ぜんぜん、大丈夫じゃないじゃん!
「じゃあ、行こう」
颯爽と洞窟に向かって歩き出すアルバの後ろについて行きながら、こっそりその両腕に回復魔法をかけておく。ケガしてるとまでは思ってないけどさ、それなりにダメージ受けてたら申し訳ないもんね。
「? ハクエン、ここで終わりか?」
魔法に気を取られていたら、アルバが意外そうな声をあげていた。
数歩先を歩くアルバの前には、すぐに洞窟の壁。そしてそこに龍王のためというにはてんでお粗末な、小さな祠が祀られていた。
アルバが問いたくなる気持ちもよく分かる。だってまだ、洞窟に入って三メートルくらいしか歩いてないし。
ここは確かに領主様が言った通り、さほど深くもない洞窟の中に簡易的な祠が作られている、ただそれだけの場所だった。
「もっとデカい洞窟だった筈だが……物理的にふさがれたようだな」
「ご名答」
「ふおっ」
うしろから、またもいきなり賢者サマが現れた。この人っていつも、なんでこうも前触れなしに現れるんだろう。驚くからやめて欲しい。
「アレヒアルの要望でね。魔法陣が人目につかないように、こうして土壁で洞窟を封じたんだよねぇ」
ゆったりと、何事もなかったかのように賢者サマは笑うけど。
「け、賢者サマ……あ、あのあと、大丈夫だったんですか……?」
色んな意味で。
「あのあと? ああうん、もちろん。ちゃんと封印は解除したよー」
「ありがとうございます!」
さすが! うん、そっちはあんまり心配してなかった。多分、賢者サマが本気出したらあの人たちが束になったって敵わないだろうしね。
「ところで、あの……邪魔してた人たちは……? まさか、不死王に乗っ取られたままってわけじゃ」
「あれ、心配なの? あいつらのこと、憎んでるのかと思ってたけど」
「正直恨んでますし嫌いですし、一部、地獄に落ちろと思ってるヤツも居ますけど」
「ははは、正直でいいね」
「でも、生死や安否が気にならない程、どうでもいいわけじゃないんです。……うまく言えないけど」
「そっか、複雑だね。まあ死んでないし、あの特徴的な金髪の子も完全に乗っ取られちゃいないよ。でも、心配なら早くした方がいいかもね。あんまりグレンに預けたままだとあの子、精神壊されちゃいそうだから」
「ええっ!?」
やっぱりヤバいんじゃないの! ぜんぜん、大丈夫じゃないじゃん!
「あはは、じゃあ早速アレヒアルのとこ行こうか、彼も待ってるから」
言うが早いか、賢者サマは洞窟の壁面をいきなり吹っ飛ばす。もうもうと立ち込める土煙に、全員が一斉に咳き込んだ。
目が痛い、喉がざらざらする。
賢者サマ、なぜにすべてにおいて突然なんだよ……!




