君のための贄だ
「ああ! ああ! 愛しい人が僕の名前を呼んでくれた! 千年ぶりだ、なんて甘やかな声だ!」
「間違いなくグレンね」
涙を拭いて、ふふ、と面白そうに笑った彼女に、不死王は鼻がくっつきそうな程顔を寄せる。
「ねえ愛しい人、貴女のために僕、素敵な贄を用意したんだ」
「にえ? なんのこと?」
「あの男がいなくなったせいで、貴女は悲しむあまりに魔を生み出してしまったんでしょう? 安心して、もう貴女にそんな悲しい思いはさせないよ、愛しい人」
すっくと立ちあがった不死王は、今度は彼女に見せつけるようにクルクルと踊って見せた。
「見て、今回の器は素晴らしいでしょう? 美しい君にとても似合うと思うんだ。どう?」
「どうって……綺麗ね」
「……この見目でも、ダメなの?」
彼女の答えに、不死王はあからさまにがっかりした顔で肩を落とした。
「……そうだ! そんなにあの男がいいなら、この器の命を使って、あの男にそっくりな傀儡を作ってあげる」
ニンマリと笑った次の瞬間、クルクル金髪巻き毛の体から、白い靄……不死王がするりと抜け出てくる。
「この器もね、命をくれるって言ってるんだ。ねえ、君、そうだよね」
急に真っ青な顔で、涙を滔々と流しながら、クルクル金髪巻き毛がゆっくりと頷く。その唇は青く震えていて、とても正気とは思えなかった。
「ばか言わないで!」
気が付いたら、クルクル金髪巻き毛を庇うように前に出ていた。
「アルバ! クルク……ロンド様をお願い!」
「任せろ!」
ふらつくクルクル金髪巻き毛の体をアルバがしっかりと抱き留めたのを見て、私はほっと息をつく。なのにクルクル金髪巻き毛は、私を見てさらにボロボロと涙をこぼした。
「もう、いいんだ……僕なんて死んだ方がいい……キッカだってそう思ってるんでしょ」
頭に血がのぼった。
「そんなワケないでしょ! 確かにアンタは不愉快だけど、死ねばいいなんて思ってないわよ!」
「やっぱり不愉快なんじゃないか……!」
しまった、さめざめと泣きだしてしまった。頭に血が上ったせいで今言わなくてもいいことまで言ってしまった。ちょっと反省だ。
その途端、けたたましい笑い声がこだました。金属音に近い高い声に、思わず耳を抑える。声の主は案の定不死王で、どうやら器がないせいで、彼本来の耳障りな声が直接響いているらしい。ホント迷惑な声だ。
「あはははは、この子と一緒にいる間、負の感情を何度も何度も呼び起こしてあげたから、とても素敵な魂に仕上がったよ。ねえ君、この世界は酷いところだよねえ」
クルクル金髪巻き毛の方がビクリと揺れて、青い顔がさらに青くなっていく。




