考えといてくれよ
魔王城は、魔物すら出ないただ美しいだけの城だった。ミラノ大聖堂だっけ、お城みたいに大きな大聖堂あるじゃない? あんな感じ。とても優美で繊細な装飾は、魔王城とは思えないほど。
どっちかっていうと、不死王の城の方がよっぽどおどろおどろしくて怖かった。
ただ、仕掛けはちょっと複雑で、色んな部屋をワープしながら進んでいく。なんか床に仕掛けがあるらしくって、ワープポイントを踏むと次の部屋に転送されるんだけど、恐ろしいことに正しい順番でワープしていかないと、永久に魔王の部屋にはたどり着けないらしい。
賢者サマに「はぐれたらオシマイだからね」なんて恐ろしい忠告をされて、私達は必死で賢者サマについて行っている。見た目はちょっとしたカルガモの親子だ。
麻痺のせいでおしゃべりもできずに黙々と歩くリーン達の背中を見ながら、私はアルバとちょっとした話をしながらてくてくと歩いていた。
「そういえばさっきはビックリしちゃったよね」
「何がだ」
「賢者サマの豹変ぶりだよ。いつもノホホンとしてるからさ。……一瞬、このまま本当に魔王を復活させていいのかなって、ちょっと不安になった」
こそっと本音を漏らしてみたら、アルバは面白そうに微笑んだ。
「怖気づいたか?」
「そんなんじゃないけど」
「心配すんな」
そう言ってアルバは、私を落ち着かせるようにポンポンと肩を叩いてくれる。
「正直、あの賢者の実力なら、気が向けばたった一人でいつでも魔王を復活させられるだろ。今まで千年守って来た封印を、その管理者が解くに足る理由があるって言うなら、信用してもいいと思うぜ?」
「……ありがと」
何気ない口調で言ってくれた言葉が、私の心を軽くする。嬉しくなって、私は思わず顔をほころばせた。
アルバって、こうやっていつもさりげなくフォローしてくれるよね。
「賢者を信じるなら、魔王を復活させれば世界が正常になるんだろ? 御の字じゃねえか。……まあ、正常ってのがなんなのか今ひとつわからねえが」
「確かに」
「しかも、キッカだって日本に帰れる」
アルバは立ち止まって、「……ついにここまで来たな」と感慨深そうにつぶやいた。
「この前言ったこと、考えといてくれよ?」
アルバに顔を覗き込まれて、私は一気に真っ赤になる。そんなにマジマジ見ないで欲しい。
それって、あれだよね。
一緒に、日本に行きたいって言ってくれた……あのことだよね。
そんなの、言われた時から延々、ずーーーっと、事ある毎に、考えてるよ!




