魔王、復活。
「ほら、いよいよ美しいあのお方の復活だよ。君はそこでイモ虫みたいに這いつくばって見てなよ」
うつ伏せで倒れた第二王子の背中を片足で踏みつけて、不死王がにやにやと黒い笑いを浮かべる。その顔は嗜虐的で、仄暗い喜びに満ちていた。
「……!」
「動くなよ」
駆け寄ろうとしたグレオスさんを、不死王が射殺すような目で睨み付ける。威嚇するように第二王子の背中をぐりぐりと踏みつけながら、不死王は急ににっこりと笑顔をこぼした。
「なんならこのイモ虫を、死ぬ寸前までいたぶったっていいんだからね?」
その言葉に、悔し気にグレオスさんが足を止める。愉快そうに高笑いした後、不死王がこちらを見つめ「ああ……」とため息を漏らした。
「ああ、ああ、ついにあのお方が復活する……! どれほど、この時を待ったことか」
その言葉と同時に、玉座からまばゆい光が溢れ出た。
眩しすぎて、視界が奪われる。
そんな中、体を震わせるほどの振動とともに、ゴゴゴゴゴ……と、重い石をすり合わせるような重低音が響き渡った。
「なに……?」
チカチカする目を何度も瞬かせながら、辺りを見回した私は、さっきまでとは違う玉座の様子に驚いて、思わず後ろによろめいてしまう。
「おっと」
そこを、アルバがしっかりと支えてくれた。
「あれ……」
玉座の足元にから目が離せない。そこには、ちょうど人ひとりが入れる程の、長方形の石の柩がせり出していた。
ってことは魔王って人間サイズだったんだなぁ、なんてどこかでホッとした自分がいる。
「アイリーン!」
私がぼんやりしていた一瞬で、龍王が弾丸みたいに飛んできて、その柩の中に突撃する。
「僕の愛しい人! ああ、その麗しい顔を早く見せて……!」
クルクル金髪巻き毛……もとい、不死王が両手を広げて駆け寄ってくる。
「フン」
ハクエンちゃんも、だるそうな素振りでトコトコとこちらへ向かっている。気のない素振りをしているけれど、尻尾の先が嬉しそうに揺れてるからね?
ああ、本当にみんな、魔王が大好きなんだなあ。
ちょっと微笑ましく思っていたら、賢者サマが痛々しいものを見るような顔で、ゆっくりと柩を覗き込み、右手を優しく差し入れた。
「……可哀想に、もう君を苛む人はいない」
呟くと、柔らかな光が柩を包み込む。
あれってまさか、回復魔法? ちょっとちょっと賢者サマ、本当に魔王を回復して大丈夫なの?
ひとり不安を抱えて柩を凝視していたら、虚空を掴むように、穴の中から白魚のような手が現れた。
白く繊細な指先、陽に当たったことがないんじゃないのってくらい透き通るように白い腕。細さも形も、これ、どう考えても女性の手に見えるんですけど……まさか、魔王って。
「あ……私……」
鈴を転がすような、っていうの? 可愛らしい声がして、魔王と思われるその人が、ゆっくりと半身を起こす。賢者サマの顔が嬉しそうに綻んだ。
「やあ、久しぶり。魔王様」




