龍王アレヒアル
「相変わらず乱暴だのう、ちゃんと壁は修復しておくれ」
土煙の向こうからは、しゃがれたおじいさんのような声。
「あー、ごめんねアレヒアル。この子たちがさあ、さっき言った聖女たちだよ。そんじゃあ壁をちゃっちゃっと修復して、ちゃっちゃと封印解いて、魔王に会いに行こうか」
「ちょっと待って、展開が早すぎてついていけない」
「だから彼が龍王アレヒアル」
「いきなり!?」
「間違いない。久しぶりだな、ジジイ」
ハクエンちゃんまで太鼓判。ってことは本当に龍王がいるの!?
ようやく土煙が収まって来た洞窟の中、確かに奥にぼんやりと二つの魔法陣が浮かんでいる。
でも、龍王なんて……どこにいるの?
私の疑問に答えるように、奥からなにやら黒くて丸い物がふよふよとこちらに近寄ってくるのが見える。
うわ、可愛い。ちっちゃなドラゴンだ!
パタパタと小さな翼を羽ばたかせて、バレーボールサイズの黒龍がこっちにやってくる。つぶらな大きな瞳は銀色だけど、爬虫類っぽい縦長の瞳が印象的だ。小指サイズの小さな角まで愛らしい。
「相変わらず口が悪いのう、ハクエン。そのナリでは悪態も可愛く思えるのう、いい子いい子」
「くっ、ジジイめ……!」
「アレヒアルじゃ、その昔は龍王と呼ばれたこともあるが……今となってはただ長く生きただけの力無きものじゃよ。さほど役にはたてんが、よろしくのう」
ハクエンちゃんをしっぽでナデナデ、瞬殺で黙らせた龍王は、可愛らしく両手を開いてご挨拶してくれた。
「よ、よろしくお願いします」
「うむ、事情はそこのミナトから聞いておる。聖女というのも難儀な事よのう」
「は、はあ」
「力を持つものは、いつの世もその力ゆえに利用され、翻弄されるものじゃな。この世界のためにすまぬのう」
小さなお手々で、龍王は私の頭をよしよしと撫でてくれた。見た目と言葉のギャップが凄いのに、なぜだろう……なんだかとても癒される。
「確かにあの子なら送還できるやもしれぬでな、協力は惜しまぬよ。あきらめずに頑張るんじゃよ」
「おいジジイ、てめえなんでそんなに詳しい」
ハクエンちゃんが、私の肩に飛び乗って、龍王にくってかかる。でも確かに、それは私も気になっていた。
「さっき言わなんだかのう、お主らが来るちょっと前、ミナトが事細かに説明してくれたでの、おおまか事の次第は分かっておるつもりじゃが」
「ジジイ、なんであの腐れ賢者とそんなに懇意なんだ!?」
そんな噛みつくようなハクエンちゃんの問いに答えたのは、賢者様の呑気な声だった。
「酷いなー、腐れ賢者とか。アレヒアルは君みたいにケンカ腰じゃないからね。この千年でお互い茶飲み友達になったんだよ。知り合いも少ないし、互いの知識に興味あったしね」
ハクエンちゃんはもちろん、私達だって開いた口がふさがらない。殺し合ったはずの賢者と、龍王が、茶飲み友達……?




