第22話:賢者の葛藤
国王歴1006年6月。
勇者育成学校の、静かな一角。
アルスは、図書館の古文書室で、エリックと向き合っていた。エリックは、先日、共に「空白の10年間」の真実を探ることに同意して以来、アルスの元を頻繁に訪れるようになっていた。彼の瞳には、知的好奇心と、友を案じる温かな感情が同居していた。
「アルス、真実を探る旅に出るなら、レオを仲間に加えるべきだ」
エリックは、開口一番、力強くそう提案した。
アルスは、静かにエリックの言葉に耳を傾ける。エリックの言葉は、彼の心の中で、ある思考を巡らせるきっかけとなった。
「レオは、確かに魔法は使えない。だが、彼の身体能力は学園でも群を抜いている。どんな困難にも、決して怯まず、真っ直ぐに立ち向かう心を持っている。それに……
彼は、俺にとって、誰よりも信頼できる友人だ」
エリックは、熱のこもった声で、レオの卓越した身体能力と、いかなる困難にも立ち向かう真っ直ぐな心を語った。彼の言葉には、レオへの深い信頼と、共に苦難を乗り越えてきた絆がにじみ出ていた。エリックは、レオこそが、アルスが率いるであろうパーティーにとって、不可欠な存在であると力説した。
アルスは、エリックの言葉に深く頷きながらも、内心では、パーティー構成について異なる考えを持っていた。
「君のレオへの信頼は理解できる、エリック。彼の精神力と剣技は、確かに素晴らしい」
アルスは、レオの資質を高く評価していた。しかし、彼が求めるパーティーは、魔王討伐、ひいては世界の真実を解き明かすという、計り知れない危険を伴う旅に耐えうる、最高の戦力で構成される必要があった。
(強力な魔法使いは、パーティーにとって必須だ)
アルスの頭の中には、セレーネの姿が浮かんでいた。彼女の魔法の才能は、まさに天賦のものだ。その圧倒的な破壊力は、どんな強敵にも通用する。
しかし、アルスは、セレーネの性格もまた、深く理解していた。
セレーネとレオは、まさに犬猿の仲だ。互いに顔を合わせれば、反発し合い、衝突を繰り返すことは目に見えている。あの卒業試験でのセレーネの感情の破綻を、アルスは目の当たりにしていた。
彼女の才能は疑いようもないが、その傲慢さや協調性のなさが、パーティー全体に悪影響を及ぼす可能性は否定できない。むしろ、それは致命的な欠陥となりかねない。
「セレーネも、確かに強力な魔法使いだ。しかし……」
アルスは、言葉を選びながら、エリックに続けた。
「レオとセレーネは、互いに反発し合う傾向がある。彼らを即座に仲間にすることは、現時点では難しいと判断せざるを得ない」
アルスの言葉に、エリックは沈黙した。彼もまた、レオとセレーネの間に存在する根深い溝を理解していたからだ。
アルスは、セレーネの才能は認めつつも、彼女の傲慢さや協調性のなさがパーティーに悪影響を及ぼす可能性も考慮し、慎重な姿勢を見せた。彼の目的は、単に強いメンバーを集めることではない。互いを信頼し、支え合える、真の仲間を見つけることだった。
(彼らが、真の勇者として覚醒し、互いの存在を受け入れるためには……まだ、時間が必要なようだ)
アルスは、図書館の窓から、遠くに見える訓練場に目をやった。そこには、一人、黙々と剣を振るうレオの姿と、どこか孤立したように魔法の訓練をするセレーネの姿があった。
アルスは、焦ることはしなかった。彼は、この三人がいずれ、互いの弱点を受け入れ、真の力を発揮する時が来ることを知っていた。その「時」が来るまで、彼は静かに、しかし着実に、準備を進めていくことを決意していた。
真実を巡る旅は、彼ら全員が覚悟を決めた時、初めて始まるのだから。




