はぐっと
ええ、人参を素早く飲み込むためにね。人参の味を口の中から消し去るためね。
「ふ、ふふ、もしかして、リーリア様は、人参が苦手なんですか?」
アルバートが楽しそうに笑う。
「そ、そんなことは、ありませんわ、わ、私は」
大人ですし、アルバートの親になるんですもの。好き嫌いなんて……。
目が泳ぐ。あ、確かお父様もピーマン嫌いなのと聞いた私にこんな態度だったかも。ああ、私、お父様に似ているんですね……。
つい、お父様がやっていたように、ぐすりとフォークに人参を突き刺し、嫌いじゃないよアピールで口に運ぼうと。
「僕、言いましたよね。人参は好物なんです」
グイっとフォークを持つ手をつかまれ、人参はアルバートの口の中に消えて行った。
「リーリア様、無理して一人で抱え込まないで……僕に分けてほしい……」
真剣なまなざしに、思わず息をのむ。
って、違う。
「だ、だ、だめですからね!好き嫌いはしちゃだめなんです。わ、私、確かに人参は実はちょっと苦手ですけれど、好き嫌いはダメだと、出された分は自分でちゃんと食べないと、その、怒り……」
怒りますよと言おうとしたけれど、そんな親みたいなことまだ、早いかと思って言葉を止めたら、ふふっと笑われた。
「分かりました。僕も、メアリーやセバスに怒られないように苦手な野菜ジュースもちゃんと飲みます」
野菜ジュースを手に取って、アルバートがごくごくと喉を鳴らす。
「おや、本当にこれは……美味しい。あれ?僕らが学園で飲まされてたあの野菜ジュースは一体なんだったのか……」
アルバートが空になったコップを手に驚きの表情をしている。
「これは、ぜひ学園への売り込みを成功させてもらわないと。野菜ジュース根絶派に根回しをしておきますよ」
野菜ジュース根絶派なんているんだ。でも、根絶されないってことは、逆に存続派もいるってことよねぇ。どんな味か知らないけれど、そのまずい野菜ジュースが好きな人もいるのかしら?
「ふふ、お願いね。ごちそう様」
私が席を立つと、アルバートも立ち上がった。
「ごちそう様でした。では、行ってきます」
そして、そのまま学校へと向かうようだ。
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
お父様が私にしてくれていたように、頭を優しくなでて送り出すというのはできなかったけれど……その、アルバートの頭に手を伸ばすのが、なんか身長差的におかしな状態になる感じがしたので。
替わりに、肩に手を載せてポンポンとしてみた。
「はい。行ってきます。リーリア様もお気をつけて」
へ?
ぶ?
は、ぐ。
ハグされてる。抱きしめられてる。頭の上に、ぽこんとアルバートの頭が載ってる。
あれ、なんで、えーっと……。




