いちご
むぅー。お父様はそんなことしないはずよ。生きてたら、やっぱり、娘を虫けら呼ばわりする男の嫁になどできんっ!って言うはずよ。
あれ?私、ルイードから虫けらって言われたっけ?
まぁいいわ。
「兄上……第一王子派と、第二王子派……つまり俺と、時期王位について貴族たちがもめていたころは、いろいろと問題があってリーリアと結婚したくてもするわけにはいかなかった。ロマルク叔父も、いろいろな問題を分かっていて断るしかなかったのだろう……俺がリーリアと婚約すれば、一気に第二王子派が勢いづいて国が混乱しただろうからな……」
なにそれ。
なにそれ。
そういうことを平気でいうから、ルイードは嫌い。
「私、イチゴが大好きなんです」
「おう、知ってるぞ。人参が嫌いなんだよな?」
やっと床に足をしっかりつくことができ、バランスが悪いながらもルイードの体を両手で押しのけ立ち上がる。
ルイードがニヤニヤと楽しそうに笑った。
「イチゴが好きだから、ケーキを食べるときは、最後の楽しみに残しているんです」
「ああ、そういえば、いっつもお前はケーキを食べるとき……」
あれは、私が10歳の時だっただろうか。
その時のイチゴは飛び切り大きくて、つやつや綺麗で、食べるのがもったいなくて、しばらく眺めていた。……王族主催のお茶会だったんだよ。王妃様に招かれてね。だから、だから……「なんだ、いらねーならもらうぞ」ってルイード殿下にイチゴを食べられてしまっても、しまっても……文句ひとつつけるわけにはいかずに……。
「あの時は、帰ってから一晩泣きました。ええ、私のイチゴを食べたルイード殿下のことを、お父様に延々と訴えた後に……」
「は?何の話って、まさか、お前のイチゴを食べたことを恨んでるのか?」
恨んでる?
ええ。ええ、もちろん恨んでますとも。あの先、一度だって、あれほど大きくてつやつや綺麗なイチゴに出会えていないんですから。
って、違う、そうじゃない。
「確かに、イチゴの恨みは大きいですが、今はイチゴの話をしているわけではありません」
「いや、してるだろ?なぁ?イチゴが大好きって、ああ、そうだ、婚約披露パーティーには各地のイチゴを取り寄せたイチゴパーティーを開いてやる」
「イチゴパーティー?」
なんて魅惑的な言葉!
って、違う、違う。
「くくっ。ほんとリーリアはかわいいな」
はぁ?
コ、コメディですから




