いってきまーす
そうか!
帰ってきた時、その時は、私からぎゅーって抱きしめよう。
そうしたら、朝、一瞬体がこわばったことも無しになるはず。
そうよね。うん。
私も小さいころは、お父様が仕事から帰ってきたときには、走り寄って足にぎゅーって抱き着いてたもん。
まって、この想像じゃ、私が子供の立場じゃないの。
お父様は、私が帰ってきたときに、どうしてたかしら?
……まぁ、いいか。子供の立場だとか親の立場だとかは、置いといて。
帰ってきてぎゅーも普通。
「ありがとうハンナ!じゃぁ、領地視察に行ってくるわ!」
と、手を振ると、ハンナが引き留めた。
「お嬢様、ちょっとお待ちください」
ちょいちょいと手招きされる。
使用人が主人を手招きなんて本来許されることじゃないけれど、ここには私とハンナだけしかいないし、ハンナは足を骨折していて歩けないんだから、仕方がないよね。
ハンナに近寄ってベッドサイドの椅子に腰かける。
「髪の毛が、跳ねてしまっていますよ」
頭の後ろの髪の毛をハンナが整える。まるで、頭を撫でられているかのようだ。
跳ねてる?でもメアリーがしっかり整えてくれたけれど……どこかでひっかけたのかしら?
というあ、私、出がけにこうしてハンナに髪を整えられることが多い気がする。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
ハンナがニコリと笑う。
「行ってきます。お昼には戻ってくるわ」
ハンナに手を振って部屋を出る。
……ああ、そうね。こうしてハンナには、身なりのチェックをしてもらうのが出かけるときの儀式みたいなものになっているんだ。家族とは違う、出かけるときの儀式。
頭を撫でられるように髪を整えてもらうの、私、嫌いじゃないわ。
ふ、ふふ。
そうね。
形なんてなんだっていいのね。
大切に思っている気持ちが伝われば。アルバートの家ではどういう形だったとか、公爵家ではどうしてたとか。
お義母さんだったらどうするとか……。
領地でのケールの話し合いは増産することになった。
アルバートのアドバイスのおかげで、売りこみ先もあることが分かったので。とりあえずテスト用として配る物を今年は作る。乾燥させてしまえば保存もできるから、無駄になることはないだろう。
来年からの生産量は売りこみ次第で決めていく。
さて。増産することによって、農家の負担が増えるのは間違いない。増員も考えた方がいいだろう。
売りこみ先も絞らないといけないし。
色々考えることがあるわね。帰ったら忙しくなるわ。




