龍王の祠へ至る道
領主様のご厚意で、岬の先端に向かった私達。
街をでて、なだらかな草原を歩いて行くと、やがて削り取られるように切り立った崖が見えてきた。約束通り岬に続く門は開いていて、なんなく進むことができる。
「あれ? 岬の先端についちゃったけど……なんにもないね」
崖の下は海で、穏やかに波が打ち付けている。
「ねえ、ハクエンちゃん、本当にここなの?」
「場所は間違いない」
憮然とした顔されちゃったけど、だってなんにもないんだもん。
あ、でも。
崖から海の向こうを見渡せば、小さな小さな島が見えた。
「あれって……浄化ポイント?」
「それっぽいな」
アルバも同意してくれる。そういえば領主様の書庫で、龍王の城に関する記述、読んだよね。
勇者との壮絶な戦いで大地が削り取られ、彼の治める城ごと海中に沈んでしまった、なんてあの時はとても信じられなかった記述だったけど、この地形……確かにそんな感じするかも。
勇者との闘いがある前は、きっとこの岬と浄化ポイントは、地続きだったに違いない。
「龍王の城って、海中に沈んだって伝承があるんだけど、やっぱり本当なの?」
「ああ、その後ジジイが封じられたのがこの下にある祠だ」
「下?」
「上からは見えぬが、波打ち際あたりにそこそこデカい洞窟がある。海から行くか、崖を降りるかだな」
「マジで」
最悪だ、ロッククライミングの経験なんか皆無なのに、いきなりこんな崖降りるの!?
ちょっと泣きたくなってしまったけれど、日本に帰るためだ、背に腹は代えられない。女は度胸! やってやろうじゃない!
「よし! 降りよう!」
「いやいや、気合だけじゃ死ぬからな?」
気が付けば、せっかく両手で握り拳を作って気合を入れた私を、アルバが呆れた目で眺めていた。
「こっちに、分かりづらいがちゃんと階段がある」
「へっ!? 嘘」
来い来い、と呼ばれてアルバの指す先を見てはみたけれど。
「……これ、階段?」
そう言いたくなるくらい、ただの岩肌に見える。ああでも、確かに足を交互にかけて降りられそうではある。
「多分、階段があることを悟られねえように、カモフラージュされてるんだろう」
なんでまた、そんなことを。と思ったけれど、こんな何もないみたいに見える岬を私有地として誰も入れないように管理していたわけだから、領主様達の家系は、もしかしたらここに何が眠っているのかを知っていて、代々人知れず管理してきていたのかもしれない。
そう思うと、ここに来ることを許してくれた領主様に、改めて感謝の念が湧いて来た。
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ありがとうございます、領主様。私、この港町ルディも、そこに住む人も大好きです!




