す。彼の声は、落ち着いていながらも、確かな統率力を感じさせた。
「レオ、君は先陣を切って、敵を撹乱してくれ。セレーネの魔法が発動するまでの間、敵の注意を引きつけ、攻撃を凌ぐんだ」
「任せろ」
レオは、獰猛な笑みを浮かべ、得物の剣を構える。彼の全身から、滾る闘気が立ち上る。
「エリック、君はレオの側面をカバーし、敵の隙を突いて攻撃を加えろ。必要に応じて、レオと交代し、彼の負担を軽減するんだ」
「了解だ、アルス!」
エリックの返事は、淀みなく、迅速だった。彼の剣もまた、静かに構えられた。
「セレーネ、君の役目は、強力な魔法で敵を一掃することだ。レオとエリックが作った好機を見逃すな」
「当然よ。私の魔法で、一瞬で終わらせてあげる」
セレーネは、自信に満ちた表情で、掌に魔力を集中させる。その指先には、すでに淡い光が宿り始めていた。
「そして私は、君たちの回復と、的確な指示でサポートする。無駄な動きは一切許さない。一寸の狂いもなく、連携を完璧にこなすぞ」
アルスの言葉に、三人は力強く頷いた。彼らの目には、迷いや不安は一切なかった。
森の奥深くへと進むと、すぐに最初のフォレスト・トロールが姿を現した。巨体を揺らし、唸り声を上げるトロールに対し、レオが矢のように飛び出した。
「オラァ!」
彼の剣が、風を切り裂く。トロールの腕の攻撃を紙一重でかわし、その巨大な脚の腱を的確に狙う。トロールが体勢を崩したその隙を、エリックは見逃さなかった。
「もらった!」
エリックの剣が、鋭い一閃を放ち、トロールの脇腹に深々と食い込む。トロールは苦悶の咆哮を上げたが、その隙にレオが再び懐に入り込み、猛攻を仕掛ける。
二人の剣が、まるで一体であるかのように、流れるような連係でトロールを翻弄した。
「今だ、セレーネ!」
アルスの指示が、雷鳴のように響く。
セレーネは、すでに魔法の詠唱を終えていた。彼女の掌から放たれたのは、眩いばかりの光を放つ、巨大な火球だった。
「フレア・ストーム!」
火球は、フォレスト・トロールを飲み込み、爆炎と共に周囲の木々を焦がした。トロールの断末魔の叫びが響き渡り、やがて、その巨体は炭と化して地面に崩れ落ちた。
最初の獲物を仕留めた後も、彼らの圧倒的なチームワークは衰えを知らなかった。
複数の魔獣が同時に襲いかかってきても、レオとエリックが前線で堅実に敵の攻撃を受け止め、的確に散らし、セレーネが後方から強力な範囲攻撃で敵を一掃する。アルスは、彼らの消耗を見極め、的確なタイミングで回復魔法を唱え、負傷を癒した。
また、アルスは、戦況を常に冷静に分析し、時に彼らの行動に先回りするような、驚くほど的確な指示を飛ばした。
「レオ、右へ三歩! エリック、その隙に左へ回り込め!」
「セレーネ、魔力を温存しろ! 次は、あの群れに集中だ!」
彼の指示は、まるで未来を予見しているかのようであり、三人はその指示に寸分の疑いもなく従った。
アルスの指示によって、彼らの動きはより洗練され、無駄のない、完璧な連携へと昇華された。
他のパーティーが、ようやく一体の魔獣を仕留めている頃、レオたちのパーティーは、すでに次の区域へと進んでいた。
彼らの動きは迅速で、効率的だった。互いの存在を信頼し、それぞれの役割を完璧にこなすことで、彼らは単なる個人の集合体ではなく、一つの巨大な生き物のように機能していた。
試験終了の合図が鳴り響いた時、彼らの周囲には、討伐された魔獣の山が築かれていた。その数は、他のどのパーティーをも圧倒していた。
結果は、圧倒的な「合格」。
レオ、エリック、セレーネ、そしてアルスの四人のパーティーは、その実力を学校中の誰もが認めるところとなった。彼らの名は、学園中に轟き渡り、卒業後、彼らがアースガルド大陸でどのような活躍を見せるのか、その期待は最高潮に達していた。
彼らは、もう互いを孤立させる存在ではなかった。それぞれの才能を認め合い、互いを支え合う、真の仲間となったのだ。
そして、彼らの真の冒険は、今、始まったばかりだった。




