キス
私のことが好き?
好きなのに、ブスとか酷い言葉を投げかけ……。
ん?待てよ。
ルイードは、兄である陛下に対しても、ずけずけと物を言いますわね?
陛下も、ルイードには「お前は馬鹿だ」と何度も言っているのを聞きました。
……そうか。家族ならではの遠慮のなさ。
ルイードのお母様、皇后さまは母を亡くした私を娘のようにかわいがってくださった。
ってことは……。
「兄……」
ルイードは、会った時から私のお兄さんになったつもりで接してくれてたってこと?
そうよ。
ハンナも言っていたわ。
毎日毎日兄弟げんかばかりしてると。だけれど、本当は仲がいいと。喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったものね……と。
言ってた!
「兄さんになるつもりだったのね!」
だから、私を鍛えるために……。
私の言葉に、ルイードの腕がぎゅっとしまった。
あうっ、絞殺される、ちょ、ギブ、ギブっ。
「弟としてふさわしいかどうか見極めてやる」
は?
やっぱり、私は、妹扱いじゃなく、弟扱い!
「っていうか、リーリア、俺と結婚すれば、弟なんて必要ないんだぞ」
は?
弟じゃなく嫁に格上げしてやるとでも?
って、こんなことしてる場合じゃないわ!
抱きしめられる側じゃなくて、抱きしめる側になるんだもんっ!
アルバートが屋敷に入ってきちゃう!
「ルイード、もう帰って頂戴!私は忙しいの!領地の視察から帰ったばかり。それは分かってるわよね?持ち帰った話を伝えなければならないし、午前中にできなかった書類整理もしなくちゃならない」
「手伝うよ?」
「けっこうです。早く帰ってください」
ルイードの腕から逃れ、ぐいぐいと背中を押す。
「まぁいい。リーリア、俺の気持ちは伝えたぞ。考えておいてほしい……」
ぐいぐい。ぐいぐい。
「セバス、王弟殿下がお帰りですわ。お見送りを」
「かしこまりました」
ほれ、さっさと帰れ帰れ。
ルイードがくくくと笑う。
「リーリア、お前はロマルク叔父のように、塩をまけと言わないんだな」
「せ、せ、セバス、塩、塩!」
「あはははは。じゃぁな、リーリア」
ルイードが私の頬にキスを落として帰った。
は?
え?
頬に残るぬくもりに手を当てる。
……キス?
え?
あれ?
……。頬にキスをされるなんて、お父様が亡くなっていらい誰にもされたことが無かった。
そう、家族と呼べる者がいなかったから……。
だけれど、きっとルイードは私の兄のつもりでずっといたのだ。家族として私にキスをしたかったけれど今まではお父様が睨んでいたからできなかっただけなのかもしれない。
伝わらなかった!
何一つ、伝わってない!




