麗しのアイリーン
「ミナト……?」
柩から体を起こしたのは、とてつもない美少女だった。
烏の濡れ羽色の真っ直ぐな長い髪、華奢で儚げな容姿、遠目で見てる私にも分かる程の長い睫毛に深い紫の瞳。小さくて薄い唇は愛らしいピンクでとても可愛らしい。
深い緑をさし色にした黒のゴスロリ風のドレスが、白い肌を引き立てて、彼女をより繊細に見せている。
うわー小顔! うわーお人形さんみたい! 不死王が操ってたビスクドールも可愛かったけど、この子の可愛さ半端ない! 多分十七~十八歳くらいだと思うけど、まだどこかにあどけなさも感じる、初々しい感じがたまらない。
「アイリーン、久方ぶりじゃのう。体調はどうじゃ?」
「僕の愛しい人! ああ、君は千年の時を経ても美しい……!」
「よう、久しぶり」
「え? え? 何? だれ?」
いきなりプチ三魔将に纏わりつかれて戸惑う姿も愛らしい。
こんなかわいい子が世の中にはいたんだなあ、なんて感動して見ていたら、女の子が急にきょろきょろと辺りを見回した。
「ハヤト……ハヤトは?」
その質問に、賢者サマは苦笑しながら、彼女に手を差し伸べる。柩から起きるためにエスコートするつもりらしい。賢者サマも三魔将と同じくらい、彼女に会えて嬉しそうに見えた。
「相変わらずハヤト、ハヤトなんだね。兄貴はいないよ、君が送還したんじゃないか」
兄貴? 日本に送還? わけが分からなくて混乱する。
ただ、彼女が過去にそのハヤトさんを日本に送還したことがあるのなら、確かに私を送還してくれることは可能かも知れない、そう思った。
一方、賢者サマの言葉を聞いた彼女はぷうっと頬を膨らませて、もう一度柩に勢いよく身を横たえる。その瞬間、彼女の体から急に黒い靄が噴き出した。
見間違い? と目をこすったけれど、やっぱりある。
「落ち着いて、魔が生まれちゃうよ」
賢者サマが辛そうな顔で何か印を切った。
「じゃあ起こさないで頂戴! ハヤトのいない世界なんて大嫌いなんだから。ミナトだってずっと眠ってていいって言ったじゃない」
「ごめん、でも……君の望みが叶えられそうな妙案が見つかったからさぁ」
「本当!?」
今度は花が咲きそうな笑顔で、彼女が再び身を起こす。でも、すぐにその顔からは笑顔が消えた。
「でも……ハヤトには、向こうの世界に恋人がいるんでしょう? ハヤトを苦しめるだけだもの」
「あー、それさぁ」
ぽろぽろと涙を溢すその姿はとても可憐だ。泣き崩れる彼女を女の私でも慰めてあげたくなる。全然話がわからないなりに、彼女がハヤトとかいう人に失恋したってことだけは分かった。
こんなかわいい子でも失恋とかするのか……世の中ままならない。変な悟りを開きそうだった私の耳に、とてつもなく不吉な声が聞こえてきた。
「ねえ僕の愛しい人、もうあんな薄情な男のこと、忘れてよ」
なにかを言おうとした賢者サマを押しのけて、彼女の手を両手で恭しく握り、うっとりと見つめている不死王に、彼女はおずおずと言葉を返す。
「……その呼び方、もしかしてあなた、グレン?」




