結婚
「お茶をお持ちいたしました」
メアリーの声に、立ったままだったことを思い出し、向かい合わせのソファに座る。
「とにかく、父が断ったお話を、私が受けるわけにはいきませんわ」
きっぱりと断ると、ルイードが私の顔をまっすぐ見た。
「兄の2人目の子供も3歳になった。第一王子に続いて第二王子も順調に成長しているとなれば、俺が王族に留まる必要もない」
そうね。確かに。
「王弟殿下をやめて、なんとか公爵家でも興すのかしら?それとも、隣国の王女とでも結婚するのかしら?」
ルイードが立ち上がり、私の隣に腰を下ろした。2人掛けのソファだけれど、体の大きなルイードが座ると、体が密着して狭く感じる。
「なんとか公爵家じゃない」
ルイードの顔がすぐ隣にある。
「俺が、ロマルク公爵になるんだ」
なっ。それって!
「私を殺すつもり?」
驚いて立ち上がる。
昔から、意地悪ばかりされてたけれど……髪の毛を引っ張られたり、そう、池に落とされたこともあったわ。
ルイードに取っ手私は玩具みたいな物だったのかも。ルイードからの婚約の打診をお父様が断ってくれた時には、本当にほっとしたもの。
ルイードが、私の手をつかんで引っ張った。
殺される!
玩具どころか、私は、ルイードにとって虫けらのような存在だったのね!
強い力で腕を引っ張られ、そのままソファに座るルイードの上に倒れこんだ。
太い腕が背中に回る。
このまま、絞殺される!
っていうか、なんで、殺されようとしてるのに誰も助けてくれないの?セバスぅ……は、領地視察で持って帰ってきた書類を早速仕分けなどしてくれてるか。ハンナぁ……は、骨折で療養中。メアリー……はお茶を運んできた後カートを下げてお菓子の準備中。
他の侍女は?護衛は?ねぇ、ちょっと、いくら相手が王弟殿下だからって、私を見殺しにするなんてひどい!
「莫迦か。結婚すれば、俺がロマルク公爵だろう?」
へ?
結婚?
「だから、それは、何度もお断り」
絞殺されるわけじゃないと分かって、体から力が抜ける。
だらりと、体重をルイードに預けると、ルイードはそのまま何も言わずに私を膝の上にのせている。
「だから、状況が変わっただろう。ロマルク叔父だって、今なら俺とリーリアとの結婚に反対はしないさ」
は?
それってどういう意味?
もう30歳になって行き遅れた私に求婚するありがたい存在を断るようなことはしないってこと?
俺様登場!




