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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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5.妹の想い



「お姉さまっ!」


セラと共に自室に戻ると、ドアを開けた瞬間マリエッタがエリーナの胸中に飛び込んできた。顔をうずめてぎゅっとしがみつく。



「勝手に出て来ては駄目じゃない…また罰を受けてしまうわ。」


エリーナが辛そうな顔をしながら咎めた。

本当は自分に会いに来てくれることが嬉しいのに、マリエッタの身の安全のため受け入れてあげることが出来ない。


マリエッタは普段は離れに隔離されており、そこから出ることは許されていない。しかしこうやってたまに勝手に抜け出してエリーナに会いに来てしまうのだ。


それだけ慕われていることが嬉しい反面、メロウナの反感を買ってしまわないかと気が気ではなかった。



「罰…?あぁ、使用人達との交流会のこと?」


しがみついたまま、マリエッタが顔を上げる。



「使用人達に混じって色々と情報収集してるの。私が膝をついて一緒に掃除するだけでみんな親身になるんだよ?世の中可哀想な女の子には弱いよね。だからあんなの罰でも何でもないよ。」


あっけらかんとするマリエッタの表情は強かだった。



「世渡り上手なのはマリエッタの良い所だけど、あまり反感を買うような真似をしてはいけないわ。私は貴女のことが心配なの。」


「ごめんなさい、お姉様。」


素直に謝るマリエッタの姿に、エリーナの胸がぎゅっと締め付けられる。妹の自由にさせてあげられないことが辛かった。



「それでお姉様、お相手があの完璧公爵だって本当なの?」


マリエッタの心配する声で我に返る。

自分の今置かれている状況を思い出した。



「ええ、そうだったのよ。でも大丈夫よ。噂なんて当てにならないもの。」


エリーナが優しい顔で微笑んだ。

半分は本心で、もう半分は願望だった。政略結婚で愛がなくとも、最低限の尊敬を持ち合わせた夫婦になりたいとそう願っていた。



「ねぇ、セラどう思う?」


自ら買った茶葉で紅茶の用意をしていたセラにマリエッタが問いかけた。ティーポットを手にしたままゆっくりと視線を動かす。セラの目は完全に据わっていた。



「ゔわ」「ええと…?」


あまりの迫力に、二人から恐怖と困惑の声が漏れる。セラは乱暴にティーポットをトレーの上に置くと声を荒げた。



「何でございますか!あの性悪女狐の気色の悪さは!エリーナ様に指南など余計なことをっ…あの女は自分が上手く出来なかったからと言って義娘のことを決めつけてっ…」 


「せ、セラ…一旦落ち着いてもらえる?ほら、紅茶淹れたから一口飲んで。」


「エリーナ様はこんなにもお優しいというのいいいぃ…あのクソ女ぁ…」


「セラ、どうどう」


血走った目で激昂するセラを必死に宥めるエリーナとマリエッタ。



その後なんとか正気を取り戻させ、小さなテーブルを囲んで紅茶を啜る三人。


全てセラの少ない賃金で購入した物のため、ティーカップの絵柄はバラバラで年季が入っている。


亡き母と懇意にしていたセラの優しさが嬉しく、二人にとってこのティーカップは宝物であった。どんなに嫌なことがあっても、こうやってお茶を飲むと心が落ち着くのだ。



「話を戻すけど、私は反対。そんな自分勝手な男にお姉様のことは任せられない。絶対に難癖つけて良いように使うに決まってるもの。」


マリエッタが飲み終えたティーカップをテーブルの上に置いた。



「反対って…貴族令嬢である私たちは親の言うことに従わないといけないのよ。拒否する権利なんてないわ。」


「でもこれは私たち自身の人生でしょう!どうして誰かの言う通りにしないといけないの?死ぬまでずっと誰かの言いなりなの?」


「マリエッタ…」


明るく自由奔放な性格をしているマリエッタだが、エリーナに対して声を荒げることは滅多にない。


それだけ自分のことを考えてくれることに胸が痛む一方、マリエッタの理想を実現できない自分の弱さに嫌気がした。


(マリエッタを連れてここから逃げ出せたらどんなに良かったか…でも私には普通の人生からはみ出す勇気なんてないわ。唯一あるのは、妹のことを守りたいという強い想いだけ。)


目を伏せたまま何も言えなくなってしまったエリーナの代わりに、セラが口を開いた。



「マリエッタ様、エリーナ様もお辛いのです。何よりも大切なのはマリエッタ様のことなのですから。」


「そんなこと分かってる!だから私もお姉様のために何かしたいんだって!姉妹なんだからそう思うのは当然でしょう?」


あまりにも優しい啖呵に、エリーナの目頭が熱くなった。どんな時も一番に思ってくれるマリエッタの存在を誇らしく思う。



「ありがとう。それじゃあ、私が嫁ぎ先で困ったら助けに来てくれるかしら?マリエッタに一番に手紙を出すわ。」


すぐ近くにあるマリエッタの小さな手を両手で包み込む。ありったけの慈愛を含めた瞳で彼女に微笑み掛けた。



「そういうことなら、いつでも助けに行くよ!お姉様を養えるようにパトロンを捕まえておくから安心してね。」


「それは嬉しいけれど、私は貴女にも幸せになってもらいたいのよ。だからちゃんと好きな人と結ばれて欲しいわ。」


「え?幸せだよ。私は父性の強い人に憧れてるの。若い人には惹かれないんだよね。父親が不在だったせいかな?綺麗な白髪頭をした渋い人が好き。」


「「・・・」」


恋する乙女の表情でとんでもないことを言うマリエッタに、ついエリーナもセラも口を閉ざしてしまった。


人の好みはそれぞれと、真正面から否定することは出来なかったのだった。



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