夕食時のアルバート君
夕食ですとセバスが呼びに来た。
僕はとりあえず、先代が好んでよく着ていたという飾り気のない白いシャツに、青いタイ。それからズボンを身に着けた。
残念なことに、体型には少し差があるようで、ズボンの丈が若干短い……。まぁ、お古を着る生活が普通だったから、ズボンの裾が合わないなんて全く気にならないんだけれど……流石に公爵家にお世話になる身としてはみっともない恰好はできないよなぁ。
裾を見れば、折り曲げ部分をほどいて少な目にして折り返して縫えば調整できそうだ。本の2センチほどのことなので。
「これは、これは……よくお似合いです」
部屋に入ってきたセバスが感心したように声を上げる。
「ありがとう。裾だけ少し直してもらえばサイズもぴったりです」
「ほぼ体型も同じということですねぇ。これで、少し重心を右にして立てば先代公爵様の若いころにそっくりですよ」
重心を右に?
「お嬢様……リーリア様は食堂でお待ちです。どうぞ」
セバスに促され部屋を移動する。
食堂の扉を開いて中に入ると……。
僕のマイスイート熟女が、にこやかな表情で立っていた。
それも、まるで美の女神ヴィーナスか!という輝かしさで。
初対面の時は、かっちりした正装に近いドレス姿だったマイスィート熟女女神は、さらさらと柔らかくて軽そうな生地のワンピースを身に着けている。
薄いクリーム色のワンピースが、白い彼女の肌をより美しく見せている。水をはじくような自己主張が激しそうな肌ではない。しっとりとした吸い付いたら離れなさそうな魅力的な肌だ。
楽な服装でと言われ、僕は長袖のシャツと長ズボンんを選んだ。
季節は春から初夏に向かおうとしている。長袖でも半袖でもいいような季節なのだが、初対面の時に長袖だったから……。
まさか、それなのに……。
ああ、麗しのマイハニーリーリア様は……。
は、ん、そ、で!
何で、まさか、まだ夏には早いのに、ああああっ!
「に、に、に……に……」
袖口からちらりちらりと見える……に、に……。
二の腕!!!!!!!!
ああ、なんて、理想的な二の腕なのだろう。細すぎず、ふと過ぎず。
そして、なんと言っても、柔らかそう……。
ああ、触れれば、どんなうっとりするような感触をしているのだろうか……。
最後に柔らかな二の腕に触れたのはいつのことだろう。
もう、男どもの筋肉自慢の二の腕なんて見飽きた。
柔らかさは罪とばかりに鍛え上げられた二の腕、それに何の価値があろうか。
細さを競う女子たちの二の腕にも全く魅力の要素はない。柔らかな肉が程よくついた二の腕こそ、至上の価値!
細い腕で僕に愛を乞う女子には「20年早い!」と、言ってやりたかった!
やばい。思わず、馬鹿みたいに「に、に、」とつぶやいてしまった。
あまりにも神々しくて!
「お好きですか?」
女神の言葉に、顔が真っ赤になる。
ま、まさか、僕が二の腕を凝視しているのがバレた?
それでいての質問?
ど、どうすればいいんだ。まさか、はい、大好きですと素直に答えるわけにもいかない……。
「恥ずかしがる必要なんてないわよ?」
って、いや、恥ずかしいです。リーリア大姉様……。
だって、僕、その、柔らかそうな二の腕を触りたいって思ってても、その、実際に女性の二の腕を触ったことなんて……実は、10歳を超えてからは未経験なんですっ。
って、どうしていいか分からずに立ち尽くしていると、リーリア天使様が、うっとりするほど素敵な笑顔で、僕の方に歩み寄ってきた。
「男の子は皆好きだと聞いて準備したのよ」
うひゃー。
そりゃ、好き、好き、大好き、もう、好きすぎて……って、何で知ってるの?男同士の内緒話だよね。若い子が好きだって言う友達も、二の腕だけは、若い子よりもちょっと年行った方が気持ちいいよなとか、そういうひそひそ話してるの、もしかして、熟女にはバレてるの?
ねぇ、ちょっと、いや、だからって、僕のために準備?
リーリア様の手が僕に伸びる。
ひーっ!
これ、二の腕触っていいわよって話?
ちょ、心臓、僕の心臓……動いてるっ!思わず止まっちゃったんじゃないかと思って確かめた。ドキドキが加速しすぎて機能停止するかと思った。
「こんな、ご褒美……」
まさか、まさか、待っているなんて。
時期領主なんてまっぴらごめんだけれど、……ああ、この二の腕を僕の物にするために、僕は命がけで勉強して見せる。
「あら、いやだ、大げさね。ふふ」
ふふっと笑ったリーリア様の目じりに、まだ浅いけれどしっかりとしわが見えた。
ああ、素晴らしい。
何てすばらしい目じりのシワ……。
きっと素敵な人生を歩んできたのが、このシワ一つで……ご飯3杯は行ける。(天の声*おいアルバート、ご飯って世界感違うからな!)
おかしいな、リーリアサイドの倍くらいの分量になっちまった。
なんだ、このヒーロー、脳内おしゃべりすぎないか?
うへへへ。




