第24話:真の絆の萌芽
国王歴1009年5月。
深い森の奥、静かに事の成り行きを見守る影があった。それは、アルスだった。彼は、セレーネのパーティーの動きを、そしてレオの行動を、最初から最後まで、その目で追っていた。
グレート・ベヒモスとの死闘、セレーネの絶望、そして、そこへ颯爽と現れたレオの献身的な救出劇。その一部始終を、アルスは、まるで物語の結末を知る賢者のように、静かに見届けた。
レオが、血を流しながらもセレーネの手を掴み、力強く引き上げる姿。そして、それまで彼を見下していたセレーネが、心からの衝撃と、わずかながら芽生え始めた理解の表情を浮かべている様子。アルスは、彼らの間に、確かな変化の兆しを感じ取っていた。それは、互いの弱点を補い合い、真の力を発揮できる関係性へと向かう、絆の萌芽だった。
(ようやく、この時が来たか……)
アルスの心に、深い感銘が広がった。彼が長い間待ち望んでいた、まさにその瞬間だった。
レオは、魔法の才を持たないがゆえに、この学園では異端児として扱われてきた。しかし、彼の身体能力は卓越しており、その剣技は熟練の戦士をも凌駕する。何よりも、いかなる困難にも決して屈しない、真っ直ぐで不屈の精神は、何物にも代えがたい資質だ。
一方、セレーネは、天賦の魔法の才を持つ。その魔力は、学園の教師たちでさえ舌を巻くほどだ。彼女の魔法は、パーティーの攻撃力として、あるいは防御として、絶大な力を発揮するだろう。しかし、彼女の傲慢さと協調性のなさが、これまでのパーティーにおいては、常に足を引っ張っていた。
(まさに、光と影。水と油……
いや、だからこそ、彼らは互いを補い合える)
アルスは、レオの比類なき身体能力と、セレーネの圧倒的な魔法の才能が合わされば、これ以上ない最高のパーティーになるだろうと確信した。レオの剣が、セレーネの魔法が届かない間合いを埋め、セレーネの魔法が、レオの届かない範囲を焼き尽くす。互いの弱点を完璧に補完し合い、相乗効果で真の力を引き出し合う。
「素晴らしい……」
アルスは、思わず独りごちた。彼の目には、未来の光景が、はっきりと見えていた。
彼は、これまで、レオとセレーネが互いの個性をぶつけ合い、時に反発し合いながらも、内面的な成長を遂げていく様子を、遠くから静かに見守り続けてきた。彼らが、それぞれの試練を乗り越え、互いの存在を認め合う日が来ることを、深く信じていた。そして、今、その確信は、現実のものとなろうとしていた。
アルスの心の中で、彼ら――
レオ、エリック、そしてセレーネを、正式なパーティーメンバーとして迎え入れる決意が固まった。
彼らが、自身の「空白の10年間」を探る旅において、かけがえのない仲間となることを、アルスは確信していた。エリックは、すでに自ら志願してくれている。残るは、レオとセレーネだ。今回の出来事は、彼らが互いを認め合う、決定的な転換点となるだろう。
アルスは、次の卒業試験が、彼自身を含めた4人の、最後の卒業試験となることを確信していた。
それは、単に学校の卒業を意味するものではない。勇者育成学校という枠を超え、真実を求める旅へと踏み出すための、そして、彼らが真の勇者として覚醒するための、最終的な試練となるだろう。
彼らが、この学校を巣立ち、アースガルド大陸の隠された真実へと足を踏み出す日も、そう遠くはない。アルスは、彼らの未来に、静かな期待を抱いていた。




