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【書籍化】帰れない聖女は、絶対にあきらめない!  作者: 真弓りの


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崖を降りるって……

領主様に感謝の念を送りつつ、岩肌にしか見えない階段を慎重に降りていく。


でもね、ひとこと言わせてもらうけど、やっぱりこの階段はないよ。


だってこの崖、絶対四階建てのビルくらいの高さあるのに、降りる姿勢がほぼロッククライミングじゃん。両手もしっかり使わないと、いつ足滑らせて滑落するか分からないレベルで危険じゃん!


ハクエンちゃんはさすが獣王って感じで、ひょいひょいと跳ねるように降りて行ったけど。アルバも「おー、下見るとヤベエな」なんて言いつつも軽々降りて行ったけど。


くそー、自分だけダメな子みたいで悔しすぎる。


歯を食いしばって恐怖と戦いながら、一歩一歩降りて行けば、ようやく目の端に暗い穴が見えてきた。波の飛沫を感じるくらいだから、かなり下まで降りて来ることができたんだろう。


しかし、もう腕も足も限界だ……。見てよ、このブルブル感。生まれたての小鹿レベルなんですけど。



「キッカ、キツかったら飛び降りろ、受け止めるから!」



アルバ……! なんていい人なんだ……!


ありがたく飛び降りようとアルバの方を見たら、両手を広げて待っていてくれる頼もしい姿が見えた。


ちょっと待って。


頼もしいけど、でもさ。まあまあ距離あるよ? 


多分二階の窓から飛び降りるレベルだし、アルバの足元は三歩も下がれば海だ。確実にアルバを道連れに海にダイブコースだと思う。


いや、まだ早いっしょ。



「も、もうちょっと頑張る……」



せめて、あと二歩、三歩下がってから。そう思うのに、なかなか次の一歩が届かない。


男の人を基準に作ってあるのか、一歩のリーチがデカいこの階段は、私の短い手足では難易度が高いんだよね。次の足場に足が届くまで腕で支えないといけないから、余計に辛いって言うか。


それでもなんとか次の足場に足をかけ、ホッとした瞬間だった。



「うわっ」



とうに限界を迎えてた腕が、なんとも呆気なく、体を支える事を放棄した。



「ばか!」



背中から落ちながら、アルバの焦った声だけが聞こえてくる。


ごめん、アルバ……、


目をつぶった私を襲ったのは、思いのほか軽い衝撃と浮遊感、「ぐっ……」というくぐもった呻き声。


目を明けたらアルバの必死な顔が目の前にあった。


アルバ凄い……受け止めてくれたんだ……!


感動した瞬間、ぐらっと再び体が揺れたかと思ったら、抱きしめられたままアルバを下敷きに倒れる羽目になってしまった。


残念ながら完璧に支えてもらうには少々勢いが強すぎたらしい。


……体重のせいではないと信じたい。



「ちぇ、カッコつかねえなぁ」



アルバは悔しそうな恥ずかしそうな顔をしてるけど、そんなことないのに。アルバの咄嗟の判断力や思わぬ腕力にも驚いたし、人生初のお姫様抱っこにも密かに感動したよ。



「ありがとう、アルバ」



素直にお礼を言ったら、今度はちょっと照れたように笑っている。


なんとなくアルバ、浄化の旅の時より表情豊かになってきたんじゃないかなあ。


そんな変化が、少し嬉しかった。

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