魔王城最深部「玉座の間」
アルバが蒸し返すから、ついついその事ばっかり考えちゃって、気が付いたら魔王城最深部「玉座の間」に辿り着いていた。
さすがに魔物が出ないと、距離をそこそこ歩いても大した疲れはないんだね。
ああ、本当に教会みたいな荘厳さ。
高い流線型の天井にはまるで宗教画のようなステンドグラスの意匠が凝らされていて、そこからゆるく柔らかな光が差し込んでいる。
時が止まったように静謐で穏やかな石造りの玉座の間は、かつて魔王と勇者たちが激戦を繰り広げたなんてとても思えない、美しい空間だった。
入り口の扉から真っ直ぐに伸びる深紅の絨毯の先には、煌びやかな玉座。そしてそれを囲むように、二つの魔法陣が空中でくるくると回っている。
うわあ……今まで見た魔法陣の中で、一番きれい。光が集まって文字を成しているみたい。キラキラと舞う光の粒子で構築されている繊細な魔法陣に、ついつい見惚れてしまった。
「よし、じゃあ早速始めるよ。君たちは少し離れて見てて」
周囲を調べるような間もなく、賢者サマは早くも魔法陣の前に立ち、詠唱の準備を始める。
「千年の眠りで、少しは心が癒えているといいんじゃがのう……」
龍王が心配そうに玉座のあたりを見てはパタパタと落ち着きなく飛び回っていて、龍王が本当に魔王を愛しく思っているのが感じられた。
「ごめん、キッカ。ちょっと来て」
おっ、賢者サマからお呼びがかかったけど、なんだろう。ドキドキしながら足を踏み出す。
「俺も行く」
後ろから、アルバがついてきてくれたのが頼もしかった。
「君の魔力を少し借りるね。浄化の魔法を軽くでいいからこの二つの魔法陣に」
言われたとおりに浄化の魔法を唱えたら、魔法陣がひと際眩く輝きだす。
すごい……! なんて綺麗なんだろう。
その魔法陣の変化に満足そうに頷いた賢者サマは、両手を高く掲げ、歌うように呪文を唱え始めた。
これまでの封印解除とは明らかに違う、美しい旋律。高く、低く、延々と続いていく長い長い詠唱。
その姿は厳かで、ああこの人って本当に賢者なんだなぁ……なんて、私は改めて感動していた。
「や……め……ろ……!」
うめくような声が聞こえて、ハッとする。
振り返って声の方を見れば、第二王子が賢者の方に必死の形相で駆け寄ろうとしていた。
「この後に及んで、無駄なあがきだねえ」
「っ!」
「賢者殿を怒らせるとあのお方に会えないから我慢するけどさぁ、君、ホント邪魔」
うわ……ひどい、不死王のくせに足払いとか。見た目クルクル金髪巻き毛が第二王子に足払いかけてる感じだから違和感が半端ないんだけど。




