アルバート君のお部屋3
胸がもやもやする。
この感情は何だろう。
僕が、今まで感じたことがない気持ちだ。
……そうだ。
守りたい。
守りたい……。こんなに辛そうな、悲しそうな涙を流さなくていいように……。
守ってあげたい。
椅子から倒れ落ちないようにと支えていたリーリア様の体を抱き上げ、ベッドへと寝かせる。
顔にかかった髪の毛をかき揚げ、涙を袖口でぬぐった。
ぬぐっても、ぬぐっても、涙が流れてくる。
「リーリア……」
違うんだ。違う。
リーリア様が18歳のときに、すごかったんじゃない。……子供ではいられなかったんだ。きっと……。
小さなころに母親を亡くしたということは、先代公爵様は奥様を亡くして一人娘を育てていた。
本来公爵様を支える公爵夫人がいなかったことで、リーリア様はお父様を助けたいと、子供のころから……子供らしい色々なことをしないまま、早く大人になろうとしたんじゃないだろうか。
侍女のハンナに、親子はどう過ごすのか聞いたと言っていた。
自分の子供時代を思い出せばすみそうなのに……。親子の過ごし方が分からないというのは、子供らしい生活を、普通の親子がどういうものかと分からなかった……。
気が付けば、まるで小さな子の頭をなでるかのようにリーリア様の頭をなでていた。
「先代公爵様が亡くなり……リーリア様は一人で公爵家を……領地を必死に支えてきたんだ……」
どれほど大変なことだろう。
こうして、眠ってしまってから、何度一人で涙を流してきたのだろう……。
リーリア様……。
僕は、あなたを守りたい。
若くて頼りない……あなたにとっては子供のように思うかもしれないが……。
支えてあげたい。隣に立ちたい。守りたい。
結婚するために頼りになる人間だと思われたいとか、セバスや周りの人間に認められたいとか、そんな打算的な気持ちじゃない感情が胸にあふれている。
「リーリア……僕が、あなたを守るから……。もう、一人で泣かなくてすむように……」
そっと耳元でささやくと、リーリア様が小さく微笑んだ。
「お……とう……さ……ま……」
リーリア様を抱き上げ、隣の部屋に寝かせる。
……いつの間にか止まっていた涙にほっとする。
もっと必死にならなければ。死に物狂いで学ばなければ。
18年間……いや、5歳から教育を受けていたとしたら13年間。13年間学んでいたはずの領主教育を、2年で……いや、1年で学ぶ。経験や実践が伴わないがそれは年月に解決してもらうしかない。が、過去に学べることはたくさんあるはずだ。
そして、なんとしても……リーリア様と結婚する。夫として、彼女を一人にしない。もう、泣かせない。守りたい。
ああ、この気持ちの名前を知らない。
僕が求めているのは、熟女ではない……。リーリア様なんだ……。
(天の声*ぼっちゃん、それが恋ですよ)
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