朝が来た
……。
私、いつの間に寝てしまったのかしら?
そして、どうやって自分のベッドに移動したのかしら?
それから……なんだかいい夢を見たような気がする……んだけれど。どんな夢を見たのかしら?
おっと、こうしてはいられないわ。
朝の支度を急がなければ。
「ハンナ、おはよう」
「お嬢様、朝からどうしたのですか?」
「朝、子供のためにすることって何かしら?」
昨日まとめて聞いておけばよかったんだわ。
「アルバート様は学校があるんですわよね?」
「ええ。王都の学校だから、うちからなら馬車で1時間ほど……」
「でしたら、ご一緒に朝食を取りながら、学校の話をしたりして、そうですね、あとは笑顔で行ってらっしゃいと送り出すくらいでしょうか?忘れ物をしていないかの確認も必要ですね」
そうか。そうよね。
アルバートはまだ親衛隊養成学校に通わなければいけないんだもん。朝なんてそれくらいしかないわよね。
笑顔で送り出す。うん。
「ありがとうハンナ!笑顔ね、笑顔!」
部屋に戻って鏡を見ながらしっかり身支度を始める。もちろんハンナはいなくても他の侍女がすべてやってくれるんだけれど。
「お嬢様、今日はずいぶんと顔色がよろしいようですわね。よく眠れたのですか?」
侍女がおしろいを塗りながら話しかけてくる。
「ええ、ぐっすりと眠れたようなの。なんだか、いい夢を見ていた気がするんだけれど、覚えていないくらい」
鏡越しに侍女が嬉しそうな顔をしたのが見える。
「アルバート様のおかげでしょうか」
「え?」
アルバートのおかげでよく眠れた?の?
「立派な方のようで。彼のような方が公爵家を継いでくださるなら、リーリア様もご安心ですね」
「そうね。そうよ。うん、そうなの。でも、まだ確定じゃないのよ。半年間のお試し期間で、正式に養子になってくれるかどうかの返事をもらうんだもの……。絶対に、うちの子になりたいって思ってもらわないと!」
ぐっと拳を握りしめると、侍女のメアリーがくすくすと笑った。メアリーは侍女頭として皆を取り仕切る立場にあり、普段は別の仕事をしているのだけれど、ハンナが働けない間は私のお世話もしてくれている。50近いメアリーは、私が生まれた時から15になるまでお世話をしてくれていた。ハンナが姉みたいな存在だとすれば、メアリーはお母さんみたいな……。
「ふふ、そうですね。若い侍女たちは若くて素敵なお坊ちゃまのお世話ができると喜んでいますし、私たち古参の者は、若いころのご主人様……先代公爵様を見ているようで」
メアリーが懐かしそうに眼を細めたのが鏡に映った。




