ご褒美?
食卓には、すでに料理が並べられている。格式ばった場では、1品ずつ出す料理だけれど、家族との食事であれば貴族とはいえ一度に用意されるこがとが普通だ。ああもちろん、格式ばった場でのマナーを覚えるために練習として1品ずつ出されることもある。
で、本来なら料理が冷めないように着席した後カートで運ばれ配膳されるんだけれど、今回は鉄板にのせられた肉。
着席するころにちょうどいい具合に焼けるという寸法で、すでにジュウジュウとテーブルの上で音を立てながらおいしそうな匂いを漂わせている。
「アルバート様、どうぞ」
セバスに通されてアルバート(息子:仮)が食堂に入ってきた。
あっと、思わず声が出そうになって口を閉じる。
護衛に似た服から、ラフな白いシャツに、鮮やかな青いタイ……。似ている。
屋敷に飾られた若いころの父の肖像画に、思いのほか似ている。
髪の色が同じだなぁとは思ったけれど。ロマルク公爵家の血筋なのだ、似ていても不思議ではない。
っと、いけない。思わずぼんやり考え事をしてしまった。
「に、に、に……に……」
あら?アルバートが「に」と言っているように見えます。
ふふ、テーブルに用意した肉が目に入ったのね。
「お好きですか?」
との問いに、アルバートが顔を真っ赤にした。
おや?
挨拶もそこそこに肉に目がいくなんて失礼なことをしたと思ったのかしら。
「恥ずかしがる必要なんてないわよ?」
入口で立ち尽くしているアルバートの元に近づく。
「男の子は皆好きだと聞いて準備したのよ」
いつまでたってもテーブルにつこうとしないアルバートに手を伸ばす。
っと、いきなり背中を押して「どうぞ、遠慮なさらないで」なんてなれなれしいかなと、のばした手を止める。
セバスも性急にことを進めるのは良くないって言ってたし。
でも、この、伸ばした手をどうしようかと考えていると、アルバートが私の手を取った。
あら?アルバートの手、震えているわ。緊張している?
「こんな、ご褒美……」
ご褒美?
「あら、いやだ、大げさね。ふふ」
と、笑ってから失敗したと青ざめる。
もしかしたら、ご実家……子爵家では肉はご褒美だった?あまり経済状態が良くないと聞いているし、ご家族も領民思いで、領民が貧しい生活をしているのに贅沢するような家ではないということよね。
アルバートも家族や領民のことを思って養子の話を受けたようなことを言っていたような……。
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肉は、現代日本でもご褒美……だと思っている人、素直に手を上げるのです!




